2010年6月30日水曜日

閑話休題-サンデル教授の政治哲学

今年、4月から6月まで、毎週日曜日の夕方からNHK教育TVで『白熱教室』というタイトルで、ハーバード大教授のマイケル・サンデルの講義の様子が放送されていました。

ハーバード大の講義は本来「門外不出」です。しかしサンデル教授の講義があまりに名講義なので、講義の様子をそのままTV番組にしてしまったのです。

このサンデル教授の講義は実にすばらしく、私は毎週感動しながら視聴していました。


サンデル教授は政治学者としても世界的権威なのですが、学生を相手に身近な実例をあげながら「正義」について考えさせるという硬軟使い分ける切れ味鋭い教育者でもあります。

とりあげる思想家も、アリストテレス、カント、ロック、ミル、ロールズなどの大御所ぞろいなのですが、その難解な思想を実に手際よく身近な事例で考えさせるのです。


たとえばこんな問いがなされていました。


・電車の行き先に作業員が5人いてこのままでは全員事故で死ぬ。ポイントを切り替えるなら、その先には作業員が1人しかいない。ポイントを切り替えて1人の作業員を死なせてしまうことは正義と言えるか?

・同じ状況で、あなたが線路を見下ろす陸橋の上にいる。隣にかなり太った男が身を乗り出しており、その男をつき落とせば電車は止まり5人は助かる。この肥った男を突き落とすことは正義か?

・最初の事例は正しい行為のように思え、肥った男を突き落とす行為は正しくないように思える。その背景にはどのような道徳的問題が潜んでいるか?


またこのような事例も出されました。


・リーマンショック後に経営不振に陥った金融機関に多額の税金が投入された。しかし、その金融機関の幹部が多額のボーナスを受け取っていることがわかり、国民から猛烈な批判の声が起きた。

・幹部は「優秀な人材を引き留めておくためには多額のボーナスはかかせない」という。この幹部の発言の背景にある道徳的問題とは何か?



私は大学の学部が政治学科であったため、政治哲学は学校でも学び、本もたくさん読みました。しかし、サンデル教授の授業ほど切れ味の鋭い議論はこれまで聞いたことはありません。

あまりの切れ味に衝撃を受け、録画を何度も見直すだけでは足りず、サンデル教授の著書まで購入してしまいました。(右)


この本はNHKの番組で取り上げられた内容をそのまま書籍にしたものなので、大学の学部生程度の理解力で読めるものです。

しかし、かなり思考力を使う内容ですし、他に読むべき本が吹きだまっているので、少しずつしか読めなさそうな感触です。


また、サンデル教授はもっと本格的な専門書を多数書いているので、それらにも目を通してみたくなりました。


マイケル・サンデル『これから「正義」の話をしよう』早川書房、2010年  定価2,415円

2010年6月29日火曜日

「強み」について④

多くの領域について卓越することはできない。
しかし、成功するには多くの領域において並み以上でなければならない。
いくつかの領域において有能でなければならない。
一つの領域において卓越しなければならない。

               『創造する経営者』より


「強み」にもとづいて仕事を行うというのは、ひとつの領域において卓越するということです。

卓越とは抜きんでることであり、同業者に比べて多少良いというレベルとはかけ離れたものにしなければならないということです。

しかもいくつかの領域における有能さまで求められるわけですから、ビジネスを行うということは実に厳しいものといえるでしょう。

たった一つ、これならばどこのだれにも負けないという強みを磨きぬくことが卓越につながると考えるのがドラッカーの視点です。

弱みを手直ししても卓越することはできないわけで、だからこそ強みに集中すべきと考えるわけです。

2010年6月28日月曜日

「強み」について③

知っている仕事はやさしい。
そのため、自らの知識や能力には特別の意味はなく、誰もが持っているに違いないと錯覚する。
逆に、自らに難しいもの、不得手なものは大きく見える。

                        『創造する経営者』より


これはドラッカーが「強み」について語った初期のころの記述です。

強みを見つけにくいのは、それが本人にとって簡単すぎるから、誰もができるであろうと考えてしまいがちなためです。

また、後半部分は、自分にできないことはだれもができないであろうと思いこんでしまうことで、その強みを持つ者に出し抜かれる危険があることを述べていると考えられます。

思わぬ角度から思わぬ強敵が突然に現れるかもしれないこと、それだからこそ、自らの強みをできる限り早く認識し、その強みをもとに事業を組み立てなければならないのです。


他社はうまくできなかったが、わが社はさしたる苦労もなくできたものは何かを問わなければならない。
同時に、他社はさしたる苦労もなしにできたが、わが社はうまくできなかったものは何かを問わなければならない。

               『創造する経営者』より

2010年6月27日日曜日

「強み」について②

わが社が強みとするものは何か、うまくやれるものは何か、いかなる強みが競争力になっているか、何によってそれを使うかを問わなければならない。

                    『未来への決断』より

これを具体化しないままに経営が行われている場合が多いようです。

しかし、これが具体化されていても全社員に浸透させることは難しいでしょう。


会社が強みとしているものではなく、その社員が強みとするスタイルが行われがちだからです。


会社は自社全体の強みを補完する形で社員個人の強みを生かす必要があります。

しかし、社員の側でも自社全体の強みを前面に出すことを意識する必要があります。

「強み」について①

あらゆる企業が自らの強みを知り、そのうえで戦略を立てる必要がある。
何をうまくやれるか。成果を上げている分野はどこか。
しかし、ほとんどの企業が、あらゆる分野においてリーダーになれると考える。
だが、強みは常に具体的であって特殊である。

                   『乱気流時代の経営』より


ドラッカーは、企業の成果は強みと機会を結び付けることで生まれると考えています。

その大前提が自身の強みを知ることであるわけです。

ドラッカーは、その企業の強みは、非常に限定的な具体的な能力であると考えています。

ドラッカーのこの考えは、のちに「コア・コンピタンス」と呼ばれるようになりました。


強みを無視した戦略は陳腐なものになってしまうというわけです。

ところが、この原則は現実にはあまり守られていません。

とある研修でバランス・スコア・カードの事例を取り上げていたのですが、そこではSWOT分析でやたらと詳細な分析を重ねた挙句に、選択した戦略は「弱み」を手直しするというものでした。

できあがった戦略は無難ではあるけれど、なんら未来を切り開く展望を持たないものでした。

このような事例が「模範」としてテキストに掲載されているわけですから、いかにドラッカーの言葉は深く理解されていないかがわかります。

2010年6月25日金曜日

ユニクロの経営理念16~23条

十六条 商品そのものよりも企業姿勢を買ってもらう、感受性の鋭い、物事の表面よりも本質を追究する経営

・われわれが「できる」ことはライバルも「できる」。
・差は「企業姿勢」で生じる。企業姿勢は一番重要だ。
・企業姿勢には会社の基本スタンスのすべてが含まれる。それらがすべて一貫していることが望ましい。
・社員全員がいつでも感受性を研ぎ澄ませていること。


十七条 いつもプラス発想し、先行投資し、未来に希望を持ち、活性化する経営

・経営には現在と未来しかない。過去を振り返るより、将来に向かって努力することのほうが大事。
・人間には二通りの人がいる。いつも未来を見ている人といつも昔を振り返る人。


十八条 明確な目標、目的、コンセプトを全社、チーム、個人がもつ経営

・明確な目標、目的、コンセプトを持っているかいないかで10年たったら100倍の違いが出る。
・多くの人はボヤっとしたものしかもっていない。それでは何も成果を得られず、達成感もない。


