2009年12月29日火曜日

書評 「予想どおり不合理」


ダン・アリエリー『予想どおりに不合理』早川書房、2008年  定価1890円



本書は行動経済学のおもしろい事例を集めたものです。マーケティングに役立ちそうな話が結構あったのでご紹介します。

行動経済学は最近はやりの経済学の分野です。

大和証券のCFで、「店主が店員に給料の『2割を貯金しなさい』というと、店員は『無理だ』という、そこで『じゃあ、給料の8割で生活してみなさい』というと、店員がなぜか『なんとかやってみる』と答えた」と紹介されていました。あれが行動経済学です。

心理学を利用して人間の不合理な経済行動を明らかにするものなので、結構読み物として面白いです。本書は砕けた文体なので気軽に読めます。

以下、本書に紹介されている主な法則をいくつかご紹介します。


◎おとりを使うとお客を誘導できる

A雑誌の年間購読料が2万円、Bウェブ版1万円、C雑誌とウェブ版のセット2万円。多くの人は最後の雑誌とウェブ版のセットを選ぶ。AはCのおとり。

値の張るメインメニューを一つおとりとして設定するとレストランの全体の売り上げが伸びる。

旅行会社が普通のイタリア旅行、普通のフランス旅行、ちょっとダメなフランス旅行の3つを用意すると普通のフランス旅行が選ばれがちになる

◎あらゆるものの価格はいい加減

需要もなく価値のはっきりしなかった黒真珠を買わせるため、高級宝石をあしらったアクセサリーのメインに黒真珠を採用し宣伝。「黒真珠は高級品」という観念を消費者に刷り込んだ。

新規オープンの店に前に行列を作っておく(サクラ)と、一気にブレークする可能性がある

スターバックスは他の店のコーヒーと違って見せるために、雰囲気の細部まで作りこみ、従来のコーヒーショップと値段の違いに意識を向けさせないようにして成功した価格競争の回避。

最初に頭の中に意識した価格が後々まで心に引っ掛かって価格決定に影響を及ぼす。

◎無料には絶大な効果がある

無料のものと有料の物を組み合わせる。「スーツ1着買うと2着目が無料」。トータルでペイする仕組みづくりの参考になる。

無料で千円の商品券をもらえるのと、700円出すと二千円の商品券がもらえるのでは意外と前者を選ぶ人が多い。不合理な判断。


他にもこんな法則が書かれています。

◎楽しみでやっていたことも報酬をもらうと楽しくなくなる。


◎自分の所有物は高く見積もる


◎同じ薬でも価格をかなり高くすると効き目も違ってくる
 
いかがでしょうか。結構ふだんからお店の術中にはまっていることもありますね。
 しかし、ほんのちょっとした操作によって経済行動の結果が大きく変わるという事実は重いでしよう。
 
知っていると知らないのでは大きな差が出ますから、行動経済学というものを心にとめておくと何かの際には役に立つと思います。

2009年12月28日月曜日

書評 続・「コアコンピタンス経営」

コアコンピタンス経営に関してハメルとプラハラードは経営者に対して次の質問を用意しています。

将来、あなたの会社が対象とする顧客は誰か?
将来、あなたの会社はどのような販売経路を使うだろうか?
将来、あなたの会社の競争相手は誰だろうか?
将来、あなたの会社の競争優位の源は何だろうか?
将来、あなたの会社の利益はどこからくるだろうか?
将来、あなたの会社の独自性はどのような能力からくるだろうか?
将来、あなたの会社はどのような商品ジャンルに参入するだろうか?

もし、経営幹部が未来についてのこれらの質問に具体的にこたえることができなかったり、あまり現在についての答えと変わらないのであれば、将来ナンバーワンであることは難しいであろうといいます。

