2011年2月25日金曜日

戦略ストーリー作成の注意点(上)

今週は多忙を極めたため更新が滞りました。

楠木氏は戦略ストーリー作成の注意点をあげています。



① エンディングから考える。

実現すべき競争優位のタイプとコンセプトの二つをはっきりとイメージすることが大事です。

この二つが明確であると、それを支える構成要素との一貫性を保持しやすくなるといいます。

ひとたびコンセプトが確立されたら、あらゆる打ち手は構成要素と明確な因果関係でつながっていなければなりません。



② 「普通の人々」の本質を見つめる

コンセプトを作る上では「誰に嫌われるか」という視点が大切であるといいます。

誰からも愛されることはだれにも愛されないことと同じであるといいます。

普通の人がほしがるものを価値の中心に据えるとよいといいます。

しかしながら、コンセプトは「今そこにある価値」を超える必要があります。


③ 悲観主義で論理を詰める

打ち手をつなぐ因果論理を詰める時は悲観主義で臨むべきです。しかし、コンセプトについては楽観主義である必要があります。

悲観主義で臨むとは、仕事の現場にいる人々の目に映るシーンを思いうかべるとよいといいます。

ヒト・モノ・カネの制約に苦しんでいる会社であるほど、ストーリーが本当に稼働するか打ち手をつなぐ論理を突き詰めて考えざるをえません。

成功が持続している企業の戦略ストーリーは、さまざまな打ち手が明確な因果関係でがっちりとつながっている一方、一つの打ち手はわりと地味に見えるそうです。


(つづく)



(浅沼 宏和)

2011年2月21日月曜日

閑話休題-人生に失敗する18の錯覚

『人生に失敗する18の錯覚』加藤英明・岡田克彦著、講談社、2010年

まだ読んでいないので書評は書けませんが、面白そうな本なのでそのうち読んでみたいと思っています。

人生に失敗をもたらす錯覚として次のような原則を紹介しているそうです。


運による結果を努力による実力と錯覚する。


みんなと同じ行動をとる群衆心理に陥ると、自分の誤りに気づかなくなる。


同じ事件のニュースを繰り返し聞かされていると、同じような事件がいつも起きているような気がしてくる。


人間は合理的に行動しない。たとえば投資家は気分に左右されて投資の意思決定をしている。


損失を回避したいという強い思い込みが、かえって損失を大きくする。


成功すれば自分に能力があった、失敗すると運が悪かったと自分に都合よく考える。


自分で考える習慣を忘れ、全面的に専門家の意見に頼ってしまう。


などです。

「なるほど!」という感じのものも多そうです。


この本は行動経済学という新しい経済学をベースにしています。

私は行動経済学にはここ数年強い関心を持っていますので、後日、本書を読んだらまた書評を書きたいと思います。



(浅沼 宏和)

2011年2月19日土曜日

スターバックスの戦略ストーリー

次に、スターバックスの戦略ストーリーを見てみましょう。



ドトールコーヒーは低コストに競争優位を求め、低価格でおいしいコーヒーが飲めることが売りになっています。


これに対してスターバックス顧客が払ってもよいと思う金額の水準(Willing to pay: WTP)を高めることを競争優位の目標においています。

顧客がより高い金額を支払ってもよいと考える理由があるということは、スタバにはそれだけのプラスアルファがあるということです。


その本質となるコンセプトは「第三の場所」というコンセプトにあります。
これは職場でも家庭でもない、第三の場所という意味です。

スタバの創業者のシュルツ氏は、過剰な緊張を伴う社会となったアメリカでは、職場での競争のプレッシャーが強く、家庭でもいろいろな問題があると考えました。

そうした状況にある人々に、「第三の場所」を提供しようと考えたのだそうです。


ドイツにはビアホールがあり、イギリスにはパブがあります。フランスイタリアにはカフェがあります。

ヨーロッパには『人々が安心して集える避難場所』が確立しているのにアメリカにはない。
そこにシュルツ氏はビジネスチャンスを見出したのです。

こうした競争優位コンセプトを支える構成要素は次のようなものです。




1 店舗の雰囲気

ゆったりとリラックスのできる雰囲気の店舗は「第三の場所」を実現するのに不可欠です。
間接照明、緩やかなBGM、座り心地の良い大きめのソファー、1人当たりの広い面積
音を立てないために紙コップ等を使う配慮


2 出店と立地

プレミアムな場所(銀座・丸の内・大手町・六本木など)への集中出店。
後にはいろいろな場所に出店したが、当初は高級なイメージを与える場所にだけ出店していた。

オフィスで神経をすり減らしているビジネスパーソンが「第三の場所」でくるとぐというストーリーを描いているため、入店してくるまではお客さんがなるべくハイテンションになっている場所を選んでいる。