十九条 自社の事業、自分の仕事について最高レベルの倫理を追究する経営

・個々の仕事が「最高のレベル」でないと会社は続かない。
・昔から、中小・零細企業はモラルが低くて倒産する例が多かった。



二十条 自分が自分に対して最大の批判者になり、自分の行動と姿勢を改革する自己革新力のある経営

・「自己革新力」のない企業は長続きしない。
・「自分が自分の最大の批判者」になっている人は少ない。
・「ひょっとして自分は間違っているのではないか」と思わないと大きな失敗をする。


二十一条 人種、国籍、年齢、男女等あらゆる差別をなくす経営


二十二条 相乗効果のある新規事業を開発し、その分野でNo.1になる経営

・今のユニクロ(2003年12月)はできていない。
・ユニクロはベーシックカジュアルという一部の分野でしか活動していない。


二十三条 仕事をするために組織があり、顧客の要望にこたえるために社員、取引先があることを徹底認識した壁のないプロジェクト主義の経営

・大企業病脱却のためにかかげた条文。
・会社は、ビジネスチャンスがあって、ヒト・モノ・カネが集まってきて、その中で顧客の要望にこたえ、収益を上げるためにつくる。
・仕事をするために組織がある。社員も取引先も最終的に顧客の要望にこたえられなければ仕事をする必要はない。
・一つ状況が変わったら根本的に組織・仕事を変える。同じことを永遠にやっていたら会社はつぶれる。

2010年6月24日木曜日

ユニクロの経営理念10~15条

十条 公明正大、信賞必罰、完全実力主義の経営

・これは会社のモットーではなく、社員自身が実行しなければならないこと。


十一条 管理能力をアップし、無駄を徹底排除し、採算を常に考えた、高効率・高配分の経営

・売れているお店、派手な企業はあったとしても、儲かっていない企業である場合が多い。儲かる儲からないかの違いは「管理能力」の差。
・管理能力の質的アップをするためには「具体的な実行」が必要。
・採算面を考えていない人は多い。


十二条 成功・失敗の情報を具体的に分析し、記憶し、次の実行の参考にする経営

・ほとんどの人は成功した時も、失敗した時も分析しない。
・分析したあらゆる情報は次の実行のために役立てる。



十三条 積極的にチャレンジし、困難を、競争を回避しない経営

・チャレンジしないで成功した者はいない。
・物事には必ずチャンスとリスクがある。
・チャレンジには強い意志が必要。
・「狭き門」が近道であることが多い。



十四条 プロ意識に徹して、実績で勝つ経営

・勝てないプロには値打はない。
・プロは実績をあげねばならない。努力している」「人並み以上やっている」という人は勘違いしている。
・80%は実績で、20%は人柄などその他の部分で評価する。お金をもらって仕事をするプロはそういうものだ。
・勝負して勝つ、あるいは最終結論で勝つのがプロ



十五条 一貫性のある長期ビジョンを全員で共有し、正しいこと、小さいこと、基本を確実に行い、正しい方向で忍耐強く最後まで努力する経営

・自動的に商売が繁栄するということは普通ありえない。経営者がビジョン目標を持たないと商売はうまくいかない。
・長期ビジョンがない限り、サービスの本当の動機付けにはならない。
・成功する会社に共通しているのは、「正しいこと、小さいこと、基本」を徹底的にやりきっていること。
・やる以上は徹底すること。一見できているように見えても、ほとんどの会社はできていない。
・毎日毎日基本をあきるほどやることが成功の秘訣。

2010年6月23日水曜日

ユニクロの経営理念5~9条

五条 社員ひとりひとりが自活し、自省し、柔軟な組織の中で個人ひとりひとりの尊重とチームワークを最重視する経営

「自活」とは一人前になること。それは「どこの会社に行っても食べていける」こと。
「自省」とは計画し、実行し、反省し、次の行動を活かす。そういうサイクルを自分でまわしていくこと。
・チームで仕事する場合、マンネリ化・硬直化・形式化・表面主義が問題となる。各人が自活し、自省する必要がある。
・自活か、自省か、どちらかが抜けていると組織は硬直化する。
・個人プレーを優先する人がいる、逆に自分で考えないで上司にすべての判断を仰ぐ人もいる。これは両方ともダメな人。


六条 世界中の才能を活用し、自社独自のIDを確立し、若者支持率No.1の商品、業態を開発する。真に国際化できる経営。

・日本のような国は国境を作ってはいけない。社員も海外で活躍しようと思わないといけない。
自社独自のアイデンティティが大切。「去年これをやったから」「他社がこういうことをやっているから」。こんなことでは会社はつぶれる。
一つ一つの行動・事象で差別化できない限り、会社は成長しない。「同質化=死」と考えるべき。
・「商品」「業態」は自らが開発するもの。毎年変えていかなければならない。



七条 唯一、顧客との直接接点が商品と売り場であることを徹底認識した。商品・売り場中心の経営。

・経理・財務・人事の仕事であっても、自分が商品や売り場にどのように貢献できるのか、を考えなければその仕事はうまくいくはずがない。
・お客様にとって全く効果のない仕事は無意味。



八条 全社最適、全社員一致協力、全部門連動体制の経営

・自部門の都合だけを優先して考えることは、絶対にしてはならない。
・人間が増えれば増えるほど、自部署の都合で仕事をしないことが大切。


九条 スピード、やる気、革新、実行力の経営

・この四項目は小さくてよい企業の特徴。
・社員は全員自分が経営者と思わなければならない。
・企業は環境変化とともに自己改革しなければ生き残れない。
・去年と同じことをやったら成果はおそらく去年の3分の1

2010年6月22日火曜日

ユニクロの経営理念1~4条

何回かに分けて、ユニクロの柳井正氏自身の解説にもとづいてユニクロの経営理念をご紹介したいと思います。


一条 顧客の要望に応え、顧客を創造する経営

・去年と同じことをやっていたら、お客様はどんどん減っていく。
・要望にこたえてお客様を作り出していかなければならない。



二条 良いアイディアを実行し、世の中を動かし、社会を変革し、社会に貢献する経営

・柳井氏自身が持つ「事業」というもののイメージを文章化したもの
・本当に良い企業というものは、ある意味では社会運動に近いもの
・アメリカのハイテクベンチャーは経営者の「社会を変えたい」という強い思いがあったから急成長し、高収益企業となった。
・今までと同じものであれば誰も評価してくれない。



三条 いかなる企業の傘の下にも入らない自主独立の経営

・自分たちで考えて自分たちでやるようにしないと、すべての仕組みを変えることはできない。
・生き続けるためには変化し続けなければならない。
・自主独立は自己中心的とは違う。正しい考えの人たちが目標に向かって正しく実行できるような会社にしなければならない。



四条 現実を直視し、時代に適応し、自ら能動的に変化する経営

・黙ってお客を待っていたら、売れない店は絶対に売れない。店の態勢を抜本的に変えようとしなければ売れる店には変身しない。
・売れないという現実を直視する。対応するには時代背景・社会環境・お客様の真理を読むことから始める。
・チャンスとは待ち受けてからつかむやり方ではつかめない。
・事業というものは、もともとほとんど成功しないもの。10回やったら9回失敗するもの。
・事業はチャンスがあれば自分から近づいていき、自ら実行していかないとつかめない。




青字は私が特に感銘したものです。経営は主体的な行動であること、うまくやっているものもさらにうまくやるようにカイゼンすること、変化を拒否すること自体ビジネスシーンではありえないこと、などドラッカー経営の本質がよく反映されています。