上記の質問はドラッカーが会社のミッション(使命)を見出すために使う質問とかなり重なり合っています。

会社のミッションは強みに焦点を当てて見出されるものでしょう。

また上記の質問に答えることは、会社のストレッチ目標を設定することになるでしょう。


ところで、こうした質問への解答はあくまでその時点における仮説ということになると思います。

現在のストレッチ目標を追求する中で思ってもみなかった新たなチャンスが生まれてくることもあるでしょう。

ドラッカーはそうしたチャンスについて「予期せぬ成功」と表現し、とても重視しています。

そのようなチャンスに巡り合ったならば、方向転換が必要になるわけです。

しかし、その方向転換にしてみてももともと追及していたコアコンピタンスと極端にかけ離れることはないでしょう。

中小企業の場合、コアコンピタンスを明確に定義し、それを5年以上維持することはできないように思います。


当初に仮説を設定し、事後新たな状況変化に応じて仮説の微調整をおこないながらコアコンピタンスを形成していく必要があるでしょう。

2009年12月27日日曜日

書評 「コアコンピタンス経営」


ゲイリー・ハメル=C.K.プラハラード『コアコンピタンス経営』日経ビジネス人文庫、2001年 税込840円




原書は1995年の刊行です。この本は1990年代の経営戦略論の代表著作であり、またドラッカー理論の現代的実行法を考えるにあたり無視できない本といえます。



経営戦略論は、

1960年代の厳密な計画作成重視 

1970年代の現場から生み出されるパターン的な戦略(創発戦略、事後的な戦略)の重視

1980年代のポーターに代表される産業内部での競争状況とポジショニング(位置取り)の重視

という流れを経て1990年代企業内部の経営資源を重視する動向が注目されました。


コアコンピタンスとは、直訳すれば中核的競争能力とか中核的経営能力といった感じでしょうか。

ドラッカー流に言うならば、その会社における「強み」ということになります。

私は中小企業の場合には、もっとも現実的な戦略論は「強み」を意識することであると思っていますので、コアコンピタンスは非常に重要と考えるわけです。

コアコンピタンスとは具体的な製品や技術というより、個々の技術や人や資源や行動などを組み合わせる統合力によって生み出された企業全体の強みとして考えるべきものということです。

そのコアコンピタンスは長い年月の企業全体を挙げての努力によって獲得されるものであり、そのためにはストレッチ戦略レバレッジ戦略の二つが重要であるといいます。

ストレッチ戦略とは一言でいえば「背伸び」をすることです。
そしてレバレッジ戦略とは少ない資源から最大限以上の成果を生み出すように工夫に工夫を重ねることです。



最近NHKのドラマになった司馬遼太郎の「坂の上の雲」はそのよい例であるように思います。

明治期の日本が、普通に考えたならば100%勝ち目のないロシアに打ち勝つために国家を上げてストレッチ目標を設定し、国家を上げて最大限の軍備を整え、兵力も兵器も乏しい状況で知恵を振り絞って勝利にこぎつけた物語です。


そこでは考えられないぐらい高いストレッチ目標と、わずかな資源を120%どころか200%活用しきるレバレッジ戦略が実行されるさまが詳細に描かれています。

私は司馬遼太郎ファンなので本書を20年以上前から愛読していますのでドラマも見ています。



話を戻しますが、著者のハメルとプラハラードは本書を大企業向けの戦略として書いています。

しかし、ストレッチもレバレッジもない小企業は生きることはできないとも述べています。


次回は、本書の中小企業向けの読み方について考えてみたいと思います。

2009年12月26日土曜日

≪閑話休題≫ 市場環境

閑話休題 「限界的存在になるなとはいっても‥」


限界的存在について6回ほど連載してきました。


いくら「中小企業は規模と黒字比率が比例します」とか、「一人当たり粗付加価値が大切です」とかいっても、現在の市場環境が大変ですからそうそう都合よく思い通りにはいきませんね。

よく承知しております。


しかし、まず基本的な知識から固めていったほうが経営のミスリードが少なくなると思うわけです。


経営環境が激変する状況について、ドラッカー「乱気流時代」と呼びました。

ドラッカー主義の系譜を引くフィリップ・コトラーの近著では「カオティクス」と呼んでいます。

理論家たちも、こうした状況での振舞い方は主要なテーマにしています。

来年以降、私も理解を深めていきたいと思います。

「限界的存在」と中小企業③

中小企業が「限界的存在」とならないためには、一人当たり粗利益額1000~1300万円を目標とするとよいと申し上げました。

上場企業の場合ですと、これが2000万円以上になるのが普通です。
また、その程度の価値を生み出していないと上場企業として必要な体制を維持することも困難であると思います。

しかも優良企業ですと3000万円以上になり、上位企業ではそのはるかに高い数字に達します。

ダントツ1位の任天堂はなんと1億8000万円です。
社長から新入社員まで平均して、一人当たりで2億に近い価値を生み出しているのです。
まさに圧倒的なマネジメント力ですね。