特定の地域には特に集中させて(クラスタリングという手法)、店舗そのもののイメージをお客さんに植え付けるというプロモーション手法をとっている。そのかわり広告への投資を抑えている。


3 オペレーション形態

原則として店舗はすべて直営方式を採用。
「第三の場所」というコンセプトを実現し、維持するためにはサービスの様々な側面で細かいコントロールが必要となる。そのためには直営方式の方が便利。


4 スタッフ

スターバックスでは店舗のスタッフを「バリスタ」と呼ぶ。
訪れるお客さんをほっとさせるバリスタの振る舞いが特に重要となる。

バリスタはおいしいコーヒーを入れるだけではなく、お客さんとのコミュニケーション、気の利いた応対や珈琲についての深い知識の提供なども求められている。


5 メニュー

高品質のコーヒーは「第三の場所」であることの必須条件。
こだわりの豆、訓練されたスタッフが標準化されたプロセスで、お店ごとの質のばらつきをなくしている。

メニューには、ラテ、カプチーノ、マキアート、コンパナなどアメリカ人には聞きなれない商品を取り入れた。「普通のコーヒー」という印象を前面に出さないことで、「第三の場所」としての印象をより深めている。

フード類にはあえて力を入れていない。力を入れるとドトールのように「効率的な食事場所」という印象を与えてしまうリスクがある。

長期的な顧客価値増大のために短期的利益を犠牲にしている。




これら5つの構成要素はいずれも重要で、それぞれが相互にパスを出し合いながら「第三の場所」というコンセプトを力強く支えるストーリーとなっています。


(浅沼 宏和)

2011年2月18日金曜日

ガリバーの戦略ストーリー

楠木氏は中古車買い取り専門のガリバーを例にとって優れた戦略ストーリーを説明しています。


ガリバーが意図した競争優位の源泉は「低コスト」です。

従来の中古車業者のやり方と比べてはるかに低いコストのオペレーションを確立したことがガリバーの持続的利益の源泉です。

低コストを実現したのが「買い取り専門」というユニークなコンセプトでした。

中古車業者は販売に軸を置く事業モデルです。買い取りは単に「仕入れ」と位置づけられるものにすぎませんでした。

これに対してガリバーは180度異なる戦略を立てたわけです。

ガリバーが買い取った車は即座に中古車業者向けのオークションに流されますので、在庫リスクもなく、確実に利益を上げるビジネスモデルになるわけです。

以下、戦略ストーリーの5Sにもとづいて整理します。

1 競争優位

買い取り専門のポジションをとることで、従来のやり方に比べてコストとリスクを同時に削減できるというのがガリバーの意図した戦略です。

2 コンセプト

「買い取り専門」という言葉に端的に表現されています。これは従来の中古車業界にまったくない発想でした。

3 構成要素

・本部一括査定
・短期在庫
・展示場を持たない
・出張査定
・査定価格自動算出システム
・積極的なマスプロモーション

これらの構成要素は買い取り専門というコンセプトを実質的に支えるものとなっています。

4 一貫性

各構成要素の因果論理が非常に強固で、ストーリーの流れに無理や破たんがありません。つまり一貫しています。

5 クリティカル・コア

「買い取り専門」というコンセプト自体がクリティカル・コアです。


ガリバーのとった戦略は、いわゆる中古車業界の玄人の眼から見ると非合理な側面が目につくものです。しかし、戦略ストーリー全体でみるとまったく無理がなく、実に革新的なビジネスモデルといえるのです。



(浅沼 宏和)

