2011年5月10日火曜日

書評-「ユニクロ帝国の光と影」⑦

ユニクロの元社員が次のように言ったそうです。

ユニクロにはオリジナルのコンセプトというものがない。
言い換えれば、洋服を作る上での本質がない。

ユニクロのヒット商品であるフリース、ヒートテック、ブラトップとつなげて見ても、どういう洋服を作りたい企業なのかがさっぱり見えてこない。

ユニクロで働いている時も「一流のニセもの」を作っているという気持ちから逃れることはできなかった。

それでも、ユニクロが日本のアパレル業界で圧倒的な強さを維持しているのは、生産管理や工程などについて細かな決めごとを徹底的に実行しているからだ。


この話からすると、ユニクロはオーソドックスな戦略を支える「柱」の部分が突出しているということになります。

ビジネス・モデルとしては特に革新的ではないということです。

ドラッカーは非凡な企業は平凡な仕事を非凡にこなすといっていますが、そういうことであるのかもしれません。

柳井氏は

自分たちで仕様を決め、工場まで出向いて生産管理をやらないと、品質は絶対によくならない。

低価格で高品質の商品を本気で作ろうとしたら、自分たちで最初から最後までやらざるをえないのである。

よく考えれば当たり前のことなのだが、日本では誰も実行していないことだった。

今でも「ユニクロの高品質なんて口先だけだろう。こんな低価格でできるはずがない」という人がいる。

それはこれまでの衣料品流通の常識からすれば当然の感想である。

その常識を変えたのがユニクロである。


このように柳井氏の意識は元社員と違っています。

柳井氏はドラッカー経営を自ら名乗っている人物です。

彼の認識では、ユニクロの経営戦略はドラッカーの言うイノベーションに他ならないわけです。


ドラッカーのイノベーションとは画期的な発明とは違う意味です。

それまであったものを全く別の角度から見ることで、新たな価値・効用を生み出し、それが新しい満足を生み出すことがドラッカー的な意味でのイノベーションです。

つまりイノベーションとは経済的・社会的な意味合いが強い概念であるということです。

立場の違いが大きいのでしょうが、柳井氏の高い目線に元従業員の認識が追い付いていないという感じがします。


(浅沼 宏和)