ドラッカーは現代では組織こそが成果を生むと断言していますが、それを納得せざるをえない数字であると思います。

ちなみにトヨタは3000万円ちょっとというところです。

上場企業に比べてみると中小企業の経営リスクがいかに高いものであるかがお分かりになると思います。

中小企業はたとえ現在の業績が好調であったとしても油断することなく、次の展開を深く考えなければならないわけです。

一人当たり付加価値額が1000万円に遠く及ばない企業はビジネスモデルを根本から考え直す必要があるでしょう。


ここにマネジメンの必要性が認識されるわけです。


しかし、中小企業ではなかなか適切なマネジメントが行われることが少ないため、業況を立て直すことは困難なようです。

自社を取り巻く状況にあせりをおぼえつつも、何も策を打てない企業が多いように思われます。

その原因のひとつとして突出した強みを持たないことがあげられるでしょう。

同業者に比べて何らかの点で抜きんでたものがなければ、事態を打開することは難しいでしょう。

こうした場合、現在を何とかしのぎつつ中長期的に強みを構築していくマネジメントをしていくしかないでしょう。

いずれにしても何を、いつ、どのようにしていくかを明確にしなければなりません。

具体的にどうしていくかについてはこのブログで説明していきたいとおもいます。


ところで、本日から当社は冬期休業となるため、年末年始はドラッカー経営について説明するのをいったん休止させていただきます。


冬期休業中は、主に書評を掲載させていただきますのでよろしくお願いします。

2009年12月25日金曜日

「限界的存在」と中小企業②

中小企業における「限界的存在」も規模と一人当たり付加価値額の関係である程度示すことができます。


売上高別の黒字企業割合は以下の通りです。


0.5億円以下    29.8%  (黒字企業割合)
1億円以下     43.4%
2.5億円以下    55.3%
5億円以下     66.7%
10億円以下    74.8%
20億円以下    79.9%
30億円以下    81.6%
30億円以上    84.8%   *TKC経営指標 H20 より



規模と企業力が明らかに比例していることがお分かりになると思います。


また売上高5億円以上の企業は指標全体の企業数の9.2%を占めているにすぎません。


したがって規模において中小企業の上位1割に入っていれば、比較的安定性を得やすいといって間違いないと思います。



黒字企業のさらに上位15%である優良企業の平均を売上高で見てみると、業種によって相違していますが、おおよそ3~8億円程度の規模であることがわかっています。

ちなみに、その内訳は

建設3.7億円 製造6.1億円 卸7.7億円 運輸4.4億円 小売4.9億円 飲食2.7億円 サービス3億円


となります。


中小企業の中でもこうした条件に当てはまる企業の特徴としては一人当たり粗付加価値(粗利益)額が高いという共通点があります。


多くの業種において優良企業又は規模の大きい黒字企業の一人当たり粗付加価値額は、1000~1300万円程度あります。(ただし飲食・サービス・小売は黒字企業でもかなり低くなりがち)


これをクリアしている企業は現状では適切にマネジメントされており、逆に一人当たり粗付加価値額が低くなればなるほど「限界的な存在」に近くなるといえます。

2009年12月24日木曜日

「限界的存在」と中小企業①

前回までは零細企業について検討しました。

今回からは中小企業における「限界的存在」を考えたいと思います。まずは中小企業とは何かを考えてみましょう。

前回までの定義によって中小企業とは10人超(飲食・サービス業等は5人超)の企業を指すことになります。


中小企業基本法によると、人数に注目した観点からは

製造業300人以下、卸売業100人以下、小売業50人以下、サービス業100人以下が中小企業ということになっています。

こうした数字が一つの目安となるでしょう。


ところでドラッカーは組織の構造に注目した定義を行っています。


小企業‥トップと社員との間に1階層あり。 例:工場長、部長

中企業‥大企業と小企業の間にあるあやふやな存在。業務遂行の仕事に専任者が必要。目標設定は機能別の部門長が担当するのがベター。専門職の取り扱いの問題が発生。

大企業‥トップマネジメントの仕事をチームで行い分担しあうことが必要。例:社長は業務遂行の最高責任者、同時に生産担当役員と販売担当役員がそれぞれ業務遂行の責任の一部を負う。


なかなかまとめるのが難しいのですが、単純な構造で仕事に支障の出ない規模が小企業、きちんとした組織的枠組みが必要な規模が大企業、その中間的存在が中企業といったところです。