2010年6月20日日曜日

ドラッカーをテーマにした研修の組み立て

先日、名古屋のT社で、管理職を中心とした社員約70名を対象に、環境整備とコスト管理の研修を行ってきました。

私の研修は、どのようなテーマであってもベースとしているのはドラッカー理論です。

今回の研修を準備するに当たり、全体の骨格として構想したものはおおよそ次のようになります。



(前提)
ビジネスパーソンは成果を上げねばならない。
企業は成果を上げねばならない。
したがって、あらゆるビジネス行動は成果の視点から検討されねばならない。


(各論)
オフィスの掃除やコスト管理といった一見すると当たり前のテーマも深掘りすると成果に行きつく。


①オフィスの環境整備

  • オフィスの環境整備の目的は、ビジネスパーソンの生産性をあげることにある。
  • 環境のコントロール状況は、現時点の生産性を示している。
  • 違和感の発生は、役割分担の不適切さ、モチベーション・モラルの低下、環境変化に対応する行動変更が存在しない、といったことが背景にある。
  • 環境整備を細かく見るだけで、ビジネスの現状がある程度読める。逆にいえば環境を整えていくことでビジネスの現状をよくすることができる。
  • 環境整備は企業の目的達成に向けて日常業務を微細にコントロールするものである。

②コスト管理

  • コスト管理はコスト削減の視点ではなく、対業績比を最大化する視点が必要。
  • 現時点は乱気流時代である。次が読めないが「構え」をつくることはできる。(ドラッカーの主張、コトラーが発展)
  • 「構え」とは現状の業務の生産性を上げ、資源の余裕を作り、それを機会に集中投入する体制をつくること。
  • 以前と同じやり方・レベルの仕事は顧客満足を低下させる。常に前より良い仕事をする。
  • コスト管理とは、常に前より良い仕事を前より少ない資源で成し遂げ、新しい打ち手をできる限り打ち、その成果を最大化させること。
  • コスト管理の最大のポイントは人の動き、特に時間の使い方。
  • コスト管理は成果に目を向けていないと、本末転倒となる危険がある。

単なる掃除や無駄遣いのチェックの心構えの話ならわざわざ研修を行う必要はありません。

最終的な組織の成果にいかにかかわっているかについて触れなければ意味がないと思います。


マネジメントにかかわる研修はいずれも企業の目的達成、つまり戦略的視点に基づいて行われるべきであるというのが私の考えです。

研修受講者はIT系の技術者が多いと伺っていましたので、こうした「文科系的」な話がどのように響くか若干懸念がありました。

もちろん、実際の研修は上のような抽象的な感じではなく、できるだけ身近な事例や表現に置き換えたのですが、骨格はほぼ上記の通りです。

しかし、アンケート結果をみると、大半が好意的な反応であったので私もホッとしました。




ドラッカーは組織やビジネスパーソンが成果を上げねばならないことを基本に、ビジネス上のあらゆる項目を体系的に整理しました。

ですから、ドラッカー経営を提唱するとビジネスシーンのあらゆるテーマが最後は必ず成果に結びつける形で説明できるわけです。



私の場合ですと

環境整備、コスト管理の他に、成果、利益、コミュニケーション、目標、リーダーシップ、達成、貢献、役割、責任、マーケティング、イノベーション、生産性‥‥

といった言葉のドラッカー的定義を丹念に読み取り、実際のビジネスシーンに当てはめるとどのようなアクションにつながるのかを検討してお伝えするというのが基本となっています。

柳井正の失敗論

スピードがない限り、商売をやって成功することはない。
だから、ぼくは失敗するのであれば、できるだけ早く失敗するほうがよいと思う。

                     (柳井正『一勝九敗』より)


柳井氏は失敗は商売につきものという考えです。

本のタイトルがそれを示しています。


ほとんどの人が、失敗しているのに失敗したと思わない。
だから、余計失敗の傷口が深くなる。
「回復の余地なく失敗する」ということは、商売や経営の場合「会社がつぶれる」ことを意味する。

なるべく短い助走期間でスタートさせる。
スタートさせて、そこで何かのポイントで失敗する。
そこを次のステップで修正する。いい失敗であれば、必ず次のステップにつながる。

‥「失敗の質」が大事だ。

                 (柳井正『一勝九敗』より)



柳井氏は失敗を致命的な失敗とそうでない失敗に分けています。

そうでない失敗は恐れる必要がないと考えています。


もうひとつ大事なことは、計画したら必ず実行するということ。

‥商売や経営で本当に成功しようと思えば、失敗しても実行する。また、めげずに実行する。これ以外にない。

‥失敗を早く認識し、ならばどうすればいいかを早く考え実行する企業しか、これからは生き残れないだろう。

‥利益があがらないということは、単純に失敗しているということなのだ。

‥失敗を失敗と認めるのは、自分の行動結果を客観的に分析・評価することができないと難しい。失敗を失敗と認めずにいると、だらだら続けて傷口が広がってしまう。無駄なことだ。

                     (柳井正『一勝九敗』より)


柳井市の失敗論は明快です。

成功するためには実行が必要であること、一直線に成功への道をたどることはできないので、細かい失敗を繰り返しつつ、フィードバックして方向を調整し、新たに実行を繰り返すことで成功へと向かうことです。

これが本のタイトル『一勝九敗』の主張です。

私はこれを「打ち手を増やす」という表現で考えています。

実を結ぶ打ち手は少ないわけですから、打ち手を多くしなければならないわけです。

2010年6月19日土曜日

柳井正の起業家十戒、経営者十戒

柳井正氏は起業家と経営者に対する教訓をそれぞれ10カ条にまとめています。


起業家十戒

1、ハードワーク。一日24時間仕事に集中する。
2、唯一絶対の評価者は、市場と顧客である。
3、長期ビジョン、計画、夢、理想を失わない。
4、現実を知る。そのうえで理想と目標を失わない。
5、自分の未来は、自分で切り開く。他人ではなく、自分で自分の運命をコントロールする。

6、時代や社会の変化に積極的に対応する。
7、日常業務を最重視する。
8、自分の商売に、誰よりも高い目標と基準を持つ。
9、社員とのパートナーシップとチームワークの精神を持つ。
10、つぶれない会社にする。一勝九敗でよいが、再起不能の失敗はしない。キャッシュが尽きればすべて終わり。



経営者十戒

1、経営者は、何が何でも結果を出せ。
2、経営者は、明確な方針を示し、首尾一貫せよ。
3、経営者は、高い理想を持ち、現実を直視せよ。
4、経営者は、常識にとらわれず、柔軟に対処せよ。
5、経営者は、だれよりも熱心に自分の仕事をせよ。

6、経営者は、鬼にも仏にもなり、部下を徹底的に鍛え勇気づけよ。
7、経営者は、ハエタタキにならず、本質的な問題解決をせよ。
8、経営者は、リスクを読みきり、果敢に挑戦せよ。
9、経営者は、ビジョンを示し、将来をつかみとれ。
10、経営者は、素直な気持ちで、即実行せよ。

2010年6月18日金曜日

柳井正の危機感と覚悟

優秀な人たちが入社したのはいいのだが、三年ほど続いたフリースブームの中で、フリース以外の商品も相乗効果で売れ、商売って意外と簡単だな、と誤解した人たちも現れた。

‥大きな変革期にいるはずなのに保守化が始まったのだ。

                      (柳井正『一勝九敗』より)  


柳井氏は希望に燃えて入社したはずの大企業出身者までもが、以前の会社で慣れ親しんだ経営管理のやり方をそのまま持ち込もうとすることに強い違和感を感じたようです。


成功するということは保守的になるということだ。今のままでいいと思うようになってしまう。
成功したと思うこと、それがマンネリと保守化、形式化、慢心を生む源だ。

‥商売というのは現状があまりうまくいかないときに、「だったら、どうやればうまくいくのか」ということを徹底的に考えるということであり、成功したと思った時点でダメになるのだと思う。

‥組織が大きくなっていくと、今度は安定を求めるようになる。
ぼくはもともと零細企業から出発しているので、安定を求めるのではなく、不安定さの中で革新を求めるほうがよいと思っている。

                      (柳井正『一勝九敗』より)