2011年2月17日木曜日

戦略ストーリーの5S

楠木氏は優れた戦略ストーリーの要素を明確にしています。

それは次の5つの要素です。



1 競争優位 ‥利益創出の最終的な論理

これは話が簡単で、①顧客が価値を認めるもの ②低コスト ③無競争状態 のいずれかを構築することであるといいます。

最終的な戦略目的はこの3つのどれかを実現することで達成されるわけです。


2 コンセプト ‥本質的な顧客価値の定義

とどのつまり、「誰に何を売っているのか?」を明確にすることだそうです。ドラッカーの戦略論と全く同じですね。


3 構成要素 ‥競合他社との違い、もしくは組織能力

戦略ストーリーをサッカーに例えると、構成要素とは最終的にシュートに持ち込むためのパスのルートの多さのことだそうです。

多様な選手がそれぞれシュートにつなげるために役割分担をするように、競争優位を支える諸要素のことです。


4 クリティカル・コア ‥独自性と一貫性の源泉となる中核的な構成要素

構成要素の中でも最も重要なものをいいます。次の一貫性の中核に位置するものでもあります。

サッカーで言うと「キラーパス」に該当するものです。


5 一貫性  ‥構成要素をつなぐ因果論理

優れたストーリーは強く、太く、長いといいます。


「強い」とは構成要素同士の因果関係が強力であるということです。

「太い」とは構成要素同士のつながりの数(相互関係)が多いということです。

「長い」とは時間軸における拡張性・展開性が高いということです。



これだけではわかりにくいですね。

明日は、中古車買い取り専門業のガリバーの戦略ストーリーの分析を説明します。

私はドラッカーの戦略論を図式化したものを考案しましたが、それを実務でより使いやすくするのに楠木氏のアイディアが応用できると考えています。


(浅沼 宏和)

2011年2月16日水曜日

戦略はストーリー

楠木氏は、良い戦略とはストーリーで表すことができるものであるという視点を提起しました。

これは、従来のシナリオ的な戦略論とはまた違ったものです。


ストーリーとしての競争戦略論は、「違い」と「つながり」という二つの戦略の本質のうち、後者に軸足を置いています。

‥‥

ストーリーとしての競争戦略は、さまざまな打ち手を互いに結び付け、顧客へのユニークな価値提供とその結果として生まれる利益に向かって駆動していく論理に注目します。


これだけでも、結構期待できます。いい展開が予感されます。


戦略をストーリーで語るということは、個別の要素がなぜ齟齬なく連動し、全体としてなぜ事業を駆動するのかを説明するということです。


私は戦略というものの説明をどのように行うべきかを悩み、ドラッカー理論の構造を成果の3つの領域とそれを支える生産性、さらには資源としてのヒトモノカネという土台、という図式化を思い立ちました。

問題なのは、それを具体化する戦略作成作法でした。

楠木氏の立論は、その課題に相当明確に答えるものでした。


(浅沼 宏和)

2011年2月15日火曜日

書評-『ストーリーとしての競争戦略』

楠木建 「ストーリーとしての競争戦略」東洋経済社、2010年、 定価2800円+消費税  


これは名著です。ただし、読み切るにはかなりの根気が要ります。私も久しぶりに根をつめて読んだ本です。おかげでブログ更新が滞ったほどです。

ただし、この本を読むのはよほど経営学に関心が深い人でないと、意味がないかもしれません。
有る程度の基礎知識がないと何を言っているのかさえわからないおそれがあります。

しかし、一橋大には沼上幹教授という名うての経営学者もいますし、この本を読んで現在の一橋のマネジメント論のレベルの高さを実感した次第です。

まず、端的に言って本書はドラッカー経営とよくマッチする構造を持っています。

そのうえ、ドラッカー理論の不備を補う視点を多数持っています。

この本については、なるべくじっくりと検討を行いたいと思います。


まず戦略論としての基本的な構造だけ説明します。

楠木氏は、ポーターの競争戦略論と、ミンツバーグの創発的戦略論、そしてハメル&プラハラードのコア・コンピタンス論をうまくミックスしています。この視点には沼上氏と似たバックボーンの存在を感じさせます。

特に楠木氏のこの3つをミックスさせる視点は、私もドラッカー経営を理論化するうえでこの3つの視点と考えていたので意を強くした次第です。



(浅沼宏和)