組織として成熟していない規模が中小企業としてとらえることができるということでしょう。

総社員数は目安に過ぎません。中核的社員の数が重要な意味を持ちます。


コンサルティング会社では、200人という規模ですでに大企業である。
大企業の組織構造とマネジメントを必要とする立派な大企業である。
‥‥秘書、使い走り、事務員を除き、全員がトップマネジメントか少なくとも上級の経営管理者だからである。
ルーマニアの軍隊のように将軍と大佐しかいない。


従業員の数だけは膨大であっても、他の側面、特にマネジメントの構造と行動については中小企業並みのものがある。
ある水道会社は従業員が7500人いた。しかし、マネジメントは「おもちゃ屋ほどのもので十分」だった。
‥‥マネジメントらしい仕事が必要なのは、州の組織、市議会、一般市民との関係だけであり、それは75人の会社であろうと同じであった。
      (『現代の経営 下』56-57頁)


この記述は1954年のものですが、現在はさらに組織が考慮すべき内容が複雑になっていると思います。

ですから、規模が小さくても上のコンサルティング会社的な意味で大企業のようにマネジメントする必要がある会社が増えているでしょう。(ベンチャー企業などは小規模でもそれに該当することが多くなるでしょう)             

また、このドラッカー的な意味での純粋な小企業は少なくなっていると思います。
複雑な経営環境に適応するためには自社を小企業といえども中企業的な要素が必要となっているでしょう。

その場合、組織形態として小企業であっても、マネジャーの必要とされる力量は相当高いものになります。
中企業と小企業を分けて考えることの価値は少なくなったように思います。

次回は中小企業的な意味での「限界的存在」について考えてみたいと思います。

2009年12月23日水曜日

「限界的存在」としての零細企業③

企業は一定の規模を下回ると限界的存在となります。

そして、その最下限である零細企業について2回にわたって検討してきました。

基準は以下の2点でした。


①社員数10名以下の企業(飲食・サービス業等は5人以下

売上高1億円以下の企業(飲食・サービス業等は5千万円以下


これに該当する企業は零細企業であり、その経営は実質的に個人事業であると見たほうが判断を誤らないのではないかと思います。

ちなみに中小企業基本法の定義を見ると、おおむね20人(商業またはサービス業に属する事業を主たる事業として営むものについては、5人)以下の事業者が「小規模事業者」となっています。

私があえて10人以下に基準を緩めた理由は、黒字企業の中には10人台であっても高付加価値を付けている場合が見受けられるためです。


さて、零細企業より上の規模を中小企業とみるわけですが、このサイズになってくると経営の実質的な内容によって限界的存在を検討していく必要があるわけです。

それについては、また機会を改めて検討したいと思います。

2009年12月22日火曜日

「限界的存在」としての零細企業②

「限界的存在」10人以下(サービス業等は5人)の零細企業と見るべきと前回書きました。

これはあくまで現在の中小企業の経営指標の趨勢から割り出した現時点における判断です。

「限界的存在」の定義は状況が変わればまた変わっていくでしょう。


細かい数字は割愛しますが、とある経営指標によると中小企業経営に関してさらに厳しい状況が明らかになります。


平成20年度の実績をみると

売上高5千万円以下の企業では70%以上が赤字です。黒字は30%以下です。

ところが売上高1~5億円以上の規模では逆に約55 %が黒字なのです。

さらに売上高が5億円以上になると黒字企業の比率は約75%にまで上昇するといいます。


つまり規模小さくなるほど経営が厳しくなる傾向にあるのです。


この数字はリーマンショック以後の数字が出てきたらかなり変わってくると思います。
そのダメージはおそらく小さい規模の企業ほど大きいであろうと予測しています。

企業の社員数が10人以下の企業が限界的存在であるといいましたが、趨勢分析によると社員数が増えるほど一人当り付加価値が増える傾向にあります。

逆に10人以下の場合、急速に付加価値が低下することがわかっています。

この二つの指標から、私は10人以下の零細企業は、規模の拡大ができなければ環境変化の中で常に高い経営リスクに直面していると考えたわけです。


昨今の世界的な経営環境を考えますと日本の成長率が大幅に高まる可能性はほとんどないと思われます。

このような環境であるからこそ、企業として中長期には限界的存在から抜け出す意欲や考えを持たなければならないと思うのです。


しかし、残念なことにドラッカーは限界的存在である企業に対して厳しい見方をしています。



小企業や中企業に共通する問題は、規模が小さすぎるために必要なマネジメント(経営管理者)をもつことができないことである。
‥‥大企業に比べて多芸であることが求められる。しかも、大企業のそれと同じように有能であることを求められる。
         (『現代の経営 下』67頁。*多少短く書き換えてあります)


