2009年11月30日月曜日

社会的責任(CSR)の背景

私は会計学で学会活動もしています。


主な関心領域としては内部統制、内部監査、会計史といったものになるのですが、CSR(企業社会責任)についても継続して調査をしています。



企業の社会的責任についてもドラッカーは50年以上も前からその重要性について指摘しています。

彼は社会的責任を企業の主要な目標として考えるべきであると主張しています。



しかし、CSRが社会的な認知を得られるようになったのはごく最近のことなのです。



実際、日本においてCSRが本格化し、マスコミに頻繁に取り上げられるようになったのは2003年以降です。



ちなみにこの2003年は『CSR経営元年』と呼ばれたりします。



もともと日本にも古くから商道徳の一端としての社会的責任という考え方はありました。



例えば、商売上手といわれた近江商人には「三方よし(相手にも自分にも世間にもいい商売)」という考え方がありました。



また江戸時代に心学という学問を創始した石田梅岩は、士農工商と社会的に最低ランクに格付けされていた商人の商売上の道徳は武士にも劣らぬ立派なものであると提唱しました。


そこには社会に対する責任といった考え方も含まれていました。



二宮尊徳が説いた経済と道徳の調和を重んじる報徳思想も社会的責任を重んじる考え方でしょう。



これらはCSRの議論を行う場合、必ず引き合いに出されるものです。


しかし、最近の議論は歴史的にみると明らかに以前の議論とは連続性がないように見えます。


この背景には社会を動かす原理が変化したということがあります。


そうした意味で、CSRはコーポレートガバナンス、コンプライアンス、リスクマネジメント、内部統制といった考え方が重視されるようになったのと同じ背景を持っているのです。


ISOもその歴史を振り返ると同じ背景を持っているのです。


今後はCSRを含めたこれらの概念に関連する話題もしていきたいと思います。

2009年11月29日日曜日

マーケティング―コトラーとドラッカー


前回に引き続きマーケティングについてです。




現代のマーケティング論における第一人者はフィリップ・コトラーです。



彼はマーケティングを初めて戦略的活動として体系的に整理した人物です。


マーケティングが企業の主要な活動として認識されている現在、コトラーの重要性ははかり知れません。



実はこのコトラーはドラッカーのマーケティング概念に大きな影響を受けており、それを自ら明らかにしているのです。



コトラーは、ドラッカーの理論を簡単に実践するための著作である「経営者に贈る5つの質問」においてドラッカーの顧客満足の視点を補足する説明を書いているほどです。



コトラーはドラッカーが企業が自身の事業の定義を絶えず問いただしていくことの重要性を指摘したことを最大限に評価しています。



事業の定義をするということは、その企業全体を説明することにほかなりません。そこで定義された内容をいかに現実化するかという活動がマーケティングに他ならないのです。



コトラーの評価したドラッカーによるマーケティング論への貢献とは



顧客は誰なのか?



顧客はどこにいるのか?



顧客は何を買うのか?