2011年2月13日日曜日

「職場の教養」2月号

『職場の教養』の2月号からの抜粋と感想です。



1日の区切りをつけることが翌朝のさわやかな目覚めにつながる。

私はドラッカーの時間管理論の観点から、手帳を使って1日の仕事の成果を書き出して区切りをつけるようにしています。まだまだ改善の余地がありますが。



成功の秘訣は別に変ったことではない。思い立ったらやめない。できあがるまで止めない。

南極探検を成し遂げた白瀬中尉の言葉です。ごもっともな話で天才以外はこれが成功の秘訣のように思います。



妥協がもたらす結果に良いことはない。物事を着実に進めている人は、当たり前のことをきちんと続けている。

甘えによって崩れた原則は立て直すことが難しくなります。



後始末ができていない職場は全体的に効率が悪く、ミスが生じ、最後には信用を失う。

その通りですね。環境整備は仕事のレベルを上げる基礎条件であると思います。



基本形とは先人が長い年月を経て培った経験に基づいて導き出されたもの。

基本形を身につけるには量をこなすことであると思います。量をこなせない人は基本が身についていない人です。行動に無駄があるので物理的な量がこなせないということです。

2011年2月11日金曜日

問題やトラブルのダンドリ

トラブルには真っ先に対応する。ダンドリの乱れが最小限で済む。

トラブルこそ最も緊急性の高い仕事。真っ先に対応してこそ全体の段取りも最適化されるということです。


前日確認でトラブル発生のリスクを減らそう。

自分の責任ではないトラブルに遭遇しても最優先で取り組む。

これは全体最適とか、組織全体の成果という視点があれば当然の話です。

責任の範囲への意識は野球の守備範囲に近いのではないかと思います。成果をあげる人は守備範囲(責任を負うと考える範囲)が広いものです。


手に負えない問題でも自分なりの解決策を持って上司に相談に行く。

間違ってもいいから自分なりの解決策を持ってきて相談する。こうした構えがビジネスパーソンとしての器を大きくすると思います。


解決できない問題は自分に降りかかってこない。

仕事のできる人のところに仕事は集まる。

こうした構えを持っていれば、自然と仕事はできるようになるのでしょう。



(浅沼 宏和)

マーケティングとイノベーションの意味③

ということで、ドラッカーのマネジメント論の骨格を単純化させたものを提示してまとめたいと思います。


ドラッカーのマネジメント概念

≒ 顧客の創造を目指した取り組み

≒ 成果をあげる体系的取り組み
  
≒ 成果の3領域(市場顧客・商品サービス・流通チャネル)をバランスさせる取り組み

≒ 現在・未来の双方の視点で成果の3領域のバランスを取る取り組み
 
≒ 広義のマーケティング(現在視点で3領域のバランスをとる)プラス広義のイノベーション(未来視点で成果の3領域のバランスをとる)


と次々と言い換えることが可能です。

この図式からは多くの細かい要素が抜け落ちていて、厳密にイコールで結ぶことは難しいのですが、基本的図式としてはこれで間違いありません。

ドラッカーの体系は大きく複雑で理解しにくい面が多々ありますが、この図式を念頭に置いて読んでいけば、かなり理解しやすくなるのではないかと考えています。

この単純化は、ドラッカー理論の理解について私が行ったイノベーションです。


経営については、コトラーのマーケティング論、ポーターの競争戦略論、ハメル&プラハラードのコア・コンピタンス、チャン・キム&モボルニュのブルーオーシャン戦略、‥等等さまざまな理論があります。

しかし、ほとんどすべての経営理論はドラッカー理論のどこかに当てはめて考えることができます。

ドラッカーほど器の大きい理論は他にありません。

ドラッカーを読んですべてうまくいくわけではありませんが、その他の理論をこの図式で位置づけながら考えることは非常に有効であると思います。

何より、色々な理論の意味を自分の頭で評価する視点を提供してくれるのがドラッカー理論の長所です。


(浅沼 宏和)

2011年2月10日木曜日

マーケティングとイノベーションの意味②

次に同じく『現代の経営』を元にしてドラッカーのイノベーションの意味を考えてみます。



マーケティングだけでは企業は成立しえない。静的な経済の中では企業は存在しえない。


企業は発展する経済においてのみ存在しうる。
少なくとも変化が当然であり望ましいとされる経済においてのみ存在しうる。
企業とは、成長、拡大、変化のための機関である。


企業にとって、より大きなものに成長することは必ずしも必要ではない。
しかし、常により優れたものに成長する必要はある。


イノベーションは事業のあらゆる局面で行われる。


‥したがってイノベーションもまた、マーケティングと同じように独立した機能と考えてはならない。
イノベーションは、技術や研究に限定されるものではなく、事業のあらゆる部門、機能、活動にかかわるものである。


‥顧客の欲求を満足させる新しい方法を生み出し、価値のコンセプトを変え、より大きな満足を可能とするイノベーションの可能性である。


以上からイノベーションの要素をまとめると


イノベーションも最終目的「顧客の創造」にかかわる基本的機能である。

イノベーションは企業の変化や未来にかかわる活動である。

イノベーションは全社的活動である。

イノベーションは新たな顧客満足にかかわるものである。



ということになります。

私はそこからイノベーションについて、マーケティングの説明と同様に

イノベーションとは、未来の視点から成果の3領域(市場顧客・商品サービス・流通チャネル)のバランスを取ろうとする全社的活動である。

と再定義したわけです。

ドラッカーは、その後、マーケティングについて独立した著作は書きませんでした。

しかし、イノベーションについては『イノベーションと起業家精神』として体系的にまとめました。

つまり、現在の視点より未来からの視点のほうを重視したということができると思います。

経営用語は論者によって違った意味で使われますが、ドラッカー理論はもはやデファクト・スタンダード化しつつあります。ですからドラッカー的意味での理解もしておく必要があるでしょう。


 
(浅沼 宏和)