これ以上くわしい説明が不要なほど、柳井氏の目線がはっきりあらわれている記述であると思います。

柳井氏は、以前、大企業出身の若手幹部に社長を譲ったことがあります。
新社長はそこそこの業績を上げたにもかかわらず、柳井氏の評価は厳しいものがありました。

その理由はこの記述だけでわかるように思います。

柳井氏ほどの成功者が安定を求めていないわけですから、ほとんどの経営者は安定を求めて保守化するわけにはいかないのではないかと思います。

最後に柳井氏の腹のくくりを示す部分を書きぬいておきます。



われわれは失敗をしてもあきらめない。

‥挑戦と実行を支える「覚悟」があるのかどうか、ということだ。

‥実際に泥にまみれて「現実」というステージの上でやっていけるかどうか。これが最終的に問われることになる。挑戦と実行には必ず次々と難題がふりかかってくる。
そんな現場で最後まで手を抜かず。責任を持ってやり遂げられるのか。これが意外と難しいのだ。

‥何が必要かといえば「覚悟」の一言に尽きる。

                    (柳井正『一勝九敗』より)

2010年6月17日木曜日

柳井正の企業成長論

90年ごろまでは個人事業・零細企業の人材、91年9月から本格的にチェーン展開するようになってからは中小企業・中堅企業の人材が入社してきた。

‥上場してからは停滞期に入ったが、この時期に新しい時代を作っていく高い志ある人々が入社し、それからフリースブームになって、さらに優秀な人たちが大企業から転職してきてくれた。
                            (柳井正『一勝九敗』より)


この記述から、柳井氏は人材のレベルを組織の大きさに照らして3つに類型化していることがわかります。

1、個人事業・零細企業タイプの人材
2、中小企業・中堅企業タイプの人材
3、大企業タイプの人材


ほとんどの企業が中小企業なので、そこでの人材は1か2になります。そして1と2の違いはチームの存在の有無でしょう。

そして、2と3の違いはチーム運営の高度化・高い目標達成といった問題にかかわるでしょう。



‥この成長過程で退社した人たちもいる。

仕事の質や量の高まりや変化についていけなかった人や、何となく会社にぶら下がっていたような人。
‥自分が思っている会社のイメージと違ってきたと感じた人、いわゆる現状維持派。たとえばこんな人たちだ。
人それぞれ考え方が違うので、退職するのも仕方がなかったと思っている。
                        
                                  (柳井正『一勝九敗』より)



柳井氏は零細規模から大企業までのすべてのプロセスを経験している経営者ですので、その感想には重いものがあると思います。

企業が成長していくためには社員の意識が先行して一段階上のレベルに合わせられなければなりません。

しかし、多くの人は保守的ですからそれができないのだと思います。


柳井氏は突出した高い意識の持ち主ですから、その意識レベルの高さについていけない人がいるのは致し方のないところであると思います。


ドラッカーは成長することは個人の責任であると明言しています。
経営者はどれほどの到達点を目指すのかを明示する義務があります。
そしてその組織構成員はそのレベルについていく義務があるといえるでしょう。

2010年6月16日水曜日

柳井正の組織論

会社組織は、その会社の事業目的を遂行するためにある。
いったん、組織が出来上がってしまうと、今度はその組織を維持するために仕事をしているように見えることがある。

‥おそらく組織保存の法則のようなものがあって、組織を作ると上司はそれに安住するほうが楽なので、変化を求めず安定を求めていく。

会社の環境、顧客や社会情勢が変わると、組織や人員配置を変えなければ対応できないのに、環境等が変わったこと自体を認めなくなるのだ。
                         (柳井正『一勝九敗』より)




組織の自己目的化は大なり小なりおこるものです。その最たるものは官僚組織でしょう。

そこで柳井氏は次のように主張します。


組織は攻めのために作り、守りのためには必要最低限のものしかいらない。
常に仕事をするためにあって、組織のための仕事というのはない、と考えておく必要がある。

‥当社の組織はよく変わるといわれる。‥まだまだ流動性が足りず、毎日変えたいくらいだ。

                          (柳井正『一勝九敗』より)



柳井氏は組織の存在意義はミッションの達成にあると明確に意識しています。組織はそのための手段であり、手段を目的化することの危険を強く意識しているようです。

経営理念は多くの企業で作られています。

しかし、その理念を読んだだけでどこの会社かが分かるほど具体的に書かれている場合は少ないように思えます。

経営理念を読んだだけで会社が映像化できるぐらいに具体的に設定しなければ、組織を作る上であまり役に立たないような気がします。

閑話休題-スタッフブログ

TMAのホームページで当社のスタッフによるブログを始めました。

気になったお店、商品、イベント。
おもしろい出来事、おいしい料理などなど。

特にテーマを決めずに色々と情報発信していきたいと思います。

こちらのブログはデータベース的なものですので、スタッフブログには私も投稿していきたいと思います。

http://tmacs.blog130.fc2.com/

2010年6月15日火曜日

柳井正のチーム論

一人で全部の仕事がこなせるはずもない。個々人がそれぞれ得意技を持ちながら、チームで仕事をすることも重要だ。
商売の世界は凡人でも非凡な成果が得られる。それはチームの力だと思う。
                            (柳井正『一勝九敗』より)


組織で成果を上げるのはドラッカーのマネジメント論の基本です。

組織は個人の弱みを無意味なものとし、個人ではあげることのできない大きな成果を上げる最高の手段となります。


チームを組むには、まず、明確な目的や目標が必要だ。

‥ゲームに勝ち、優勝するという目的意識が重要なのだ。

‥商売でも同じで、まず目的と目標を持って、同じ方向性を目指している人たちがそのチームに入る。それが大きな前提だ。
                          (柳井正『一勝九敗』より)



これがドラッカーの言うミッション(使命)とビジョン(将来像)です。
ばらばらな個人が一体として機能するためにはどうしても必要なものです。
これを常に意識することでしか組織は機能しません。

与えられたポジションで、自分がその責任範囲を果たせるだけの能力を持たなければいけない。

お互いが分かりあっていないと、一丸となって一つのことを達成したり、ゴールにボールをけりこむこともできないし、ホームランも打てない。
会社経営にも同じことが言える。

いつもリーダーが全員の目の前にいるわけではないので、いかにも目の前にいるかのように、チームの基本方針、行動指針、戦略目標などを作って開示しておく。
こういう場合はこういうふうにして考えるのが原則ということを教え、共有しておかないとチームとしてうまく動かない。

                    (柳井正『一勝九敗』より)

どのくらいの人数からチームとしての意識が必要となるでしょうか?

私は業種別の付加価値の平均値から逆算して、製造・建設業などでは10名以上、サービス・飲食などでは5名以上からは明確にチームとしての意識が必要であると思います。

それ以下の事業規模を私は「零細企業」と定義しています。


2010年6月14日月曜日

柳井正の仕事論

毎日、同じことをやることが文化になってきてしまう。
同じことを続けると、創意工夫しなくなるし、思考が硬直化する。

自分で判断し、自分で行動することができなくなる。
自分で判断するよりも、本部の方針やマニュアルに従っていたほうが安心だ、自分は作業だけやっていればいいんだ、という感じにさえ陥ってくる。
                             (柳井正『一勝九敗』より)


これが柳井氏が考える現場の陥りやすい問題点です。

私は、ドラッカー経営の観点から、「前と何を変えましたか?」と聞くことが重要であると思います。

前と同じ仕事は価値はないわけです。変えた点は創意工夫した点です。
変えた点がないならば、前より仕事の質が落ちたということです。

ドラッカー、ヴェルディ、チャップリンはいずれも「次の仕事が最高の仕事」という考え方をしています。

それは、仕事は常にレベルを上げていくものであるという前提があって初めて言える言葉です。

この感覚を持つ人は少数派です。ドラッカーはこれを知識労働者と呼び、柳井氏はユニクロの店長こそこれであるべきだと考えています。

そして、ユニクロでこの感覚を持つ店長が10%しかいないというわけです。

2010年6月13日日曜日

柳井正の経営理念論

‥いつの間にか「会社に勤める」のが当たり前になり、会社がそこにあることを前提に「惰性で」仕事をするようになる。
自分は何のために会社で仕事をしているのかという原点を忘れてしまう。
そうならないためにも明確な理念が必要なのだ。

