2010年2月28日日曜日

書評 「社長の教科書」④

一回順番が飛びましたが書評の続きです。

小宮氏はドラッカーに準拠して経営者のやるべき仕事は次の三つであるといいます。


1、現在の事業の業績向上

既存の事業・市場・商品サービスを深掘りする。
そのためには「徹底」と「継続」が必要となる。

2、機会の追求

現在よりも一歩進めた商品サービスを開発したり販売地域を拡大する。

3、新規事業

全く新しい事業を立ち上げる。全く新しい商品サービスを始める。


ドラッカーはこの順番で行うべきであるとしています。


また、小宮氏は「徹底」の重要性を指摘します。「徹底」こそがビジネスを成功させるキーワードであるというのです。

小宮氏は事例としてセブンイレブンを取り上げます。

セブンイレブンの店舗は1日当たり平均約60万円の売上があるそうです。
一方、ローソンやファミリーマートなどの2位以下の店舗の売上はだいたい50万円ぐらいだそうです。
つまり1日の売上額の違いは約2割もあるのです。

セブンイレブンでは、品ぞろえ・鮮度管理・クリンリネス(清潔)・フレンドリーサービスサービスの基本4原則を設定しています。そしてこの基本4原則に徹底的にこだわるのだそうです。

もちろん他のコンビニも同じようなことをやっているわけですが、小宮氏はセブンイレブンではその徹底度が違うのだといいます。
「同じようなこと」と「同じこと」では決定的に違うというのが小宮氏の主張です。

この微妙な違いを顧客は敏感に気づきます。それが大きな差となるわけです。
これがドラッカーの言う「既存事業の業績向上」というわけなのです。

当社では「環境整備は戦略に従う」と主張し、徹底した環境整備のコンセプトとして2S直角平行を打ち出しています。

2S直角平行活動による徹底した環境整備は既存事業の業績向上に大きく貢献すると思います。

2010年2月27日土曜日

意思決定とマネジメントの泥臭さ

「 戦略的な意思決定では、範囲、複雑さ、重要さがどうあろうとも、初めから答えを得ようとしてはならない。重要なことは、正しい答えを見つけることではない。正しい答えを探すことである。 」(『現代の経営』より)



問いを探すことの重要性についての記述です。

「 リーダーシップについての本や論文の多くが、迅速、有効、強力に意思決定を行う方法について論じる。しかし、問題が何であるかを迅速に決定させることほど愚かで、結局は時間の無駄を招く助言はない。 」(『現代の経営』より)


このように意思決定を正しく行うことは難しいわけです。常に間違っている可能性は付きまとっているわけで、それが「リスクをとる」という経営における最重要課題へとつながっていくわけです。

しかし、自信を持ってリスクをとるためには、考えに考え抜いたうえで問題を明らかにし、そこから方向性を決めていくという難しい判断を行わなければならないでしょう。

ドラッカー的なマネジメントというのは非常に高度な知的判断を要求するものであるということができます。

しかし、たっぷりと時間をかけることはあまりできないのが普通です。マネジメントは常に時間の制約の中で行われるものです。
ですから、完璧なマネジメントはありえず、常に不完全なまま走り始めなければなりません。

走りつつも適切な問題を探し続けなければならないわけで、ここら辺りにマネジメントの葛藤があるのでしょう。

2010年2月26日金曜日

書評 「社長の教科書」③

小宮氏の著書解説第三回目です。



・ダム経営を心掛ける


ダム経営というのは松下幸之助の言葉であるらしいです。
ダムに水がたまっていると、日照りが続いても水や電力を供給できます。
会社も同じように、ヒト、モノ、カネに余裕を持って経営しましょうということのようです。

不況で暇になったとある会社が、お客さまの所に出向いて機械が少しでも長く持つようにメンテナンスをしてあげたのだそうです。

景気が良くなったときに、その会社が他社を押しのけて選ばれたことは言うまでもありません。

小宮氏は、ダム経営によって余裕があったからこそ不況期にこうした活動を行えたと考えます。

私はドラッカー流のコスト管理の本質がそこにあると思います。ドラッカー流では「対業績比」がポイントです。余剰資源があるのならば未来に意味を持つ活動に投入すればよいわけです。


・明日のために投資する


経営者が必ず行わなければならない活動です。明日に投資しない会社は長続きできません。
そして経営者がやるべきこととして小宮氏はドラッカーの名前を出して次の3つを指摘します。

①現在の事業の業績向上
②機会の追求
③新規事業

しかも、この順番通りに行うべきであるということなのです。

次回はその内容をまとめてみたいと思います。

(つづく)

2010年2月25日木曜日

書評 「社長の教科書」②

小宮一慶氏の「社長の教科書」解説の二回目です。 

・小さな行動を徹底する

当社の環境整備「2S直角平行活動」にも通じる原則です。

小宮氏はそのために「型」から入ることが有効であると主張します。

剣道や空手、茶道や華道など「○○道」とつくものがすべて型から入ることにヒントを得たのだそうです。

われわれ凡人は同じ行動を何度も繰り返すことによって意識や思想が高まるものであり、同じだけのものを身につけるには、同じ行動をとにかく何千回、何万回も繰り返さねばならない、というわけです。

私は「外部に与える印象」がビジネスにおいて非常に重要であると考えています。ですから、社員の身なり、話し方、しぐさ等も本来コントロールされるべきなのです。

しかし、これは難易度が高いと思います。

それに比べれば環境整備は簡単です。シャイで無口な人間でも簡単にでき、一目でやる気やモラルを伝えることができます。

まず環境整備ののちに礼儀等の印象管理に進むとやりやすいのではないかと思います。

・小さな行動をやらせるためには自分が先頭に立つこと。まずリーダーが自分でやり、次にやらせること。やらない部下にはやるようにいわなければならない。

小宮氏はリーダーが目先の甘いことをいうような組織はいずれダメになるといいます。リーダーは中長期的にみんなを幸せにしてあげられるかが問題であり、そのために今日の厳しさが必要になるといいます。


(つづく)