2011年2月9日水曜日

マーケティングとイノベーションの意味①

最近、マーケティングとイノベーションの定義について質問を受けたので、改めて整理しておきたいと思います。

ドラッカーの用語は、広い意味で使われていたり、逆にごくせまい意味で使われたりします。

ですから場合に応じて読み分ける必要があります。
しかし、ドラッカー理論の全体像を把握する点からは初期の代表作『現代の経営』(1954年)の記述が重要です。

主要な個所を抜き書きして解説します。


まずはマーケティングの意味です。


企業の目的が顧客の創造であることから、企業には二つの基本的な機能が存在する。すなわち、マーケティングとイノベーションである。
この二つの機能こそ起業家的機能である。


‥当時のマーケティングについての典型的な考えは、「工場が生産したものを販売すること」だった。
今日では、それが「市場が必要とするものを生産すること」に変わりつつある。


マーケティングは企業にとってあまりに基本的な活動である。
‥‥マーケティングは販売よりもはるかに大きな活動である。
それは専門化されるべき活動ではなく、全事業にかかわる活動である。
まさにマーケティングは事業の最終成果、すなわち顧客の観点からみた全事業である。


以上の内容には次の要素が読み取れます。


マーケティングは最終目的「顧客の創造」にかかわる基本的機能である。

マーケティングは市場の視点に立つ活動である。

マーケティングは全社活動である。

企業のマーケティング事業部の「マーケティング」概念は、ドラッカー理論では「販売」に当たる場合が多い。


その後の1964年の『創造する経営者』では、成果は市場・顧客、商品・サービス、流通チャネルの3つの領域のバランスによって実現されると書かれています。

そこで私はドラッカーのマーケティングの概念を

現在の視点から成果の3領域(市場顧客・商品サービス・流通チャネル)のバランスを取る全社的活動

と理解して再定義したわけです。

つまりマーケティングとは全社的な経営戦略であることになります。

マーケティングを全社的経営戦略ととらえる視点からは、その後、マーケティング理論の大御所のフィリップ・コトラーが体系化しています。

ドラッカーはコトラーに先駆けて極めて現代的なマーケティングの定義を行ったわけです。



(浅沼宏和)

2011年2月8日火曜日

深田氏のマネジメント批判への反論

先週後半は深田氏の著作に基づいてマネジメント批判について検討してきました。

深田氏のマネジメント批判の対案が

①勘・経験・度胸の重視

②他人が変わるより自分が変われ

の二つだけであるならば、マネジメント批判としては弱いのではないかと思いました。


確かに多くの経営者が経営の本質的な問題に取り組むというよりは経営ツールや手法の導入に気を取られている現状があるのかもしれません。

もしそうならば、手段と目的の取り違えですから大いに批判されてしかるべきです。

しかし、そうした現状の責任が「マネジメント論」全体にあるという主張は議論のすり替えであると思います。


ドラッカーのマネジメント論には深田氏が処方箋としてあげた二つの柱も含まれていると思います。


ドラッカーが「マネジメントを発明した男」と呼ばれるきっかけとなった1954年の『現代の経営』から深田氏の見解を覆す記述をいくつかあげたいと思います。

現代の経営でドラッカーは、事業をマネジメントの3つの側面をあげています。

① 事業のマネジメントは起業家的でなければならない。管理的・政策立案的仕事であってはならない。

② 事業のマネジメントは環境適応的ではなく創造的仕事でなければならない。

③ マネジメントは業績によって評価される意識的活動でなければならない。


この定義を読むだけでも深田氏の認識の誤りは明らかですね。

本書を読んで思ったのは「ドラッカーは誤解されやすい」ということです。

こうした基本的な誤解を解いていかなければ、せっかくのドラッカーの知的貢献が無駄になってしまいます。

このようなマネジメント批判が行われるのは「もしドラ」現象の負の側面ではないかと思います。


(浅沼宏和)

2011年2月7日月曜日

ユニクロ失速のニュース

1人勝ちを続けてきたユニクロ(ファーストリテーリング社)の業績に陰りが出ています。

2010年8月以降、5か月連続で売上高が前年割れを起こしているそうです。

私は何社かずっと観察を続けている企業があるのですが、ユニクロはその代表格です。


この点について週刊ダイヤモンド2011.2.5号で特集がなされているので、簡単にまとめます。

08年のリーマンショック後、ユニクロは3つの追い風によって1人勝ちの構図を作った。

(ユニクロ1人勝ちの理由)

①不況による消費者の低価格志向

②ヒット商品(ヒートテック)

③ファストファッション・ブーム

世界同時不況で、消費マインドが一気に冷え込み、消費者はひたすら価格を追い求めるようになった。そのため低価格と高品質を両立させたユニクロが消費者の心をつかんだ。


(昨年夏からの失速の理由)