という、一見すると自明のような簡単な質問の重要性をはっきりと示したことです。



これらの質問への解答が実は難しいものであることを認識したところからマーケティング戦略はスタートするのです。



これらに対して当たり障りのない一般的な解答しか思いつかない企業は、独自性のない場当たり的な企業活動をしているということに他なりません。



それが正解であるかは分からないまでも、こうした問いに考え抜いた解答を持ち合わせない経営者についてドラッカーは厳しい視線を向けています。

ドラッカーのマーケティング

ドラッカーは現代社会が組織なくしては回らないと考えました。




ですから組織が適切な成果をあげなければ社会がよくなっていかないことになります。



ドラッカーの有名な定義「企業の目的は顧客の創造である。」もこうした視点からでてきたものです。



そしてこの目的を達成する手段はたった二つしかなく、それこそがマーケティングとイノベーションであるというわけです。



このように言われると「なんだ、営業部と研究開発セクションだけが偉いのか」と誤解されそうですが、実際にはそのような意味ではありません。



ドラッカーはマーケティングとイノベーションという概念を企業の全社的な取り組みの対象と位置付けました。

つまりそれらは経営戦略的な視点から理解しなければならないのです。



ドラッカーはマーケティングと営業の違いを強調します。

営業とは売り込むことであり、マーケティングとは自然に売れていくようにすることであり、両者は全く違う意味であるといいます。



営業とは「はじめに商品ありき」の発想であり、マーケティングとは新たな顧客ニーズ・ウォンツを満たしていく活動であるというものです。



「ニーズ・ウォンツを満たす」という考え方はだいぶ普及しているように思われますが、この営業との相違点については日々の経営の中ではつい忘れられがちになるところではないかと思います。



顧客のニーズやウォンツは日々変化します。



「今日、売れていない商品は顧客の昨日のニーズ・ウォンツに対応しているのではないか。今日売れている商品は明日の顧客のニーズ・ウォンツに対応できるだろうか。」と常に考え続けなければなりません。



こうした視点を抜きにして売り込もうとすることが営業です。

 
マーケティングの理想は営業をなくすことなのです。

2009年11月27日金曜日

ドラッカー経営の難しさ

ドラッカーの影響を受けた経営者は世界中に多数に多数います。
日本ではユニクロの柳井正氏はドラッカー経営を実践していることを明らかにしていますし、リクルートの江副浩正氏もドラッカー信奉者として有名です。

柳井氏のドラッカー経営論は先日NHKでも特集されていましたね。



リクルート社は数多くのコンサルタントを輩出していますが、彼らの著作やセミナーを見るとドラッカーの影響が色濃く残っています。
また日本の著名なコンサルティング会社の何社かはドラッカー理論をモデル化したツールを利用してコンサルティングを行っています。



ドラッカーは初めて体系的なマネジメントの枠組みを提起しただけに、後に続く人たちはその理論を無視することができなかったのでしょう。



ところで目を中小企業に転じてみると、「ドラッカー経営」を標榜する経営者に出会うことはそんなに多くありません。
それはドラッカーの著作の分厚さ、体系的な難解さに原因があるように思われます。



ドラッカーの著作は鋭く含蓄に富んだ言葉に満ちています。
「企業の目的は顧客の創造である」、とか「企業の成果はマーケティングとイノベーションの二つだけから生まれる」とか、短い警句を使ってズバリと経営原則を提示してくれます。



しかし、ドラッカー理論の全体像は壮大であり、一読して理解できるタイプのものではありません。
これが「ドラッカー経営」の実践者を増やさない原因なのでしょう。



他にも理由があります。まず一つには、ドラッカーの著作に見受けられる矛盾の数々です。
著作同士を読み比べて見ると随所に矛盾があることに気付きます。
特定の概念について著作ごとに定義が違っていたり、下手をすると同一著作中であっても違う説明が行われていたりします。
そのためドラッカー理論は読み手の数だけ解釈があるといわれる状況になっています。



この矛盾にはドラッカー自身による思考の深化と時代状況の変化という側面があると思います。
またマネジメントという抽象的概念と実際のビジネスパーソンの具体的行動との間に横たわる曖昧さに関係するようにも思います。



もう一つの理由は「場合分け」の数の多さです。
ドラッカー経営理論の古典三部作をざっと見ると次のような状況です。



1954年の「現代の経営」を見ると、目標の5つの条件、8種類の目標、意思決定の3つの方法、3つの生産システム、組織文化:5つの行動規範、2つの組織原理、企業規模の4段階などが書かれています。



1964年の「創造する経営者」には、企業の3つの本業、業績をもたらす3領域、製品・サービスの11分類、コスト管理の5原則、マーケティングの8つの原則、強みを基礎とする3つのアプローチ、戦略的意思決定をすべき4つの領域、業績を上げる3つの能力などが書かれています。