‥店を開けていればお客様は来て当然、売れるのは当然と考えるのは間違いで、お客様の要望にこたえないと売れないし、店も繁盛しない。
そして、去年と同じことをやっていたら、お客様はどんどん減っていく。
要望にこたえてお客様を作り出していかなければならないのだ。

‥今までと同じものであれば誰も評価してくれない。世の中に役立つような商売をやらないと収益は上がらない。
                   (柳井正『一勝九敗』より)


あまりにも当たり前のことです。

しかし、9割の企業では当たり前ではありません。

現在の企業環境で売上の伸び悩みを目の前にしながら、以前のやり方を変えないという人が9割です。

柳井氏ほどの厳しい視点を持つ経営者の下でも「うちの店長で知識労働者といえるのは1割ぐらい」だそうですから、その他の企業では推して知るべしです。

柳井正のリーダーシップ論

やろうと決めたらその瞬間にそのとおり実行されないと、つぶれる。
生きるか死ぬかの勝負をしていた時期だったので、ボトムアップをしている時間的な余裕はまったくなかった。

企業には成長のステージごとに最適の教育が必要なのだ。90年代前半のユニクロは、1人1人の社員が発想してやっていたら、進路や方向性を失っていたはずだ。
トップダウンの体制でなければ、次々と高くなるハードルを乗り越えることは難しかったと思う。

                                (柳井正『一勝九敗』より)




これは、トップダウンがよいのか、ボトムアップがよいのかという経営をめぐる基本的な問いに対する柳井氏の回答です。

私もほぼ同感です。

柳井氏がこの感想を抱いた90年代前半はユニクロが「斬った張った」の経営をしていた頃であると思われます。

ちなみに、日本の会社の98%は中小企業であり、その大半が「斬った張った」の真っ最中であると思います。

ビジネス書の中には、独自の強みを持つ超優良中小企業を紹介するものがよくあります。

それらの多くが、「素晴らしい経営者が、社員にやさしい経営をした結果、素晴らしい会社になりました。」という紹介の仕方をされています。

しかし、それは結果から原因を逆にさかのぼったものであると思います。

柳井氏は先代から受け継いだ衣料品店を経営し始めたとたんに、それまで働いていた社員のほとんどに辞められてしまっています。

その原因は、柳井氏の目線の高さと社員の目線の高さのギャップにあると思われます。

柳井氏は現在でもユニクロの現状から10倍ぐらいに飛躍する目標を設定しています。

柳井氏は、おそらく広島のちょっとした衣料品店の経営を始めた当初から、相当レベルの高い目標設定をすることが習慣化していたと考えられます。

目標設定を自分の力量よりかなり上に設定する傾向のある人は経営者に向いていると思います。
逆に、ほどほどの目標設定をする人はあまり向いていないように思います。

柳井氏ほどの高い目標設定をする人が社内の大半の意見であるほどほどの目標に合わせていたら、おそらくユニクロの躍進はなかったでしょう。

しかし、次のステップはすぐにきます。次のステップに来た場合にはまったく違う原理が働きます。

2010年6月12日土曜日

柳井正の会社論

ファーストりテーリング(ユニクロ)の社長である柳井正氏の著書に『一勝九敗』があります。

要するに柳井氏は次々といろいろなチャレンジをしてきたけれど成功率は1割ぐらいでしたという話をモチーフに、ユニクロが現在に至るまでのプロセスを語っている本です。

ご承知のように柳井氏はドラッカー経営を実践する経営者ですので、端々に深みのある発言が多数ありますので、何回かに分けて紹介したいと思います。

まず、会社論です。


そもそも、最初にビジネスチャンスがあって、そこにヒトやモノ、カネという要素が集まってきて、会社組織という見えない形式を利用して経済活動が行われる。

しかし、経営環境は常に変動する。

当然のことながら、金もうけやビジネスチャンスがなくなることがある。
そうすれば会社はそこで消滅するか、別の形態や方策を求めて変身していかざるを得ない。

会社とは一種のプロジェクト、期限のあるもの、と考えるべきではないだろうか。
          
                                          (柳井正『一勝九敗』より)


柳井氏は会社プロジェクト論という考え方をお持ちのようです。

実は、私は中小企業は社長が活動する間継続する長期プロジェクトであるという考え方を12年ほど前に思いついたことがあります。

仮に40歳前後で社長となり、65歳前後ぐらいまで一線でやるとした場合には、25年のプロジェクトとしてとらえるというものです。

その場合、25年後に会社をたたむのか、後継者に譲るのかも含めてビジョンを持つ必要があると考えたわけです。

私の着想は中小企業は社長の個性が経営に色濃く出ますので、社長の活動期を20~30年と考えたうえでの『中小企業プロジェクト論』を構想したわけです。

ただし、柳井氏の視点はさらに厳しく、会社の賞味期限が切れたらプロジェクト終了というものです。



会社はもともと期限のあるものと考えるべきで、新しい事業の芽を出し続けない限り、賞味期限が切れたらそこでおしまいなのだ。
               (柳井正『一勝九敗』より)

2010年6月11日金曜日

人材育成とドラッカー

日経ビジネス2010.6.14号は人材育成の危機についての特集でした。

世代について1986年以降入社の「バブル入社世代」、1993年以降の「就職氷河期世代」、2008年以降の「ゆとり教育世代」にわけ、それぞれの問題点を浮き彫りにするところから議論を進めています。

そのうえでリクルートワークス研究所の大久保幸夫所長の見解が紹介されているのですが、おおよそ次のような内容です。


・1980年代後半から大量採用したバブル入社世代が管理職として中ぶくれしている企業は問題。大手企業の約7割が当てはまる。
・バブル崩壊後の新卒採用抑制でバブル世代は部下育成の経験が少ない。
・40歳以降、部下育成が職務となったバブル世代が果たして対応できるかが課題。

・50代のベテラン社員と20代の若手社員が多いという組織は名門製造業に多い。このタイプの企業は技能伝承が課題。

・理想的には高年齢世代が少なく低年齢世代の多いピラミッド型がよい。高度成長期の日本企業の構造である。
・残念ながらピラミッド型企業は全体の2割にすぎない。

・日本企業の人材育成が弱体化したのは成果主義の弊害が大きい。部下育成は数ある評価項目の一つにすぎなくなった。
・組織のフラット化で課長が多くの部下を抱えることとなり、きめ細かな指導はできなくなった。


さて、ここで大久保氏が提案するのが、一部の大手総合商社がやっているように、部下の育成を担当する大ベテランのチューターを活用することです。

60歳近い大ベテランと20歳代の若手で店舗運営を任せたところ顧客満足度が大幅に向上した海外のスーパーの事例などが紹介されていました。


ところで、ドラッカーは成果の具体例として

・直接の成果
・顧客の価値にかかわる活動
・人材育成

の3つを上げています。

直接の成果は短期的視点、次の二つは中長期の視点に立つ今日の成果ということです。

人材育成は中長期の成果なのです。

そして、人材育成のポイントは本人の自己管理による目標管理制度であると述べています。


ドラッカーの目標管理制度はビジネス界で一般的に行われているものとは全く異なります。

まず、ドラッカーは「レベルを上げることは当人の責任である」という前提からスタートします。

目標管理は当人が自身が到達すべきレベルを決定し、その結果を本人にフィードバックし、それを踏まえて本人がよく考えて次の目標を設定するPDCAサイクルを回すという、あくまで自己研さん支援システムであるということです。

ドラッカーはこのシステムを直接処遇に結びつけることは問題であると考えているわけです。

ドラッカーのマネジメントの基本形を簡単に示すと

①組織(チーム)全体で大きな成果を上げる ⇒ ②成果に対する貢献度に応じて配分を受ける

となります。

多くの企業の目標管理制度が①を達成できない状況で、②を行おうとするための言い訳の道具にされてしまっている点が問題になるわけです。

ドラッカーは「目標管理制度は不況期に採用してはならない」と述べていますが、こうした事態を懸念してのことであると思われます。

全体成果が出なければ、どれだけ1個人ががんばっても報われないわけです。

ドラッカー流目標管理制度では、各人が組織全体の方針を適切に理解し、自身が適切にレベルアップしていけるように研さんの目標を立てなりません。

大ベテラン社員がチューターとして付く仕組みが機能するためには、この視点が抜けてはならないように思われます。

2010年6月10日木曜日

ネクストワン!