2010年2月24日水曜日

書評 「社長の教科書」①

小宮一慶『社長の教科書』ダイヤモンド社、2010年  定価1,500円+消費税 




以前の書評でも「ドラッカー度数の高いコンサルタント」とご紹介した小宮一慶氏の新作です。


社長の心得をドラッカー風にうまくまとめてあります。

 
なかなか良いことが書いてありますので数回に分けて内容をご紹介します。

経営者がやるべきことは次の三つ
 ①企業の方向付け
 ②資源の最適配分
 ③人を動かす

おもいっきりドラッカー風です。そのためには

・何をやるか、やめるかを決める
・品質、価格、サービスの違いで他社と比較する
・素直な目でライバルを見る
・現場に行って自分の目で確かめる
・良い会社とは部下も社長も皆で仮説を出すことができ、それを検証して、高い確率で成功するまで練ってから、実際にやってみる風土がある会社
・「For The Company」 -真のリーダーとは会社全体のことを考えて発言できる人
・公私混同をしない

が必要であるといいます。


基本的な心構えです。当たり前のことですが改めて考える機会を持つことも必要ですね。

・良い仕事をする-良い仕事をすれば結果的にお金は付いてくる
・伸びる会社は「お客様第一」が目的となっている
・良い仕事とは結果として稼ぐことができる仕事-稼げない仕事は良い仕事ではない

これは意外と当たり前になっていないですね。仕事自体が目的になってしまうことは非常に多いでしょう。ドラッカーの石工のエピソードを思い出していただければわかると思います。

ついで小宮氏は目的と目標の違いに言及します。

・目的とは存在意義である

ドラッカーの言葉通りです。ミッションを定義するときに検討すべき事柄です。

・お客様に喜んでいただくことは「目的」、売上高50億円を達成することは「目標」

これもドラッカー的ですが、ビジネスシーンでも意外と共通認識になっていないですね。

TMAではドラッカー流に ミッション(使命)、ビジョン(将来像)、バリュー(提供価値)、ゴール(目的)、ターゲット(目標)という5段階を設定しています。

小宮氏の定義に照らすと、目的が上位概念としてのミッションと具体的行動結果としてのゴールに分解されているわけです。それを組織体の方向性であるビジョンと手段としてのバリュー(提供価値)が支える構図です。

(つづく)

2010年2月23日火曜日

組織の生存と成果の明確化

「 マネジメントにとって最大の責任は、組織の生存を確実にすることである。
組織の構造を健全かつ堅固にし、打撃に耐えられるようにすることである。
急激な変化に適応し、機会をとらえることである。 」 (『乱気流時代の経営』より)


戦略的意思決定が必要となる状況を明らかにする文章です。

現在にすっかり適応しきってしまうと環境変化にはついていけません。
いわゆる過剰適応という状況です。
生物が滅ぶ理由の多くは過剰適応と後に来る環境の変化です。
マネジメントについても同じことが言えます。

現代では環境変化は当たり前です。今日安全なことは明日は安全ではありません。ですから明日のために今日動く必要があるわけです。


「 まずマネジメントが行うべきことは、自らの組織があげるべき成果を明確にすることである。
これは、実際に取り組んでみれば明らかなように、最も難しく、最も困難な仕事である。
組織の外部に成果を生み出すために資源を組織化することこそ、マネジメントに特有の機能である。 」 (『明日を支配するもの』より)


実際に動くためには方向性の厳しい選択を迫られます。何かを選べば何かを捨てることになります。
これが「リスクをとる」という行動です。

現在のような不況期では戦略的取り組みのほとんどはすぐ芽を出すことはないでしょう。それであってもリスクをとりつつ資源を投入しなければならないわけです。

不況期になるとマネジメントの力量が問われることになります。
厳しい戦いが当然になるわけですから、その覚悟を決める必要があるでしょう。

2010年2月22日月曜日

ドラッカー流の意思決定

経営の中心的課題が意思決定です。


「 意思決定についての教科書の第1ページは、事実を収集せよである。だが、問題を定義し分類しないことには、それは不可能である。 」(『現代の経営』より)


意思決定をするときに、情報収集から始めても無益であるということです。問題がはっきりすることで集めるべき情報がわかるということです。

特に重要性の高い意思決定ほど「問い」を明確にすることを意識しなければならないわけです。


「 問題の解決だけを重視してよい意思決定は、さして重要でない日常の戦術的な意思決定である。 」(『現代の経営』より)


問題解決は重要です。日常的な取り組みです。しかし、それはあくまでも日々の仕事としての重要性であり、企業の将来を決めるような重要な活動とは明確に区別するべきです。

この問いを明らかにすることは、意識の次元としては異なる水準のものになります。この意識の次元を持てる人がマネジャーになる条件を持っていると考えられます。

しかし、この資質は先天的なものというよりも本人が自覚することによって得られるものとみなされています。

ドラッカーはプロフェッショナルとマネジャーを区別しています。特にマネジャー・クラスに求められる資質が問題を定義し分類する能力であるといえます。

かといって、マネジャー以外の人が戦略的視点がなくてよいということではありません。

組織は全員の力を合わせて成果を上げるものです。あらゆる構成員は成果に対して貢献しなければなりません。

だれが一人のベクトルがずれているだけで全体の成果は減少します。組織はできるだけ多くの成果を上げなければなりません。常に無駄は生じているはずです。

マネジャーは戦略的視点で意思決定をします。その他のビジネスパーソンはその方向性に向かって貢献し、全体成果を最大限にする必要があるわけです。

2010年2月21日日曜日

コストの生まれる場所

「 企業の内部にはコストしか存在しない。‥企業の中にはコストセンターしかない。顧客が製品やサービスを買ってくれ、代金を支払ってくれて初めて利益は生まれる。 」(『ポスト資本主義社会』より)



ドラッカーは成果は企業の外にしかないと断言します。結果として、企業内部にはコストしかないわけです。
ですから、目線は常に外に向かわなければならないわけです。

極端なことを言えば、内部の活動が一切ないのにお金が外からもたらされるような状況が究極のマネジメントといえるでしょうか。
「印税生活」といったものがそのイメージになると思います。

現在のような成熟市場においては企業外部に対して特に強力に働きかけない限り、明確な成果は上がりません。

ほおっておくと内部コストだけがどんどん膨らんでいくこととなるでしょう。外部環境が変化したら、内部の在り方も明確に変えていかなければなりません。もちろん一人一人の役割分担、ひいては仕事についてのやり方、考え方も変えていかなければなりません。