つまり、中小零細企業は常に十分なマネジメントを行えないということになるわけです。


企業が躍進するためには何が必要でしょうか。


それは同業他社と比べて突出した強みがあるかどうかに尽きると思います。

専門的にはそれをコア・コンピタンス(中核的経営能力)といったりします。

わかりやすく言えば「同業者が舌を巻くような何か」があるかということです。


規模も小さく、同業他社から見ても平凡な会社は「限界的存在」である可能性が高くなるわけです。

こうして整理してみると、中小零細企業は限られた経営資源しかないため躍進しにくいにもかかわらず、突出した強みを持って躍進せざるを得ないわけです。

中小零細企業は、こうした矛盾を抱えたままで前に進まなければなりません。

2009年12月21日月曜日

「限界的存在」としての零細企業①

ドラッカーは、シェアが一定水準以下となった企業「限界的存在」と評します。


限界的な存在となった供給者は、いかなる景気後退、ごくわずかの軽度の景気後退によってさえ、市場から駆逐されるおそれがある。
   (『現代の経営 上』89頁より)


ドラッカーは、おそらく大手企業同士の間での優劣を評する概念として「限界的存在」という表現を使っていると思われます。


私は、この表現を日本の中小企業向けに新しく定義する必要があると思っています。


先日開催したセミナーで「戦略的コスト管理」を具体的に説明する資料として、業種別の一人当たり粗付加価値額を企業規模別に見ることのできるグラフを作成しました。


そこでわかったことは、どの業種でも一定の規模(人数)に達していない会社の場合には、高い付加価値を生み出すことが難しいということです。
簡単にまとめると以下の2点になります。



①製造・建設などの業種では少なくとも10名数名(サービス・飲食・小売等はその半分程度)いなければ高付加価値を生み出しにくい。


優良企業(2期連続黒字企業の各種指標の総合点で上位15%)は、平均的に15~30名ぐらいの規模である場合が多い。(もちろん業種によってかなり異なります)



そこで私は中小企業においては10名以下(サービス・飲食業などは5名以下)を規模において「限界的存在」とみてよいのではないかと考えます。

これに当てはまる企業は零細企業であると定義して差し支えないと思います。

零細企業の場合、常に高い経営リスクにさらされているということができます。

零細企業は規模において少なくとも10名(サービス・飲食等は5名超)をえることを当面の目標とすることが必要になります。

2009年12月20日日曜日

書評 「行政不況」

中森貴和『行政不況』宝島社新書、2008年 税込680円


                                        

中森氏は帝国データバンクの情報取材課課長です。

仕事を通じて感じた日本の企業を取り巻く経営環境を「行政不況」と一言で表現している点は秀逸です。



中森氏は昨今の経済情勢の原因の多くは行政府(つまり官僚)が、自分たちの新たな権力行使を模索する中で起きている側面があると指摘します。



「改正貸金業法」「改正建築基準法」「改正独占禁止法」「金融商品取引法」「特定商取引法」‥‥といった法改正ラッシュ、それに伴う規制強化を受けて経済状況がわるくなっているというのです。



一連の法規制は「消費者保護」「反社会勢力の排除」を目的としており、それは当然といえば当然のことです。



しかし、一方でこうした改正が関連業界の淘汰を招き、格差の拡大をさらに加速させ、個人消費の冷え込みに影響を与えているといいます。



中森氏は、こうした法改正ラッシュの背後には官僚の思惑があると考えます。



行政改革や経済のグローバル化によって支配構造の転換期に直面した霞が関が消費者保護政策に活路を見出していると捉えることができるというのです。



産業界ではグローバル化、国内市場の縮小を契機としたガリバー化が進行していますが、法改正ラッシュはこうした寡占化をさらに加速させる要因となっているといいます。



産業界の寡占化は中小零細企業の切り捨てにつながり、競争原理が逆に限定されていくわけですから消費者にとっては最終的には好ましくないことになります。



中森氏はこの直接的原因が小泉政権にあると見ています。



小泉政権が構造改革を掲げながら結果として中途半端に終わったうえに、需要創出政策を怠ったままに規制緩和を進めたことで、産業界のみならず社会全体の二極化を進行させてしまったというのです。