同じく1964年の「経営者の条件」にも、成果を上げる8つの習慣、エグゼクティブを取り巻く4つの現実、身につけておくべき5つの習慣的能力、時間浪費の4つの原因、貢献に焦点を合わせることで身に着く4つの能力、強みの基づく人事の4原則、GMのスローンの意思決定の4つの特徴、意見の不一致の3つの理由、などです。



上記ですべてではなく、それぞれの理由づけまで含めるといったいいくつの類型化がおこなわれているか数えることもできないほどです。
これが読み手の混乱を招いている原因の一つです。

2009年11月26日木曜日

書評「経営戦略の思考法」



「経営戦略の思考法 -時間展開・相互作用・ダイナミクス-」沼上幹、日本経済新聞社、2009年 定価(本体1900円+税)



沼上氏は一橋大大学院教授で気鋭の経営学者です。


本書はアカデミズムの視点と実務的視点のバランスを取りながら体系的にまとめられたすぐれた経営戦略論となっています。


本書は第Ⅰ部から第Ⅲ部に分けられており、それぞれ、従来の経営戦略論の整理、戦略思考の解剖、戦略の実践について書かれています。

私は本書の最大の有用性は第Ⅰ部にあると考えます。


沼上氏は第Ⅰ部において、従来の経営戦略論を①戦略計画学派 ②創発戦略学派 ③ポジショニング・ビュー ④リソース・ベースト・ビュー ⑤ゲーム論的アプローチ の5つに類型化しています。

この5類型は沼上氏の大きな知的貢献であると思います。


①の戦略計画学派の代表選手はアンゾフで、一般的にイメージする事前に詳細に作成する経営計画はこのイメージになると思います。


②の創発戦略学派の代表選手はミンツバーグであり、現場からボトムアップ的かつ事後的に形成されてくる戦略という視点です。


ミンツバーグは世界的には有名ですが、日本においては一般によく知られているというほどではありません。

私はかねてよりミンツバーグの著作を愛読しており、その評価が高まらないことを不思議に思っていました。

本書で沼上氏がボトムアップ型の創発戦略を戦略計画学派に対抗する位置付けを明確にあたえている点に深く共感を覚えます。


③のポジショニング・ビューはポーターの競争戦略論が代表で、④のリソース・ベースト・ビューは、プラハラードとハメルの「コア・コンピタンス」概念に代表される企業独自の資源(=強み)に焦点を当てた戦略論です。

最後のゲーム論的経営戦略は、最近の経済学の流行を取り入れた最新の理論動向といえるでしょう。


戦略論の概念整理については②の代表選手であるミンツバーグの著作「戦略サファリ」が従来もっとも重要といえるものでした。
そこでは経営戦略論を10もの学派に類型化しています。

しかし、あまりに類型が多すぎて実用的ではないという印象がありました。

その点沼上氏の類型化はシンプルかつ明確であり有用性が高いと思われます。


沼上氏はそれぞれの戦略タイプをお互いに補完しあう関係にあると考えており、その点で実務的な側面への貢献も大きいと思います。


私見ですが沼上氏の5類型のうちゲーム論的アプローチ以外の4つの類型はすべてドラッカーの経営理論の中でバランス良く取り扱われていると思います。


ドラッカーは手順にのっとって戦略計画を作成することも重視しています。

また現場の状況をよくくみ取って計画を修正していく柔軟さも持ち合わせています。

これは創発戦略学派の視点と調和します。


また「強み」を重視する点においてハメルとプラハラードと同一線上にありますし、市場の中におけるポジショニングの視点はポーターと重なる部分でしょう。


沼上氏の著作を読むとドラッカーの偉大さが改めてわかる気がします。

ドラッカーの評価

ドラッカーが提起したといわれる概念は多岐にのぼります。「経営戦略」「民営化」「知識労働者」「目標管理制度」等は彼の提唱した言葉として知られています。




またマーケティングの大家、レビットやコトラーに先立ってその重要性を指摘したのはドラッカーです。
経済学の分野でシュンペーターの主張したイノベーションの重要性に着目し、マネジメントの中心的概念として新たに位置づけたのもドラッカーです。