企業内の最大のコストとは「時間の浪費」です。

しかし、この時間の浪費は意外と目に見えてこないものです。

企業の仕事の体制は、その企業が必要とする最大生産量をもとに構築されているものです。
多忙な時期はその体制がフル活動します。しかし、その時期が過ぎると無意識なスローダウンが生じます。この状態が「時間の浪費」です。

生産工程の「見える化」が進んでいる製造業ではこのムダがよく見えます。しかし、その他の産業、特にサービス業ではこれが見えにくくなります。
「サービス業は付加価値が低い」といわれる理由はここにあります。

コスト管理の要諦は対業績比です。さらにその重点は時間の有効活用にあると思われます。

2010年2月20日土曜日

業績とコスト管理

「 業績の90%が業績上位の10%からもたらされるのに対し、コストの90%は業績を生まない90%から発生する。業績とコストは関係ない。 」(『創造する経営者』より)



コストが高い、つまりより多くの資源を投入している活動が必ずしも大きな成果を上げているわけではないということを説明する文章です。

これは、100年前以上に経済学者のパレートが提起した「 欧州の富の80%は、全人口の20%が所有している 」という有名な命題に由来する着眼です。

社会現象は統計的に正規分布しないで偏りを持っているという仮定から導き出されています。

応用バーションで、「教科書の20%を集中して覚えれば、重要なことの80%はカバーしている」という話を聞いたこともあります。非常によくつかわれる仮定です。

経営現場では、なんだか忙しそうにしている人は価値を生んでいるように見えます。しかし、評価すべきなのはその活動がどのような成果を生んでいるかということです。

上記の法則に当てはめてみると、多くの場合、たいして価値のない活動に追われて忙しそうに見えているというわけです。

   とても忙しそう ≠ 大きな成果が上がっている   というわけです。

しかし、とても忙しそうにしていると価値がありそうに思えるところが難点です。

前にドラッカーの3人の石工の話を書きました。

一人目は、「石を積んで生活している」、二人目は「超一流の石積みをしている」、三人目は「大聖堂を立てている」

と語るというエピソードです。もちろん成果を上げているのは三人目であり、問題なのは二人目です。
最終目的とリンクしない活動は、どんなに忙しそうにしていても成果とみるべきではないということです。

成熟市場においては細かい市場対応や戦略的打ち手が必要です。少し前までは有効であったやり方が今では無効になっていたりします。ですから、その時の状況と目的がなんなのかをよく理解したうえで活動を組み立てなければ意味がないということです。

馬車から自動車へと交通手段が変わったのに、超一流の馬車を作り続けることにはまったく意味がないということです。

コスト管理の要諦は対業績比です。それは上記の理由から明らかになるわけです。

2010年2月19日金曜日

成功するための卓越性

「 多くの領域において卓越することはできない。しかし成功するには、多くの領域において並み以上でなければならない。いくつかの領域において有能でなければならない。一つの領域において卓越しなければならない。」 (『創造する経営者』より)

ドラッカーの卓越性に関する記述です。

私はこの命題から、自社がたったひとつ卓越する部分は何にすべきかを考える必要を痛感しました。

卓越とは文字通り、他を圧倒的に凌駕するような能力発揮のことです。
卓越するためには、何かを選び、何かを捨てなければなりません。

では、卓越性をどのようにして知ることができるでしょうか?

ドラッカーは次のように言います。

「  上得意の顧客に対し、わが社は他社にできないどのような仕事をしているかを聞かなければならない。」(『創造する経営者』より)

実際にアンケートで聞くという方法もあります。しかし、私は顧客の観察が有効であると考えています。上得意客の反応を注意深く観察し、顧客が何を買っているか見つけだすことがよいと思います。

顧客も何を買っているかはっきりとしている場合のほうが多いと思います。顧客をよく観察し、分析し、仮説を立てて検証するという作業によって卓越性につながる強みを見つける必要があるでしょう。

2010年2月18日木曜日

「良い現場」と環境整備

昨日(2/17)の日経新聞の経済教室は東大の藤本隆宏教授の日本のものづくりの現場に対する提言でした。

要旨はおおよそこのような感じです。

日本では「現場」が軽視されてきた。

昨今の経済情勢は「良い現場」を残さない限り再生は難しい。
付加価値は設計情報に宿る。それは製造・サービス業を問わない。
ものづくりとは「良い設計」の「良い流れ」を作り、顧客を喜ばせ、自ら成長し利益を得ること。
つまり「現場」とは、設計情報(付加価値)が流れる空間・組織なのである。
ムダをなくして「良い流れ」を作るのが日本型ものづくりの真髄である。

日本の優良な「現場」は、経済危機後も競争力を保っている。「会社はピンチだが現場はチャンスだ」と地道な改善活動を続ける企業も多い。
トヨタの問題は、現場ではなく品質の過信から傲慢となった本社の問題。「強い現場、弱い本社」という企業風土の乱れ。

「現場」は自立した能力構築主体だ。
最後は本社に従うが、自らの能力構築を通じて本社の認識と決定に影響を与える。
現場は本社と密接な関係を持ちつつさらに進化を遂げる必要がある。

という感じです。最後のほうは大幅にはしょってありますが。

私は藤本教授の現場論を読んでいて、環境整備との関連性を考えました。

環境整備は、戦略を反映するものであり、それは「現場」も支えているという図式です。

目に見える状況を徹底的に整える「環境整備」を通じて、現場がさらに進化するための下地がつくられると考えるのです。

素晴らしい水準の現場の環境整備がどのようになっているか創造してみれば容易に納得いただけることと思います。

本気で環境整備活動をやってみた方はすぐわかると思いますが、環境には計画の不具合、段取り不足、モラルの低下といった現象がすぐに現れます。
環境整備状況を入念にチェックするとかなりいろいろなことが見えてきます。

私は藤本教授の考えに環境整備論を加えるとより現場の在り方について具体性が増すと考えています。

2010年2月16日火曜日

マーケティングとイノベーション

ドラッカーは企業の外にしか成果はないと述べています。
そして、マーケティングイノベーションだけが成果を上げると言っているわけです。

まずマーケティングとは、事業の最終成果を生み出す活動、つまりは顧客から見た事業全体にかかわるものであることです

そのためには中核市場(顧客が存在している市場)の場所を明らかにすること。そしてその市場における自社の地位・ポジションを決めることが必要になります。

さらに具体的には商品・サービスについて、廃棄するのか、維持・改善するのか、革新(市場を含めて)するのか、といったことを決めることになります。

次いで、イノベーションについてです。

ドラッカー的なイノベーションについては、一つには上記のマーケティングの目標を達成するための手段としての目標、もう一つには将来に起こりうるあらゆる分野における新事態にかかわるものといった二つの視点が必要です。