「ネクストワン(次の作品だ)!」

「あなたの最高の作品はなんですか?」と記者から聞かれた時のチャップリンの返答です。

トップレベルの人たちの発言は似ているものですが、ドラッカーもチャップリンと同じ返事をしています。

「今まで書いた数十冊の本の中で、どの本が一番良い良い本だと思いますか?」
「ザ・ネクスト!」 これがドラッカーの回答です。

この質問を受けた当時、ドラッカーは90歳を超えていました。

ドラッカーは作曲家のヴェルディが80歳の時にオペラの名作を書きあげた際に「次の作品こそが自分のベストだ」と述べていることを引用しつつ上記の発言を行ったのです。

ドラッカーは、プロフェッショナルの定義として、①完璧な仕事を約束できないが、最善の仕事を約束する ②知りながら害を与えない の2つの条件と提示しています。

一見簡単そうですが、実に深みのある条件です。

現時点におけるベストのパフォーマンスは、次回の仕事ではそれを超えていかねばならないわけです。

ですから、プロフェッショナルであるならば最高の作品は論理的に「ネクストワン!」になるのです。

さて、先週の研修で、この話をした際に私はこのように付け加えました。

「次の作品が最高の作品であるならば、二番目の出来栄えの作品はどれになるはずですか?」

この質問に対する論理的な回答は 「一番最近の作品」 となるはずです。

しかし、実際にそうなっているでしょうか?そうなってはいない場合が多いのではないでしょうか?

これが「最善を尽くす」ことのむずかしさです。以前のベスト・パフォーマンスを超えることができなかった場合には綿密な検討が必要でしょう。

コスト管理について

現在、ドラッカー式のコスト管理のセミナー準備に追われています。

コスト管理というといかにも会計的なテーマに聞こえますが、コストという概念をどのように定義するかによって導き出される結論は異なってきます。

ドラッカー経営ではコストより利益のほうが頻繁に取り扱われますので、利益をもとにして説明してみましょう。

利益とは?

会計的には収益から費用を差し引いたものです。

経済学的には過去の投資に対する報酬といった意味合いになります。

これに対してドラッカーは明日のための費用の原資であると考えます。

そこから「利益はコストである」という有名な命題が導き出されるわけです。


ここだけ取り出して聞くとかなり奇妙に思えますが、ドラッカー理論の特徴は理詰めで詳細な検討を行ったうえで、ごく単純な原則にまとめているところです。

2010年6月8日火曜日

閑話休題-屋台船と文壇バー

研修講師の仕事で東京に出かけてきました。

今回は焼津の建設業H社からのご依頼で、同社の安全衛生協力会の研修旅行の研修として「ドラッカー経営」について話をするというものでした。受講者は40数名といったところです。

H社の専務とは静岡銀行の勉強会であるShizuginshipで親しくさせていただいており、そのご縁で今回の話をいただいたのです。

建設現場のたたき上げの方にこのテーマでお話をするのは自分にとってもちょっとしたチャレンジでした。
しかし、参加者の皆さんに熱心に聞いていただき、講師として中々やりがいがありました。
アンケート結果も予想以上によかったので、ホッとしました。

研修終了後には隅田川の屋形船で懇親会があり、私もご招待いただきました。
屋台船にのったことがなかったので、とてもうれしかったです。

屋台船はきれいで空調も快適です。
トイレもウォシュレット付きのものが4か所もあり、料理も普通のお店で食べるのと同じでした。自分がイメージしていたものと全く違っていました。

船はお台場付近に停泊して宴会をするのですが、外に出ると実にきれいな夜景でした。
周りを見渡すとたくさんの屋台船が同じように停泊していました。

宴会がお開きになってからは、1人で浅草から銀座に移動して、有名な文壇バー『ルパン』にでかけました。

ここは太宰治や坂口安吾をはじめとして、多くの小説家のたまり場になっていたということで有名です。
名前だけは昔から知っていたので、いい機会だと思い訪ねてみました。

落ち着いたおしゃれなバーというよりは、気楽な大衆酒場という感じのお店です。
客層は年配で品のあるビジネスマンが多く、女性同士のお客も何組かいました。お客さん同士が談笑し、とても賑やかで予想外に敷居が高くないお店でした。

座った場所がカウンターの奥のほうであったため、太宰治の有名な写真が目の前に飾ってあるのをじっくり見ることができました。

写真の太宰の右側の背中を向けた男は坂口安吾ですが、自分の席が安吾の席と同じ場所だったのでいっそう気分よく飲むことができました。
たまたま隣にいた昔からの常連さんと思われるビジネスマンからお店についていろいろなエピソードもうかがうことができました。
ちょうどこの写真の位置関係で話をしていた感じです。

その方がマスターに声をかけてくれたので、お店のパンフレットをいただくことができました。


お店のマティーニは独特な作り方です。
グラスに先に氷を入れてベルモットを注いでから、その氷とベルモットを捨てているようでした。
ステアの仕方はかなりあっさりとした手順のようです。

全体的にはかなり大雑把な作り方に見えたのですが、味はとてもおいしかったです。

坂口安吾が好んで飲んでいたというゴールデンフィズも飲めてとても満足しました。

2010年6月7日月曜日

書評-「社長さん! 税理士の言うとおりにしていたら、会社つぶれますよ!」②

河辺よしろう著『社長さん! 税理士の言うとおりにしていたら、会社つぶれますよ!」 定価1,470円

今回は河辺氏のランチェスター経営のコンサルタントとしての主張をまとめます。

概要は以下の通りです。

・「強者」は儲かる。約8割の確率で業界平均より経常利益が3~6倍よくなる。経営にレバレッジが利いている。
・「弱者」が勝とうと思えば、“小さな山”で強者を目指すべき。

・イノベーションよりリノベーション(事業再構築)。ポイントは「商品」「客層・業界」のどこかをできるだけ変えないでビジネスモデルを深耕する。

・新規顧客の開拓は難しいので、ビジネスモデルを転換するときには、できるだけ「顧客」を変えないようにするのがこつ。
・決算書をいくら眺めても会社の強みは見えない。「目に見えない企業価値」こそが大事。
・「強み」をもたない会社はない。

・徹底的にお客様目線で自社の魅力を探す。
・経営の問題 ①現状がわからない ②目的・目標がはっきりしない ③プロセスが分からない

・5つの数字で経営を見える化する。 1、売上額 2、人件費 3、材料費 4、設備費 5、総支出

・社長用の財務データ 1、損益余裕率 2、人件費に対する純利益割合 3、一人当たり純利益 4、一人当たり自己資本 5、売上と粗利の年計データ

・現代の儲けの方程式 客単価×客数×回転数=売上 客単価と客数があげられないなら回転数を増やすしかない。
・回転数を高めるには「お客様に忘れられない」こと

・商品開発は「裏の道」を行くこと。ex.ゴールドラッシュのアメリカで儲けたのは金を掘った人ではなく、その人たち相手に商売をした人
・商品が決まったなら利益を確定させる。中小企業は価格を高く設定できないかがポイント。
・ダメなチラシとは。一番多い失敗は、いくつもの商品を載せているチラシ。