・2010年2月に満を持して投入した新ジーンズブランド「UJ」の失敗。 ⇒ 「表面的なファッションに走り過ぎた」との反省の弁 ⇒ 結局、2010年はヒートテックに次ぐヒット商品は生まれなかった。

・消費マインドの変化 ⇒ 消費者が価格一辺倒に走ったため同質化が進んだ。そのため差別化にお金を使おうとするマインドに変わった。⇒ 百貨店に客が戻りつつある


(総評)

ユニクロのビジネスモデルは大きなロットで委託工場に発注した商品をすべて買い取ること。

それによって、高品質低価格の商品提供ができる。
このモデルを支えるのが商品をすべて売り切る強力な販売力。

ただし、大きなロットで作りこむため、想定より売れなかった場合、大量の在庫抱え込みが発生する。

また商品ラインの絞り込みには1年近くの時間をかけているためUJの失敗からの軌道修正にかなり時間を要するとの観測がある。

対する大手アパレルは消費マインドの回復を追い風に付加価値をさらに高めたラインアップを強化する予定。



消費者の価値観がリセットされ、市場が混然一体となっている中で、それぞれの企業がどのような住み分け方をしていくかが注目されるとのことでした。

社長の柳井正氏は、ドラッカー経営の実践者として第一人者です。

今年の動向には要注目ですね。


(浅沼 宏和)

2011年2月6日日曜日

ダンドリを改善する

重茂氏の著作の検討です。




仕事は緊急なものからとりかかる。重要度は関係ない。


この原則はドラッカーの時間論とは対極に見えます。

しかし、私は雑務をかたずけて、まとまった時間を生み出すための原則としてとらえればよいのではないかと思います。


スケジュールに予備時間は必要ない。

最初から、予備時間を想定するような仕事ぶりでは仕事の能力が低下するということです。

これは傾聴に値する原則です。なにせ仕事は量をこなすのがまず基本ですから。


1週間、1か月のダンドリは人と会う仕事を軸に組んでいく。

デスクワークの段取りは1日単位で考えて、人に会うダンドリを少し長いスパンで決めてそれを前提に動くということです。



ダンドリは変化するものと心得る。完璧主義ではいけない。

デスクワークは1日単位、人と会うことは週、月単位で考えるだけです。後は大まかな流れや外せないポイントだけを決めて、状況に応じて即断するやり方がよいと述べられています。

私も同感です。


(浅沼 宏和)

2011年2月5日土曜日

タイムマネジメントに必要なこと

仕事術の本は数多くありますが、アデコの社長であった重茂 達(おもいとおる)氏の『ダンドリの手帳』は、なかなか良いことが書いてあります。

これから折に触れてご紹介していきたいと思います。


タイムマネジメントだけでは時間に追われる。「想像」「準備」「対応」を


想像・準備・対応がダンドリの基礎というのが筆者の考えです。

展開を想像し、望む結果のために準備し、想定外のことに対応するのが仕事の基本ということです。

ダンドリが下手な人は、一つの経路しか想定していないため、予想外のことが起きるとパニックになり息詰まります。

その他の原則もあげておきます。

●仕事は発生した順番に手をつける

  仕事を後回しにすると効率を損なう。

●その日の仕事はその日のうちに。決して持ちこさない。

  極限まで自分を追い込んでこそ、本気でダンドリ改善に取り組める。

●仕事を効率化するだけではアウトプットは増やせない。
 
  目標はアウトプットを増やすこと。そうすることでダンドリの技術が磨かれる。
  絶え間ない努力だけが人を成長させる。

●とにかく量をこなそう。

  「拙くても早い仕事か、質が高いが遅い仕事か」で悩む人は仕事の量が足りていない。


(浅沼 宏和)