イノベーションの対象となる活動は、マーケティングのほかに、人的資源と組織、物的資源、生産性、財務、マネジメントそのもの等が該当すると考えるのが東洋大の河野大機教授の立場です。

イノベーションはドラッカーの記述ではその境界線が微妙なのですが、河野教授の説によればすっきりします。


私はかつては、「ドラッカーのマーケティングとイノベーションには重複する部分があるがどうとらえたらよいだろうか」と悩んでいました。

しかし、東洋大の河野教授の著作から上記の構造を知り、現在はそれらを合わせて「戦略要因」と考えるようになりました。

ただし、河野教授とは若干考え方が異なるのですが、それはまた別の機会に書きたいと思います。

私におけるドラッカー理論の整理・発展といったところでしょうか。

2010年2月15日月曜日

顧客の創造と成果

ドラッカーは企業の目的はただ一つであり、それは「顧客の創造」であると定義しています。

また、組織およびビジネスマンは「成果」を上げなければならないと述べています。

今回、基本に立ち返って、この二つの概念を整理してみたいと思います。

成果については、以前のブログで

成果‥‥顧客に与えた物理的、肉体的、精神的、財産的、社会的な満足もしくは好影響。また、それによって提供者の評価・評判が高まること。

と書きました。

そこで今回は顧客の創造について定義し、それを成果と関連付けたいと思います。

私が定義する顧客の創造とは

現在と将来の市場や顧客の満足・効用・メリットを生み出すことで、当社の製品・サービスを購入してもらうこと

という感じになります。

どちらも顧客や市場という企業外部に焦点を置いていますので、「成果は外にしか存在しない」というドラッカーの主張とも合致していると思います。

私はビジネスで何らかの結果を出すためには、言葉の定義を明確にすることが必要であると考えています。
ドラッカーは主要概念の明確な定義を書かない場合があるので、文脈の中から自分で探していかなければなりません。

ところで、会社によっては、今のお客さんだけ目を向けてしまい、将来のお客さんや現時点においてお客さんになっていないグループ(非顧客)を無視してしまっているようです。

感覚的なマネジメントには限界があります。マネジメントには知的かつ体系的な取り組みが必要です。

これは企業にも言えますし、一人ひとりのビジネスマンにおいても言えることだと思います。
ですから、言葉を定義するということは意識的に行っていかなければならないでしょう。

2010年2月14日日曜日

ワークライフバランスとドラッカー

今日の日経朝刊にワークライフバランスの実現のため、女性の雇用促進や労働時間短縮などを進める企業を公契約の入札で優遇する方針を政府が固めたという記事がありました。


この政策を実行すれば政府はあまり予算をかけずに子育て支援や国際的な時短の動向に乗り遅れない状況が作り出せるわけです。

ワークライフバランスを実現するために必要な視点があります。それはドラッカーの言うところの「仕事の生産性」です。

ワークライフバランスを実現するために就業時間を削減することはよいことです。しかし、たとえば時間を10%削減したところ成果も10%減りましたということではワークライフバランスの実現は単に競争力を落としただけの無益な活動になってしまうわけです。

ドラッカーはコスト管理の要点は投入資源あたりの成果を最大化することに尽きると考えています。ですからワークライフバランスを実現するためには一人当たりの成果を何割かアップさせることが必要なわけです。

大野耐一氏の「トヨタ生産方式」には、トヨタが生産性を高めるために目標を達成するたびに現場からごっそりと人員を引き抜いてしまい、以前よりかなり少ない人数で以前の生産を実現させることを繰り返している旨のことが述べられています。ワークライフバランスの実現には同じことが必要になるわけです。

ワークライフバランスの実現であるとか時短であるとかいう場合、論理的には単位時間当たりni
求められる成果水準が高くなることが大前提となっていることを理解する必要があるでしょう。
また、それを実現するためには各人が自覚を持ってスキルアップする必要があるわけです。

2010年2月13日土曜日

環境整備は戦略に従う-工場編

2S直角並行という環境整備のコンセプトは、もともと工場用に編み出したものです。

中小製造業であるG社がISOの認証を取得するに当たり、「製造業らしく、5Sをしっかりとやりたい!」と社長が言い出したました。

ところが、女性社員やパートの方々、人材派遣のみなさんたちにとってみると「5Sって何?なんだか難しそう」という反応があったのだそうです。

それまで私は「製造業にいれば5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)などは全員身に付いているものであろう」と思っていました。しかし意外とそうでもないということがわかったわけです。

その後、大手自動車メーカーのエンジニアの方たち数名にお会いした際に「5Sを説明してください」といったところ、みなさん口ごもられてしまったという経験もしました。

なぜこのようなことになったのでしょうか?私は理由が二つあると思います。

1、項目が5つもあるためすべてを覚えていることができない。
2、判断を伴う行動が多く、ルール化をしなければ実行できない

環境整備というのは今よりよくなればいいわけです。
見た目が少しでもきれいになれば、それは効果があったと言えるでしょう。

そこで、今日、入社してきた女性パートさんでもたった今から実行できる」ぐらい簡単なコンセプトにしようということで整理・清掃・直角並行という2S直角並行にまとめてみました。

そして実行してみると効果絶大であったため、さらにそれを手がかりに環境整備の意味を深く掘り下げていったわけですね。

工場の場合、かならず5Sの問題は付いて回ります。そこで、お勧めしたいのは、とりあえず2S直角の視点で環境整備を始めてみる。
そしてレベルが上がってきた時点で5Sの考え方を勉強してみるのです。

つまり2S直角並行を5S活動の補助的原則とするというわけですね。これは実効性があると思います。


 →2S直角並行活動実行中のS工業の様子

2010年2月12日金曜日

環境整備は戦略に従う-飲食店編

環境整備第二弾です。今回は店舗、特に飲食店について考えてみます。

飲食の場合、衛生状態が大事であることは言うまでもありまん。またお客さんの視線も最も厳しく注がれる業種であるといえます。ですから他の業種に比べても環境整備の重要性は圧倒的に高いと言えるでしょう。