・イノベーションは強い企業価値がなければ無理。ほとんど起業と同じ。生半可な強みでは生き残れない。
・イノベーションを目指すならエースは既存事業にではなく新規事業に投入する。

・戦略と戦術の違いが分からないから迷走する。戦略は首から上で考えること。戦術は首から下で繰り返し行われる作業のこと。戦略を担うのは社長さんしかいない。

・社長の役目は会社の規模で違う。小さい会社は戦略を立てながら戦術も実行する。
・ムダなポストは廃止する。
・社員に「求める役割」と「期待する成果」を示せ。

・社員の行動は管理しない。
・一番大切なのは熱意と覚悟。

なかなかうがった原則が提示されています。小さな会社の経営者には役立つ話であると思います。

これまでランチェスター経営の概要を解説してきましたので、すでにお分かりでしょうが、これらの原則はランチェスターの法則からすべて導き出すことは不可能です。

ですから、一つ一つの原則について読み手の側でしっかりと取捨選択する必要があるのです。

河辺氏の著作でもドラッカーの原則が多用されています。

私の場合も原則的にドラッカーの著書に書いていることをベースにして原則を割り出します。

そして、コトラー、ポーター、コリンズなどの経営学者の著名な著作や、有名経営者の言動などから引き出された原則も使用します。

ただし、ドラッカーの原則と矛盾する場合には、なぜそうなるのかを分析して、一定の結論を出すというやり方をとります。

一番の特徴は、原則の出所をすべて明らかにすることを心がけているところです。

2010年6月6日日曜日

書評-「社長さん!税理士の言うとおりにしていたら、会社つぶれますよ!」①

河辺よしろう著『社長さん! 税理士の言うとおりにしていたら、会社つぶれますよ!」 定価1,470円  


河辺氏はランチェスター経営の有力なコンサルタントです。
私も税理士ですから、河辺氏のご意見はしかと受け止める必要があるでしょう。

河辺氏の立論の ①税理士批判の部分 ②ランチェスター経営の部分 にわけて検討したいと思います。

まず、河辺氏の税理士批判の概要は以下の通りです。

・「不況をしのげば一息つける」という考えは迷信。「下請け」というビジネスモデルは崩壊してしまった。脱下請けだけが生き残る道。
・ビジネスモデルとは「何を」「どこで」「誰に」「どうやって売るか」の4つを決めるだけのこと。
・小さな会社であっても4つの要素をとことん考えれば勝てるビジネスモデルが作れる。

・税理士は「経営のプロ」ではない。あくまで「税金のプロ」である。
・税理士のとんでもない経営指導を真に受けてしまうと、ウソではなく会社がつぶれてしまいかねない。

・税理士業界は過当競争になりつつある。じり貧状態になりアセっている税理士も少なくない。
・税理士が生半可な知識でSWOT分析、経営理念づくり、目標設定のあいまいな経営計画書を作成したりすることで、経営で一番大事なお客様作りに悪影響を与えることが多い。

・税理士の決算書の見方は間違っている。税理士はB/Sを重視するが、時代はP/L重視である。
・税理士は数字の先に「お客様」がいることがわかっていない。利益はお客様と向き合うことでしか生まれない。

・税理士は納税のための決算書しか作らない。その決算書をもとに経営分析しようとする過ちを犯している。

・税理士は営業経費の「投資」性にきづかない。重要な投資を削って会社を窮地に追いやってしまう。会計上の経費でも経営上の投資があることを知らない。
・税理士は経営の「目標」を設定することはできない。まず最初に目標利益額を設定してしまう。


かなり厳しい指摘ですね。

「そんなことはない!」と言いたいところですが、かなり的確な指摘でしょう。

「税理士は色々な会社を見ているから、さぞかし適切な助言ができるであろう。」との期待が企業側にあること、また実際、経営上の悩みを聞いてもらう相手が税理士しかいないという状況から経営相談がなされているにすぎないわけです。

河辺氏はきちんとフォローも入れています。
本腰を入れてコンサルティングを行っている税理士は評価しています。

中国・ベトナムの税務会計の助言を行っている岐阜の税理士
経営危機の会社に自身が出資をして経営に加わっている埼玉の税理士
自社でインキュベーターオフィスを建設し、ベンチャー企業の支援を行っている税理士
企業を組織化し、有名コンサルタントなどを招いて定期勉強会を開催する税理士


ただし、私は河辺氏が例に挙げられている税理士を経営コンサルタントとして評価する論拠があいまいであると思います。

これはそもそも経営コンサルティングとは何か?という定義の問題に関係しています。

事例の税理士はいずれも積極的に活動している点ではビジネスパーソンとして優れていると思いますが、あくまで特徴をもった経営を行っているということのように思われます。

2010年6月5日土曜日

ランチェスター経営について⑥

ここまでランチェスターの軍事法則から田岡氏の考案するマーケティング分析の指標、そしてランチェスター経営の骨格を説明してきました。

特に軍事法則の部分とマーケティング分析の部分は卓見です。実用性が非常に高いものといえます。

また弱者の戦略、強者の戦略もマーケティング分析の結果とある程度整合しています。
経営の基本的考え方を身につける上で大変有益であると思います。

弱者の戦略と強者の戦略をよく見ると、それ以前の法則との間には論理のギャップがあります。

それ以前のモノは数理的な手法で組み立てられています。米国の経済学の論文などと同じようなスタイルです。

ところが弱者の戦略、強者の戦略はそこからインスピレーションを得てまとめられています。そこにギャップがあります。

実際、これらの戦略の内容は古代の兵法書である「孫子」の内容を矛盾しない内容となっています。
孫子は数理的に導かれた法則ではありません。あくまで古代の優秀な作戦家が自身の経験と思索によってまとめたものです。

つまり、ランチェスターの戦略は戦略的には当たり前のことが整理されているものなのです。

3倍なら必ず勝ち、1.73倍なら戦略的に優位であることさえ押さえておけば、後はドラッカーのような深みのある本を熟読した方が良いように思われます。

ただ、深く考えることをすべての経営者ができるわけではありません。

多くのランチェスター関連のビジネス書は、この弱者の戦略を色々な角度や事例を使って説明しているものですから、それはそれで有益です。

しかし、ランチェスターの法則というたった二つの法則で正しい経営を体系的に説明することは無理があります。
世の中の複雑な経済現象をたった二つの経済法則で説明しきることができないことと同じです。