2011年2月4日金曜日

再考・ 勘と度胸と経験の経営

深田氏は「勘と度胸と経験の経営」が今、求められているのだと主張します。

この問題点については昨日も検討しましたが、もう少し深掘りしてみたいと思います。



未来を見通すことは困難で、詳細なプラン通りに物事が運ぶはずもありません。

ですが、プランがなければそれは「行き当たりばったり」の経営になるのではないでしょうか。

プランとは何をするかを決めることで、それがなければ毎日の仕事の中で成果をあげることは難しいのではないかと思います。

そこで、ドラッカー的に「考え抜く」という視点でマネジメントを検討してみたいと思います。



視点① 経営環境の変化

先月のブログにも書いたのですが、かつての高度経済成長のころとは経営環境が全く違います。

当時は、中の上を目指していれば普通に黒字経営になりました。しかし、今は黒字企業の比率が2割をちょっと超える程度にまで厳しくなっています。

ここで求められるのは他に例を見ないオンリーワン経営です。

勘と度胸と経験でオンリーワンになることはなかなか難しいことと思います。

ドラッカーは、今できることをすべてやる。創意工夫を凝らし、次々と打ち手を打つ中で、思わぬ出来事や思わぬ成果が上がる。そこに「強み」がある。

強みを見つけたらそれを磨きぬき、卓越性を持つものとする。

これがドラッカーのイノベーションの一側面です。


視点② 時間管理の本質に着目

勘と度胸と経験もよいのですが、一番肝心なことは「何をするか」です。今日これから何をするかを勘で決めるのでしょうか?それは違うと思います。

ドラッカーは最重要経営資源であるヒトは、時間知識に分解できるといっています。

特に最大の制約条件である時間を何に投入するかが大切です。時間管理の本質はアクションプランの明確化ですから、勘と度胸と経験といういい方はここに誤解を生じさせると思います。



最後に、ドラッカーの次の言葉で締めくくりたいと思います。



ナポレオンは「アクションプラン通りに事が運んで勝利したことはない」といった。

しかし、彼は史上例のない緻密さでアクションプランを作っていた。

アクションプランなしではすべては成り行き任せとなる。

                    ‥‥『経営者の条件』より





(浅沼宏和)

2011年2月3日木曜日

深田氏の「マネジメント信仰」批判

深田和範氏のマネジメント信仰批判の概要は次のようなものです。



マネジメントが下手だから会社が傾くのではない。

マネジメントなんかに頼ろうとするから会社が傾くのである。

本業で稼げない時に人事制度や情報システムを精緻化させて何の意味があるのか。

どんなに見栄えの良い事業計画を作っても、経営者に「意思」がなければ机上の空論である。




深田氏の意見はドラッカー本来のマネジメント論と合致しています。

しかし、深田氏はドラッカーのマネジメント論を実行しようとすると上記のような状態に陥ると考えています。

それはここでいったん置いておいて、深田氏の著書の内容をまとめていきます。


・経営者やホワイトカラーが社内のマネジメントばかりにこだわって企業の本質であるビジネスをおろそかにしているために業績悪化に拍車がかかっている。

・以前の日本企業は、マネジメントではなくビジネスを必死に追求していた。

・ビジネスが付加価値を生み出すことができない状態に落ち込んでしまえば、どんなマネジメントを行ったところでムダである。


・マネジメントがビジネスをダメにしている現状

症状① 意見はあっても意思はなし

・ビジネスには行う者の意思が必要。意思がなければ人間は行動を起こさない。

・「真似ジメント」の弊害。最近、マネジメント本に書いてあることをそのままマネする会社が多い。


症状② 都合のよいことばかり考える

・雰囲気で方向性が決まる。一度決まるとその方向性に沿うようなことばかり考える。

・反対意見がでることを嫌う。


症状③ 管理はするけど無責任

・何事においても内容より形式が重視される。

・形式的なことや目立つことはするが当たり前のことはできなくなる。


症状④顧客よりも組織を重視する

・経営理念・会社方針・ビジョンにこだわり、それが現実の会社の姿や日常業務とかい離していく。

・社員の考え方が幼稚になる。


以上を前提とした深田氏の主張は次の通りです。


★ 経験と勘と度胸を重視せよ


・2000年代になるまで日本ではマネジメント手法はあまり広まっていなかった。成功者の多くは成功の秘訣を「自分の経験・勘・度胸」といっている。今は物事を難しく考えすぎているのではないか。


・経験・勘・度胸でビジネスをすることは決して悪いことではない。あてにならない計画よりよほど役に立つ。

・勘と度胸を伸ばすには「新しい仕事を担当させる」のがよい。

・経験・勘・度胸が伸びてきたら、それにもとづいて自らの意思を積極的に示したり、主体的に選択するようにする。


・ビジネスを進める上では変わり者扱いされるぐらいの「こだわり」が必要。これが成功の秘訣。


★ 他人を変えるより自分が変われ

・他人はコントロールできない。自分が変わらなければ何も変わらない。

・マネジメント理論や手法で会社や社員を変えられると思ったら大間違い。

・もはやV字回復でも足りない。X字回復を目指せ。

・X字回復とは、頭打ちとなった既存事業とは別に新規事業の柱を作ること。


というのが深田氏のマネジメント信仰への批判の骨子です。


(浅沼宏和)

2011年2月2日水曜日

書評-「マネジメント信仰が会社を滅ぼす」

深田和範 『マネジメント信仰が会社を滅ぼす』新潮新書、2010年  (定価 714円)