飲食店の場合、2S直角平行活動(整理・清掃・直角平行)のなかでも、「清掃」の重要性が高いと思います。

清掃とは隅々までホコリ・汚れを取り除いていく活動のことです。


私は昔、東京の中野に住んでいました。
毎晩、遅くに銭湯に通っていたのですが、途中に小さなお寿司屋さんがありました。

当時は学生でしたのでカウンターで食べるようなお寿司屋さんに入ることもありません。ですから何年間もそのお店の前を通っていたのに一度も入店する機会はありませんでした。
しかし、私はそのお店についていまでも印象深く思っています。

その理由は、夜中にそのお店の前を通ると毎日毎日、お店中の椅子・テーブルを表に出し、店内全体に水を流すほどの大掃除を行っていたからです。

大きなまな板もきれいに洗われて、お店の外に立てかけられていました。
入口からなかをのぞくと、店内全体が水気を反射して光っていました。壁や蛍光灯までも掃除しているようで、いつみてもピカピカでした。
店内には無駄なものが何一つないことは素人目にもよくわかりました。

おそらく毎晩2時間ぐらいかけて掃除しているのではないかと思います。大将のこだわりのすごさを感じました。

また、東京の有名フレンチのコート・ドールのオーナーシェフの斉須政雄氏は、その著書において環境整備へのこだわりを次のように述べています。




「今のお店でも、ぼくはお掃除を第一にしていますね。掃除ができない人は何もできないと思います。」






さらに、カレーのCOCO一番屋の宗次徳二社長は、

「 早起きと掃除をすること。朝早く起きて、自分の仕事場の周辺をなるべく広く掃除する。仕事場のなかだけじゃダメです。
そうやって汗を流していると、他人から姿勢を評価され、信用につながる。しかし、損得や打算を考えてはいけません。
雨の日も用事のある日も休まずに掃除する。私は雨とか台風、それから体がだるい、熱っぽいという日こそ燃えました(笑)。よーし、今日はいつもより長い時間、掃除をするぞ、と。早起きと掃除が不況を乗り切る道です。」

と環境整備の重要性を明言しています。

飲食店の場合、細部まで徹底的にこだわる姿勢が絶対条件になっていると言えるのではないかと思います。

2010年2月11日木曜日

キリン「生茶」開発裏話

キリンの「生茶」の開発・マーケティング戦略を聞きに三島に行ってきました。

静岡銀行の勉強会の企画ですが、以前に聞いたチューハイの「氷結」の開発・マーケティングに続く第二弾というわけです。

キリンは浜松で加藤社長が講演したり、静岡銀行と密接な関係があるようです。

これでキリンがらみでは三回目の参加になるのですが、いずれもかなり良い内容でした。

本来は企業秘密に属する内容であると思うのですが、資料の配布こそしてもらえなかったですが、公開していただいた内容は相当濃いものでした。
これほどの内容を聞ける企画はそうそうないと思います。

「生茶」開発の裏話をかいつまんでまとめてみます。

・生茶の誕生は2000年。当時は「おーい、お茶」しかなかった。
・お茶は世代、性別を問わないものなので、あえてマーケティング上のターゲットを設定しなかった。
・最初のCFで松嶋奈々子を起用したイメージが強かったせいか、当初から若い女性のファンをある程度獲得できた。 ‥予期せぬ結果
・2004年に伊右衛門登場。正当なお茶のイメージの強力なライバル。→「生茶」は本物志向ではない?という疑念。
・「生茶は本物のお茶なんだ」というアピールを計画。→結果的にディテールにこだわりすぎたきらいがあった。
・その後、何度かマーケティングを改良したがうまくいかず。→マジョリティを獲得しようとしてうまくいかず。
・明確なターゲティングの必要性を痛感。
・2007年の段階で、三大お茶ボトル(おーい、伊右、生茶)は大差のない商品となっていた。
・おおまかにいえば同じものであるが、世代、性別ごとに細かく市場を分析し、それぞれの生活パターンまで読み込んだ上で、さらに上積み可能なシェアを割り出して、細かいマーケティングを積み上げていく計画。

とまあ、お茶という差別化の難しい領域で、非常に細かい検討を繰り返している内幕を全部見せていただきました。
しかし、企業間競争は実にシビアなものである改めて痛感しました。

キリンは市場のさまざまな状況を非常に細かく分析したデータを持っているようで、その調査能力は大手企業の中でも相当上位にあるらしいです。
今回もその能力の一端を垣間見せていただきました。

例えば、
「生茶を飲む客はコーヒー飲料は飲まない」
「かつてはミネラルウォーターが人気があったが、ヘルシー志向でその消費者がお茶ボトルに移行中」
「缶コーヒーはヘビーユーザーが支えている。缶コーヒー愛好家は一人で何本も買う比率が高い」


といった感じです。細かさに脱帽でした。

マーケティングを行うには、これ以上考えられないぐらいに徹底的に考えたうえで仮説を明確に立て、それを徹底的に検証することが大切であるということだそうです

全くごもっともであると思いました。

2010年2月10日水曜日

環境整備は戦略に従う-オフィス編

昨年末に行った当事務所のセミナーでは環境整備を取り上げました。

5S活動は抽象的で難しいので、そもそも環境整備とは何かについて素朴に考え、整理と清掃、そして見た目をすべて直角平行に整えるというシンプルな手順に集約しまおうというものでした。
それを「2S直角並行」と名付けています。

現在、そのセミナーを名古屋の大手企業で行うために理論の再整理をしています。

その結果、2S直角平行は、工場、店舗、オフィスによって重点については多少の違いがあると考えるようになりました。

そして、オフィスにおける環境整備の理論的な問題を考えていく中で、「環境整備は戦略に従う」という考えに至るようになりました。

この言葉はいうまでもなく、経営学者チャンドラーの有名な言葉である「組織は戦略に従う」の焼き直しです。

しかし、環境整備の在り方を考えていくうちに、オフィスの環境整備は仕事の性質や取り組みについての考え方に大きく左右されることに気付いたわけです。

少し具体的に説明します。

ぐちゃぐちゃになっているオフィスは別として、究極のオフィスは徹底的にモノがない状況であるといえるでしょう。

私はその好例として、有名なアートディレクターである佐藤可士和氏のオフィスがあげられると思います。


佐藤氏は、ユニクロTSUTAYAのブランドコンセプトをデザイン化したことで知られています。彼の発言はデザイナーというより経営コンサルタントそのものです。



右が佐藤氏のオフィスの写真です。



これは究極のオフィスですね。

すべてのプロジェクト資料はボックスの中に収納されています。


デスク周りについては一切物が置かれていません。


まだ引っ越しがおわっていないかのように思えるきれいなオフィスです。

こんなところで働くことができれば、さぞクリエイティブな仕事ができるでしょう。

さて、ここで一つ考えてみましょう。

すべてのオフィスでこの状況がまねできるでしょうか?