ですから、それぞれの本で主張されている内容については役に立つと思われる事例だけをピックアップするとよいでしょう。

次にまとめておきます。

①ランチェスターの法則、マーケティング分析指標と強者・弱者の戦略を分けて考える

②強者・弱者の戦略は経営の一般論として妥当する。ただし、具体例については読み手自身が自分の頭で考えて個別の状況に当てはまるかどうかを判断する。

③法則を機械的に当てはめて経営を行う愚を犯さない。最後は自身の責任において決断する。

2010年6月4日金曜日

ランチェスター戦略について⑤

田岡氏はランチェスターの法則に基づき市場シェアの目標値を設定しました。さらに進んで企業戦略を提起します。これがいわゆるランチェスター経営です。

主な前提

1、効率化・合理化のやり方には企業で大差はない。しかし、マーケティング戦略は違う。企業ごとに異なるべきものである。

2、強者と弱者に分ける。1位は強者、2位以下はすべて弱者。

3、強者・弱者は場面ごとに判断する。たとえばトヨタは自動車メーカーとしては強者だが、軽自動車の面では弱者である。

4、新規参入者は弱者である。

こうした前提とランチェスターの法則、マーケットシェアの法則から田岡氏は弱者の戦略を提起します。

弱者の5つの戦略

①局地戦で戦う
弱者は広い地域ではなく、せまい地域・エリアで戦うべき

②一騎打ちで戦う
確率戦闘を避け、一騎討ちの状態を作る。一騎打ちなら大手に勝つ可能性がある。

③接近戦で戦う
顧客との距離を縮めた戦い方をする。接近戦では強者は力を発揮しにくい。
具体的には、直販方式、川下作戦、地元を固める、スキンシップ重視など

④一点集中
物量に劣る弱者は資源を総花的に投入する愚を避けて、重点を定めて集中する。


⑤陽動作戦
敵の注意をかく乱し、自身の意図を見抜かれないようにする。


そして、弱者の戦略の裏を行くのが強者の戦略です。

強者の戦略(太平洋戦争におけるアメリカ軍の戦略)

①広域戦
弱者の資源の制約をついて、戦闘エリアを広げさせてしまう。

②確率戦
一騎打ちを避け、集団戦に持ち込んで相手が確率的に勝てる芽をつぶしていく。

③遠隔戦
販売戦略においては卸のフル活用と広告宣伝の強化がこれに該当する

④総合戦
すべての武器を利用して総合力で劣る弱者をたたく。圧倒的な量で戦うのがポイント。
総合戦では部分的弱点を消すことができる。

⑤誘導作戦
敵をこちらの都合のよい方へ導く作戦のこと。強者は弱者に自分のやり方を真似させるのが簡単な誘導作戦となる。


これが弱者の戦略・強者の戦略の骨子です。さらにランチェスター戦略には3つのポイントがあります。

①ナンバーワン主義
どこかの部分でナンバーワンとなる。具体的には2位と1.73倍以上の差をつける得意な領域を作る。

②弱者優先攻撃
強者と争わず、自身より弱いものをたたく。また強者に対しては相手の弱点をつく。

③一点集中主義
市場を細分化し、その中からシェア40%をとれるまで攻撃を続ける。


これがランチェスター経営の概要です。

2010年6月3日木曜日

ランチェスター経営について④

軍事に適用されるランチェスター方式は一騎打ちなら3倍の軍事力を、確率戦闘なら1.73倍(ルート3)の軍事力を使うというものです。

この法則をもとにさまざまな方程式を組み合わせてマーケティングのシェア問題に一つの回答が与えられました。これを考え出したのがランチェスター経営の生みの親である田岡信夫氏です。

田岡理論では、市場シェアは販売競争の優劣を測る物差しとみなされています。

そして、市場シェアが圧倒的であるとされるラインを具体的に数値で示したのです。

①73.9%(上限目標値)

②41.7%(相対的安定値)

③26.1%(下限的目標値)

が特に重要な指標とされています。

①はほぼ独占状態であり、すべての企業に対して3倍以上の戦力を持つ状態が実現されています。つまり、1対1では必ず勝てるラインをクリアしています。

②は、3社以上が存在する市場における安定的強さの指標で、2位企業とは1.73倍以上の開きがある状況です。確率戦闘の法則上安定的強さがあるレベルです。業界の主流であり、独走状態になる水準です。

③は、その他大勢の状態から抜け出して、ある程度安定するシェアです。

もちろん、きれいな法則どおりで軍事やビジネスを展開するわけにはいきません。現実には不測の要素もいろいろあるでしょう。
しかし、1対1なら3倍、確率戦闘なら1.73倍という数値に基づくことによって、かなり明確な判断ができるようになるわけです。

このシェアについての目安の影響力は大きく、トヨタは②のシェア41.7%を目標にし続けてきました。
そのほか、田岡氏のマーケットシェアの指標はシェア重視の高度経済成長期において大きな役割を果たしました。

マーケティング分析のための明確な指標を打ち出したことは田岡氏の大きな功績であるといえます。

2010年6月2日水曜日

ランチェスター経営について③

ランチェスターの法則はランチェスターが航空戦から見つけ出した戦略です。

そして第一法則「一騎打ちの法則」第二法則「確率戦闘の法則(集中効果の法則)」の二つがあります。

このランチェスターの法則を使いこなしたのが第二次大戦中のアメリカ軍です。

特に太平洋における日本軍との戦いには絶大な力を発揮しました。


一騎打ちの法則から割り出される、絶対的に有利な戦力差は3倍です。

そして、確率戦闘の法則によるとルート3、つまり1.73倍の差が付いていれば勝利は確実です。

これを具体的に戦略に落とし込むとこういうことになります。


アメリカ軍は特定の地域における日本軍が10万人いると把握したら、その地域には日本軍の1.73倍の兵力、つまり17万3千人を送り込む。

そしてその地域で日本軍と戦闘を交える場合、人員と物資の集結を迅速に行い、戦闘時において3倍の兵力差となっているように計画を練る。

実に単純な原理ですが、この原理にしたがえば最も効率的に軍隊と物資を展開できるわけです。

実際にこうした計画によってアメリカ軍はほとんどの戦闘で日本軍を圧倒しました。


また、同じように戦略と戦術にはそれぞれ資源を2:1の割合で投入することが効率的であることが提起され、生産の主眼を戦略爆撃機のような兵器に置くことに指針を与えることにもなったのです。

2010年6月1日火曜日

ランチェスター経営について②

ランチェスター経営戦略のもととなっているランチェスターの法則は2つあります。
一つは「一騎打ちの戦略」でもう一つは「集中効果の法則」です。



第1法則「一騎打ちの原則」とは、軍隊同士の武器の性能が同じであるのならば、数が多いほうが勝というものです。当たり前といえば当たり前ですが。

具体的に言うと、A軍の兵力が5、B軍の兵力が3であるのならば、両軍が徹底的に戦うとB軍は全滅し、A軍は兵力2を残して勝利するというものです。 つまり、5-3=2 ということです。

一騎打ちとは刀や槍などを使って戦う場合、つまり一人が一人を相手にしか戦えないという状況の法則になります。




第2法則「確率戦闘の原則(集中効果の法則)」とは、銃器・火砲・航空機等が発達し、一人が多数の敵に対して攻撃が可能となった状況の法則です。

この場合には、A軍、B軍の戦力差は双方の力の二乗に比例するようになります。

A軍の5の戦力の二乗は25、B軍の3の兵力の二乗は9です。したがってこの場合、戦力差は圧倒的になるのです。

ちなみに25から9を引いた16は4の二乗です。

つまりこの法則の支配する戦いの場合、B軍が全滅したときにA軍は4の兵力が残っていることになります。


さて、A軍にしてみると第2法則で戦ったほうが得です。またB軍にしてみると第1法則で戦ったほうがより相手に深いダメージを与えることができます。

この第1法則から導き出されたのが「弱者の戦略」、第2法則から導き出されたのが「強者の戦略」ということになるわけです。この法則から経営戦略を立てるというのがランチェスター経営の本質的な部分です。




ところで日本の現代史のところでロンドン軍縮会議やワシントン軍縮会議の話として、米国、英国、日本が持ってよい軍艦の比率が5:5:3に定められましたが、日本はこの比率を5:5:4にしようとかなり粘ったという話があります。

私は昔は「どっちも大して変わらない比率じゃないか」と思っていたのですが、ランチェスターの第二法則によると戦闘力は二乗に比例するわけですから大きな違いなわけです。

つまり、25:9に落ち込むか、25:16の戦力比になるかは大問題なのです。

5:5:3ならば日本の海軍は物理的には米国、英国に勝つ可能性がほとんどないことになるわけです。