もちろん構造改革そのものが間違っているわけではありません。



構造改革とは経済・社会のグローバル化・自由化を追求することで、その足かせとなる規制を外し、悪しき慣行を是正することです。

政治・行政の無駄を省いて民間に対する余計な規制をなくすことが本来の目的であるはずです。

ところが行政が、この本来の目的を見失い、自己の生存を図る動きを行っていることで、よくなるはずのところがよくならないというわけです。



中森氏は、他にも各業界の再編事情に詳細に触れています。
かつての有名企業が、現在どれだけ経営基盤がゆるんでいるかについて詳細に分析しています。

そこから見えてくるのは各企業の長期的戦略の欠如です。
過去の遺産を食いつぶしてきた企業が、いかに力を弱めてしまったのかがよくわかります。

さて、中小企業に目を転じると、やはり淘汰と再編という状況が訪れているように思います。

明日以降は少しその点について触れたいと思います。

2009年12月19日土曜日

企業経営のリスク「サプライチェーン問題」

企業経営においてコンプライアンスCSRといったものが重要なリスク要因となってきました。

私は会計研究の主要テーマの一つを「企業倫理」としている関係で、比較的早くから先端の動向についてフォローしてきました。

これから折に触れて、そういった問題を扱っていきたいと思います。



今回は、サプライチェーン問題がテーマです。


サプライチェーン問題と聞くとなんだか「安く仕入れる企業戦略」に聞こえるかもしれませんが、全く違います。

わかりやすく説明するためにサプライチェーン問題の失敗事例と成功事例を一つずつ上げたいと思います。



≪失敗事例≫ ナイキのスウェットショップ事件

世界最大の運動靴メーカーであるナイキ社は主に発展途上国に生産工場を展開していました。
現地工場はナイキ社の直接経営ではなく、現地法人がナイキ社から委託を受けて生産する形式、つまり「外注」が基本となっていました。

1997年に、米国の労働NPOがナイキ社の内部文書をマスコミに暴露しました。
その内容は、ベトナム現地工場において高濃度の発がん性物質の蔓延する作業環境、違法な長時間労働、児童労働、日常的セクハラといった劣悪な労働環境が放置されていることを明らかにするものでした。

米国のマスコミは大々的にこのニュースを取り上げましたが、ナイキ社の回答は「外注先の問題であり、当社は関知しない」というものでした。

それにたいしてマスコミは猛反発ニュースを聞いた市民たちによって全米で瞬く間にナイキ社製品の不買運動が展開され、ナイキ社は大幅に株価を下げることとなり大きな痛手を被りました。



≪成功事例≫  ソニー・プレイステーション事件

2001年、オランダの税関でプレイステーションの部品にオランダの定める基準値以上のカドミウムが混入していることが発覚しました。

それは日本の基準はクリアするものでしたが、通知を受けたソニーはプレイステーション約130万台の自主的な出荷停止を決断しました。

この決断によってソニーは商品の再出荷をクリスマス商戦に間に合わせることができず、130億円以上の損害を被ることとなりました。

ちなみにカドミウムの混入していた部品は中国の外注先企業が製造したものでした。

しかし、この迅速な対応はヨーロッパにおいて賞賛を集め、以後ソニーはCSR(企業社会責任)意識の高い企業としての評判を獲得することとなりました。



この二つの事例から得られる教訓は、ロゴマークを冠した最終製品を市場に提供する企業は仕入先・外注先が起こした問題についてまでも社会的責任を負っているということなのです


もう一つあります。

ソニーの例は失敗を転じて信頼を勝ち取った事例です。
サプライチェーン問題の成功事例とは事前のリスクマネジメント事後の適切な行動によって達成できるものです。



サプライチェーン問題によって、最終製品を製造するメーカーが二次、三次下請け企業のみならず、五次、六次‥と、徹底的にさかのぼって工場監査をするようになりつつあります。