結論として言えるのは、少なくとも私のデスク周りはこのようにすることができないということです。

私は佐藤氏のオフィスが可能となる条件を次のように推理します。


 ①ほとんどの仕事が中長期のプロジェクト単位のものである。

 ②事務処理的業務はすべて定型的なものであり、量も多くない。

 ③電子ファイル化の比率を高める方針をとっている。

細かく、しかも定型性が乏しい仕事が少なければ、時間の割り振りも大きな単位で考えることができます。
大企業の大きなプロジェクトを中心に仕事をしている佐藤氏のオフィスであるからこそ可能であると見ることができるように思われます。

オフィスにおいて目に見えるところのモノの量は、発生する仕事の大きさ、期日、量、相互連携の必要性といった要因に左右されます。

つまり、一般的なオフィスでは一定の書類が目に入る状況になるということです。

したがって、そうした業務の現状を踏まえたうえで自社に適した環境整備の基本的なラインを打ち出すことが必要となるわけです。

現実的かつ実用的なオフィスの環境整備の一例をご紹介しておきます。

上がビフォアーで下がアフターです。 決して十分とは言えませんが、この会社としては、立派な環境整備というわけです。前よりは明らかにレベルが上がっているでしょう。















2010年2月9日火曜日

コストポイントと貢献活動

ドラッカー理論解釈における未解決論点の一つです。

ドラッカーは「創造する経営者」においてコスト管理の原則を明らかにしています。
ところが、その後の「マネジメント 上・下」においてはコスト管理については触れず、貢献活動について述べています。
この二つの説明を比較すると整合性が取れていない点があり、その理解の仕方について悩んでいます。

1964年の「創造する経営者」では、コスト管理の原則において、コスト管理のレバレッジがきいて大きな成果が上がる領域をコストセンターといい、その中で大きなコストがかかる活動をコストポイントと説明しています。

そして、コストポイントには
①生産的コスト :顧客が喜んで代価を支払う価値を提供する活動コスト。 ex.生産、販促、知識、資金、営業、差別化
②補助的コスト :経済価値は生まないが、不可避なコスト。 ex.輸送、受注事務、製品検査、人事、経理
③監視的コスト :悪いことが起こらないようにするための活動コスト。 ex.製品力の衰退、技術力低下の警報、仕入先・流通業者の状況把握
④浪費的コスト :どんな成果も生まない無為のコスト。 ex.空席の目立つ旅客機、貨物船が港で積み下ろす日数

ところが1973-74年の「マネジメント 上・下」では、コストポイントについては触れられず、似た分類が貢献分析のところで書かれています。

それは企業における諸活動を貢献の種類に区分けして管理するというもので、
①結果を生み出す活動 :業績に間接・直接に貢献するもので、さらに、結果を生む活動、結果に貢献する活動、情報の活動にわけられる。
②支援活動 :それ自体は目に見える結果を生まず、他部門に利用されて初めて活用される。
③補助的活動 :直接・間接にも結果や業績に関係しない。
④経営トップ活動 :

ドラッカーは、マネジメント活動は資源を投入し成果を最大化する活動であるので、目先のコスト削減を危険な手段と考えます。

ポイントは、資源を機会が最大に得られる領域に集中的に投入すること、その結果が最大になるように活動を組み立てることといえます。

その意味では上記の二つの概念は同じことを別の観点から言い直していると考えることができるように思われます。

ところが、ここで問題となるのは、それぞれ最も重要な①の概念の範囲に、重ならない部分があるということです。

特に「創造する経営者」のコストポイントの②「補助的コスト」のいくつかが、9年後の「マネジメント」においては①「結果を生み出す活動」に含まれているように読めるのです。

おそらくこの部分はドラッカーの思索の進化といえるものであると思うのですが、それぞれに完結した論理ですから、何が問題となって新たなバージョンに移行したのかをよく考える必要があります。

実はこうした論点がさまざまな部分にあるのが頭の痛いところです。

「そんなに矛盾する体系を提起したドラッカーには価値があるのか?」と思われるかもしれません。

しかし、その矛盾する論点レベルにまで掘り下げた視点を打ち出した経営学者は他にいません。
こうした論点を自分の頭で考えていくことが、自身で使いこなせる経営原則を身につけるのに役立つと考え、あれこれ頭を悩ませています。

2010年2月8日月曜日

ビジネスチャンスの見つけ方-現在の事業⑥

知識分析の必要性

先週は現在の事業についてマーケティング的な視点についての分析を検討しました。

ドラッカーは「知識」という概念を重視していますので、知識の観点から現在の事業を考えてみましょう。

ドラッカーは知識についてリーダーシップ的地位を持たない企業は成功することができないと考えています。

ここで知識というのは情報のことではありません。情報を成果獲得のために応用する能力を指しています。

成果とは企業の外にあるもので顧客に関係するものです。ですから知識は顧客の満足や価値観と結び付けられていなければならないわけです。

ライバル企業との関係でみるならば、「わが社に特有の知識とは何だろうか?」という質問が大事になってきます。

この問いは決定的なもので、どんな企業であっても多数の領域で特有の知識を持つことはできません。ほんの2、3の領域だけで特に優れた知識を持つことが可能となります。

企業は、自社の優れた知識の領域に集中しなければなりません。

また、それは製品・サービスの根幹となるべきものであり、副次的な領域の知識が優れていても企業として優越することはできないわけです。

自社の実態を知識の観点からみるということは、

「わが社の強みである知識に対して現実に代金が支払われているだろうか?」

「わが社の知識は製品・サービスに十分組み込まれているだろうか?」

「どのようにしたら改善できるのか?欠けているものは何か?それを満たすためには何をするべきか?」

を繰り返し問わなければなりません。

さて、最後にドラッカーの提唱する知識に関する注意点をあげておきます。

「知識は消え去りやすいものである。したがって常に再確認され、学びなおされ、修練し返さなければならない。」

「いかなる知識も陳腐化してしまい、さらには間違った知識になってしまう。だから知識の有効性と知識の必要性はたえず再検討されなければならない。」

2010年2月6日土曜日

JAL破綻に見る日本の老化

著名な建築家である安藤忠雄氏が日経ビジネス2010年2月8日号に掲載していた意見です。

一言でいえば、JALの破綻は日本の老化の現れであるということです。

安藤氏によれば、JAL破綻はかつての勝ちパターンが通用しなくなったために起きた結果であるといいます。

日本がバブル崩壊後も経済大国としてやってこれたのは、ひとえに過去の遺産があったからです。
ですから、無責任なリーダーにまかせていて、誰も使わない空港を日本中に作り続けるような信じがたい「ムダ」をしつつも成長できました。