彼はこのマーケティングとイノベーションの二つだけが企業の成果を生み出す活動であると提唱し、それは企業の外に対して働きかけるものであると断言しました。
つまり企業の内部にはコストしか存在しないわけですから、それまで曖昧であった経営者が持つべき視線の方向がはっきりしました。



ドラッカーはマネジメントのあらゆる分野について原則を述べ、現代のマネジメントの骨格を一人で築き上げたといってもよいほどの実績を残しました。
特に1954年の著作『現代の経営』は史上初めての体系的なマネジメントの書物として有名で、そのためドラッカーは「マネジメントを発明した男」と呼ばれています。



これほどの足跡を残したドラッカーですが学会での評価は必ずしも高くありませんでした。
彼が経営者向けの著書やビジネス誌を中心に書き続けていったため、いわゆる学会誌における実績がなかったのです。そのため経営学の専門書の多くにはドラッカーが登場しません。
世界の経営者の圧倒的な支持と実に対照的で状況です。
研究者の世界の特殊性を感じざるを得ません。



しかし、ドラッカーが世を去り生誕100周年を迎えた今年になって変化の兆しが見えてきました。
その最たるものが経営専門雑誌『ハーバード・ビジネス・レビュー』の11月号が大々的にドラッカーの特集を組んだという事実です。
同誌はその名のごとくハーバード大学のマネジメント専門誌です。



大学の頂点に君臨するハーバード大学の影響は大きいと思います。
これは経営学の世界がようやくドラッカーを認めようとしていることの表れのような気がします。
この顛末は今後も注目していきたいと思います。

2009年11月25日水曜日

ブログを始めます

ブログ全盛の時代ですので、遅ればせながら私も始めようと思います。

タイトルは「ドラッカー経営」となっていますが、マネジメント全般のよもやま話を書いていこうと思います。



さて、やはりタイトルがドラッカーですから少し紹介しておきます。



ドラッカーは「マネジメントを発明した男」として知られる20世紀最大の経営思想家です。現代の経営者・コンサルタントが日々使っている経営コンセプトの過半も元をたどるとドラッカーに行き着きます。

色々なセミナーを受講すると「これはドラッカーの言葉の焼き直しだな」と思う個所が必ずあるほどです。ドラッカーの考え方は気付かぬうちにビジネス界に深く浸透しています。



 しかし、実際にドラッカー理論を意識している人はそれほど多くないと思います。無意識にドラッカーの言葉を用いつつ、本人もそれに気がついていなかったりすることもしばしばです。
そこでこのブログを通じてドラッカー理論について色々と考えたことを述べていきたいと思います。



 私はビジネスパーソンとしてのスタンスを決める際にドラッカーの理論を最も重視しています。
もちろん戦略論のポーターや、マーケティング論のコトラー、ブランド論のアーカーを始め、主要な経営学者の著作は意識しますし、また注目を浴びたビジネス書などにも影響されています。
しかし、あくまで基本とするのはドラッカー理論です。



ドラッカーは1909年11月19日に生まれ、2005年11月11日に亡くなりました。
今年はドラッカー生誕100周年に当たり、ドラッカーに関連する各種著作が刊行され、雑誌でも特集が組まれました。おそらくドラッカー理論はこれから再評価が進んでいくと思います。












 ドラッカー理論とは、一言で言うと「経営にまじめに取り組むための心得」のようなものであると思います。その通りにやれば必ず成長企業を作れるというタイプのものではないのですが、彼の言葉に反した経営をすると手痛いしっぺ返しにあうでしょう。

このブログを通じて私も「手痛いしっぺ返しを受けない」ように考えをまとめていきたいと思います。