深田氏は、昨今のドラッカー・ブームに対するアンチテーゼ(批判)というようなものを本書によって提起しています。

私もドラッカーを読みこんできただけに、深田氏のマネジメント批判を良く理解したうえでコメントする必要があると感じました。

まず、深田氏の意見について何回かに分けて解説していきたいと思います。


ただし、この時点で深田氏の基本的な問題点を指摘しておこうと思います。

深田氏はドラッカーのマネジメント論を詳細には読んではいないと思われます。

本書の中で深田氏は次のように述べています。


‥‥ちなみに、ドラッカーの著書の中では、「マネジメント」は「ビジネスを管理する活動全般」と、また「ビジネス」は「事業」という意味で用いられている。



これは深田氏の明らかな読み誤りです

私がドラッカーのほとんどの著作を繰り返し読み、内容を比較検討して見つけたドラッカーによるマネジメントの定義とは

 組織・個人が成果をあげるための取り組みのすべて

です。深田氏のいう「ビジネス」もドラッカーのマネジメント概念に含まれています。


データエージェント社から明日(2月1日)刊行される拙著「実践!ドラッカー経営入門」でも明らかにしているように、ドラッカーは重要な用語について文脈に応じて広い意味とせまい意味を使い分けて使用しているのです。

深田氏はこの点に気づいておらず、特定の文脈におけるドラッカーのマネジメントの定義を理論全体に拡大しているため、明らかにドラッカー理論を理解しそこなっています。


ですが、深田氏の意見は、多くの経営者がドラッカーのマネジメント論を理解しそこなってテクニックに走る状況への批判ですので、結局は「本来の意味でのドラッカー経営を実践せよ」といっていることになります。


ドラッカーは本腰を入れて著作を読まないと、簡単に読み違えてしまいます。だからこそ丁寧に読んでいく必要があると思います。



(浅沼宏和)

2011年2月1日火曜日

★「実践!ドラッカー経営入門」刊行

本日(2月1日)、データエージェント社(東京)の『近代中小企業』の別冊として、



ゼロから始める 実践!ドラッカー経営入門    (税込:525円)



が刊行されました。


本書は私がドラッカーの著作を読み比べてその論理構造を解きほぐしたものをまとめたものです。


ドラッカーのマネジメントとは「組織が成果をあげるためのすべての取り組み」と簡単に定義したところから始まり、



・現代では個人の成果は組織を通じてあげるようになっている。

・成果は3つの領域のバランスでのみあがる。

・成果をあげるために最も重要な資源はヒト。

・ヒトという資源は時間と知識に分解して理解する。

等の私が整理したドラッカー経営のポイントを中心に解説させていただいています。

市販のドラッカー本とは視点が違っていますので、これからドラッカーの著作を読んでみようという方、すでに読んでいるがさらに理解を深めようという方はデータエージェント社のHPにアクセスしてご是非購入ください。

また、当社のお近くの方はお声をかけていただければお届けいたします。


(浅沼 宏和)

閑話休題- 猟師の真剣勝負

江戸時代に「渡世伝授車」という、今風にいえばビジネス書のような本がありました。

この本にはいろいろな職業の成功のポイントが面白おかしく紹介されています。

その中に次のような話があります。



昔、網を打って小鳥を捕る猟の名人がいました。

名人は自分の腕を自慢して、 「私が網を打てば藩の剣術指南役といえども剣を十分に働かすことはできない」 とつい言ってしまったのです。

これを伝え聞いた剣術師範は激怒し、網打ち名人を呼びつけて勝負を挑みました。


名人は驚き、自身の軽口について土下座をしてわびたのですが剣術師範は許しません。

そこでとうとう鳥網打ちの名人と剣術師範は勝負をすることになりました。

剣術師範が切りかかると、名人はヒラリと体をかわし、すかさず打った網が剣術師範をからめ取ってしまいました。

剣術師範は面目を失い、顔を真っ赤にして再勝負を願ったのですが、鳥打ち網の名人は次のように答えたのだそうです。


「まず心を静めてください。何度やっても同じことです。

 私は若年よりこの技を磨きぬいて、生活の糧を得て妻子を養ってきました。

 私はたった5寸にも満たない小鳥さえ取り外すことはありません。

 ましてや飛ぶこともできない5尺のあなたさまをからめ取ることができないはずはございません。」

これを聞いた見物の人々はどっと笑って 「なるほど、そりゃ道理だ!」 と口々に言ったそうです。


この名人の答えは、まさにプロフェッショナル論そのものです。

生活の糧を得るために精根こめて技を磨きぬくことは武芸の師範にも勝る意識レベルが必要ということです。

ドラッカーは「最善を尽くす」ことは約束できると述べていますが、そこでの「最善」というのはこの鳥網打ちの名人の意識レベルのものを指していると思います。



(浅沼宏和)