JALも日本と同様に、遺産があるうちは無責任体質でも生き延びてこられたが、ついにそれを食いつぶしてしまったというわけです。

安藤氏は近年、北京、上海、ソウル、台北で仕事をしてきたそうですが、いずれの都市においても物事の決まるスピードの速さに驚かされたそうです。リーダーの即断即決でなんでもすぐに決まってしまうのだそうです。

安藤氏は日本の速度の遅さが国際社会において生きていくうえで大きな問題になることを危惧します。
翻って、JALも責任感ある経営者がいれば、もっと早い段階で手を打てたはずだと批判します。



この前も触れた大野耐一氏の「トヨタ生産方式」においても企業の老化の問題に触れています。

企業にも人間と同じように背骨があるが、しっかりとした背骨は弾力性がありよくしなる。この弾力性が大事なのであり、背骨が硬直することが老化なのだといいます。

JALはだいぶ前から背骨が弾力性を失っていたようです。自社が老化し、背骨の弾力性を失っていないか顧みる姿勢が厳しく問われる時代になりました。

2010年2月5日金曜日

◇舞阪-魚あら

今日まで三日間、浜名湖近くの舞阪で仕事をしていました。


天気は良いのですが、風が強く外はとても寒かったですね。


連日人気の「魚あら」で昼食をとりましたが、いつ食べてもおいしいですね。




                    魚あら定食です⇒

ビジネスチャンスの見つけ方-現在の事業⑤

4、見落とされやすい顧客実態

特定の業界に長くいると、その業界で当然と思われていることを疑う習慣がなくなってきます。

ですから、顧客がその業界のスタイルになじめなくなったとしても、その原因を顧客のせいにしてしまいがちで、自身のスタイルを変えようとはなかなか思わないものです。

ドラッカーはこうした点に注意を払うべきだと考えます。

企業の側からみて不合理に見える顧客の行動についても、顧客の側からみるとそれなりの合理性があると考えるべきであるというのです

もしも、企業から見て不合理である顧客の不合理な行動に合理性を見つけることができれば、そこには大きなビジネスチャンスが潜んでいると考えられます。

顧客の行動を、「まったくわかってないな」と思ってしまう前に、自社の対応のほうが時勢をわかっていないのではないかと思わなければならないでしょう。

2010年2月4日木曜日

ビジネスチャンスの見つけ方-現在の事業④

3、非顧客

同じ市場の中にいるのに、自社の製品・サービスを買ってくれない顧客(非顧客)のタイプとその理由を知る必要があるとドラッカーは言います。

それを知ることで成功した例として、夜間でも購入を可能にするショッピングセンター化と通信販売によって非顧客を顧客に変えることに成功した日曜大工道具の製造販売業者の事例があげられています。

また現在は顧客であっても将来の非顧客にならないように、顧客の世界(経済・事業・市場)を取り巻くさまざまな要因、その将来の状況等を良く考えて準備しておくことも重要です。

そのほか、顧客や非顧客の価値観、自由に使えるお金・時間なども調べることで購入決定要因を明らかにしなければなりません。

また状況の急変する場合には、従来とは全く違った方法で顧客満足を図る必要がでてくるかもしれません。こうした事態には臨機応変に対応しないといけないわけです。

特に注意しなければいけないのは、現在意識していない他業種の動向です。いつ何時それらの業種の会社がライバルになるかわかりませんから。

簡単に書いていますが、今回の内容はかなり難易度が高いものであると思います。日常的な現場ではほとんど観察できないものを見ることのできる観察力が必要になりますから。

前に、顧客に聞くより観察が大切と書きましたが、今回のお話はその理由の一つになるわけです。

また、仮に観察できたとしても、「わかっているんだけど変えられない」という場合も多いと思います。

これまでと違ったことに抵抗感を覚えるのが人間の特性です。

しかし、ドラッカーは世界は変化するものであり、変化を当然のことと受け止めることが最もリスクの低い判断であると述べています。

状況が変化したのに自分が変化しなければ厳しい結果が待っているわけです。

2010年2月3日水曜日

トヨタのリコール問題を考える-大野耐一氏の言葉

現在、トヨタ自動車が大規模リコール問題で揺れています。

ニュースで大々的に報じられているので、すでにご承知かとは思います。

2年ほど前ぐらいから日経ビジネス等の経済誌では、トヨタの品質問題が取り上げられたりしていましたが、これほどの事件になるとは思ってもみませんでした。

部品の共通化の問題であるとか、海外の部品工場の品質管理であるとか具体的な内容があげられていますが、根本的にはトヨタ自動車の規模が巨大化し、十分なコントロールが難しくなったことがあるように思われます。

そこでトヨタの物づくりの原点を考えてみます。

トヨタ生産方式を作り上げたのは大野耐一氏です。

戦後すぐの段階ではトヨタとGMとの間では生産性(時間当たりの生産台数)が、ほとんど10倍近くあったといいます。

トヨタは大野氏を中心に、その差をギャップと認識し、無駄を徹底的に排除し、なぜを5回繰り返すという積極的思考態度を持ち、カンバン・アンドンといった独特の手法を生み出す等の斬新な製造スタイルを次々と生み出していったわけです。

その考え方と工夫については大野氏の著作『トヨタ生産方式』にくわしく書かれています。この本は歴史に残る名著であると思います。

その中で大野氏は

私どもは高度成長時代にも、‥‥いたずらに量産機械を導入することを避けた。
私どもは大艦巨砲主義のもたらす生産現場のひずみがいかに大きなものであるかを知っていたので、時流に押し流されることなく、ひたすらトヨタ生産方式の前進に取り組んだ。

といっています。

数年前まで自動車業界は増産につぐ増産という状況にありました。はたしてその頃のトヨタ自動車はこの大野氏の言葉どおりであったのでしょうか。

今、こうした事態が起きているということはトヨタとしても深く考えなければならないところでしょう。

大野氏は次のようにも述べています。

私が思うには、たとえば一企業のなかで、よく売れる部門を持たされるよりも、なかなか売れないで弱っているところで取り組んだほうが、それだけ差し迫った改善のニーズがあるだけに、やりがいがあるではないかと考えるのだが、現実はそうでもないらしい。
このような硬直した考え方が、今の企業、ひいては産業社会に巣くっていることは困ったことである。‥‥‥

肝心なのはシステムではなく、情報を選び解釈する人間の創造力である‥‥。私自身、日々新たなる決意をもって、硬くなりがちな頭の創造にムチを当てつつ、今日も生産現場を歩くつもりである。

大野氏の肉声は起業家精神に満ちており、大企業の地位に安住している気配はみじんもありません。大野氏の言葉を読むと自分自身がはたして「創造的」であるか考えてしまいます。
リコール問題について、トヨタ本社の役員がようやく非を認めるコメントを出していましたが、そのスタイルはいかにも「大企業的」で、あまり「創造的」には聞こえませんでした。

大野耐一氏の率直な真摯な姿勢と語り口を取り戻すことが、現在のトヨタ自動車にまず求められていることのように思われます。

ちなみにCSRの観点からいえば、数年前の米国の事故の段階で、「理由のいかんを問わずトヨタ車の事故が起きたことには責任を感じる」という声明を出すことが必要だったでしょう。

ビジネスチャンスのとらえかた-現在の事業③

2、未知の顧客


顧客の意味を「購入を決定する人」のことと考えるべきとドラッカーは言います。

したがって、それまでひとつと考えていた顧客は実は複数の顧客であったり、階層構造があったりすると考えなければならないわけです。

わかりやすい例をあげます。

新車を買う場合、契約はお父さんがするとしても購入を決定するのはお母さんである場合が多いでしょう。
しかし、車種を選ぶ際には娘さんの意見が大きかったりするわけです。家族が車を買うという場合にすら複数の顧客と階層構造が存在しているわけです。

ドラッカーはこうした点を見逃してはならないと指摘します。

企業に何かを売り込む場合には、法人としての企業のほか、誰が決定をして、誰の意見に影響力があるのかを良く考えなければならないわけです。

こうした顧客の種類と階層構造がわからない未知の顧客については、市場・顧客・商品の最終用途といった視点から考えなければならないとドラッカーは言います。

自社の視点から見てしまうと、未知の顧客をつかむことができないということでしょう。

これもプロダクト・アウト(製品志向)ではなく、マーケット・イン(市場志向)の視点を重視した考え方であると言えるでしょう。

2010年2月2日火曜日

ビジネスチャンスのとらえ方―現在の事業②

1、既存の顧客にたいするビジネスチャンス


ドラッカー理論のビジネスチャンスをとらえるための視点をまとめていきます。
今回は、すでに獲得している既存の顧客に対するビジネスチャンスのとらえ方です。

河野教授の著書に従ってまとめてみます。
ただし、河野先生はかなり昔のタイプの文体(つまり難解な文体)ですので、私が簡略化しておきます。

①顧客・市場を知っているのは会社ではなく顧客自身
 顧客に質問し、観察し、その行動を理解することに努めるのが基本です。理解する対象はその「満足感」になります。

②顧客は満足感に対して金を払う
 つまり企業の製品・サービスは満足感を生み出すための手段と考えなければならないということです。

③顧客の関心は「この製品は私のために何をしてくれるのか」にある
 企業は「この製品の質を作るのがどれだけ骨が折れ、費用がかかるか」を考えてしまいがちであることをドラッカーは批判します。

④同じ満足を得られる他の手段に注意する
 「キャデラックのライバルはミンクの毛皮やダイヤモンドである」という有名なたとえがありますね。

⑤市場では当社製品はズラリと並んだ同じ満足を得られる商品の一つでしかない
 顧客の支持は移ろいやすいものであると考えなければなりません。

⑥顧客の行動はすべて合理的
 一見すると不合理に見える顧客の行動も、その原因に照らしてみると常に合理的と考えなければならないということです。

⑦多角化製品についての心得
 多角化製品は従来製品と同一市場に属していると顧客に認めてもらうことがポイントになります。

いずれもうなずける内容ですね。一つ一つをよく考えてみる必要があると思います。

私は「観察」が重要であると思っています。顧客に直接聞く機会は常にあるとは限りませんが、「観察」はいつでもどこでもできますから。

レベルの高いビジネスパーソンは、この観察能力が優れているように思います。

2010年2月1日月曜日

ビジネスチャンスのとらえかた―現在の事業①

私はドラッカー経営を打ち出しているわけですが、学問的なドラッカー研究動向についてはあまり把握していませんでした。

しかし、古本を検索していく中で河野大機教授(東洋大)がドラッカー理論を体系的に整理していることがわかり、ネット検索ですべての著作を入手しました。

内容を確認してみたところ、河野教授はドラッカーの主要著作をかなり詳細に分析・検討されていることが分かり、しかもそれまでの学界における研究動向もたんねんに整理されていることが分かりました。

これだけの研究成果を利用しない手もないであろうと考え、これからその内容で役に立ちそうなことを折々触れていきたいと思います。

ドラッカー経営を標榜している者として河野先生の研究を知らなかったとは実に迂闊な話でしたが、これからその遅れを取り戻そうと思います。

手始めとして、ビジネスチャンス(事業機会)についてのドラッカーの考え方を取り上げたいと思います。

ドラッカーは事業についてマーケティング的な視点が必要であると述べていました。

それは販売、一般的な市場調査・顧客調査とは観点が異なるものでした。

考察すべきであるのは

① 事業全体

② 自社の顧客・市場・製品にとらわれず、さらに広い視点からこれらのものを見る

ということでした。

そこで河野教授の区分に従い、次の観点から現在の事業機会を検討したいと思います。

1、既存の顧客
2、未知の顧客
3、非顧客
4、見落とされやすい顧客実態