サプライチェーン問題は大手企業だけに関係する話ではなくなりつつあります。


今後は中小企業においてもコンプライアンス、CSR、リスクマネジメントについての知識は不可欠であるといえるでしょう。

2009年12月18日金曜日

書評 「経営戦略の思考法」 -再論

以前(11/26)、書評においてご紹介した沼上幹氏の『経営戦略の思考法』が、週刊東洋経済12/19号でくわしく論評されていました。


論者は神戸大準教授・長田貴仁氏です。

そこで特に評価されていたのが、沼上氏の次のような考え方です。


コンサルタント会社などが過去の概念や理論とのつながりを重視せず、次々と新しい経営戦略を提唱してくる。
これでは実務家は混乱してしまう。
その点、学者はそれらを整理することができる。
二つ目は、現実的な問題を解明するために、他の学問分野から理論的アイディアを輸入・加工し、新たな経営戦略の理論を構築できる。


そして、


特に経営戦略の思考法は、総合的かつ最終的な経営判断である。それを鍛えるには過去の蓄積を学ぶことが有益なのではないだろうか。


という部分です。



多くの実務的経営戦略書は、その理論が経営手法全体の中でどのような位置づけなのかを十分に説明しないで、「とにかくこの通りやりなさい」というスタンスを取っています。

私はかねてよりこうした状況に違和感を覚えていました。
ですから沼上氏の本には共感するところが多かったのです。




以前に共同執筆した経営学の本を通じて、経営学の100年の歴史をまとめる機会がありました。


担当した範囲はわずか12ページでしたが、それを書くために経営学関連書籍をかなりたくさん読まなければなりませんでした。


*坂本光司・西浦道明『キーワードで読む経営学』同友館、2007年、税込2,625円
私は第2章 「主な経営学者・経営学説」の執筆を担当しました。

執筆中は、正直なところ参照すべき文献の多さに目のくらむ思いがしましたが、おかげで経営理論を全体として俯瞰(ふかん)する視点を得ることができたように思います。


経営理論の良し悪しをある程度評価できるようになったので、沼上氏の突出した理論整理能力とその仕事の価値に気づき、書評を書こうと思った次第です。


ドラッカー理論は、沼上氏の分類によってもきわめて広い範囲をカバーする基礎理論であると位置づけられると思います。

2009年12月17日木曜日

3人の石切り工

ドラッカーの著作中に「石切り工」の有名なエピソードがあります。


三人の石切り工の昔話がある。
何をしているかと聞かれたとき、第一の男は「これで暮らしを立てている」と答えた。
第二の男は手を休めず「国中で一番上手な石切りの仕事をしているのさ」と答えた。
第三の男は目を輝かせ、夢見心地で空を見上げながら「大寺院を作っているのさ」と答えた。
            (ドラッカー『マネジメント 下』87頁より)



三番目の男こそが本当のビジネスパーソンです。
この寓話のエッセンスは、仕事は目標に焦点を合わせなければならないということです。

そしてもう一つのエッセンスがあります。
第二の男は組織の成果の足を引っ張るかもしれないということです。

国中で一番の石切り仕事をする男の技量は、単なる生活費稼ぎの第一の男よりだいぶ上でしょう。

しかし、組織目標と無関係な技量はかえって邪魔になる場合があるということです。

ドラッカーはこの二番目の男について次のように指摘します。


‥‥職人や専門家といった人は、実際には、石を磨いたり、脚注を集めてたりしているにすぎない場合でも、何か大きなことをやっているのだと気負いこんでしまう危険があるものである。
熟練技能は企業でも奨励しなければならない。
しかしそれは常に全体のニーズとの関連の下においてでなければならない。



これは環境が目まぐるしく変化する現代ではざらにある話だと思います。

昔は価値が高かった技能が陳腐化したにもかかわらず、それで評価されてきた人はその意識がなかなか抜けないものです。


一つ事例をご紹介します。

太平洋戦争中の日本海軍も真珠湾の成功で航空戦の重要性に気づくチャンスがあったのに、最後まで大艦巨砲主義から抜け出せませんでした。





*大艦巨砲主義の象徴の大和です。

投入資源に対する成果がとても低く、ドラッカー流のコスト管理の視点からは失敗事例と言えます。





これは大きすぎる話かもしれませんが、小さな話ならばどこの会社にもあるでしょう。

一つの仕事をまじめに長くやってきた人ほど「第二の男」になってしまう可能性があるということです。



第二の男は腕をふるうこと自体が自己目的化してしまっており、組織の成果から遠ざかってしまったことに気がつかないわけです。

組織の目標を明確化することは第二の男の数を増やさないためにも必要なのです。

2009年12月16日水曜日

ドラッカーの「成果」

ドラッカーは成果をあげることを最も重視しています。




ものごとをなすべき者の仕事は、成果を上げることである。
ものごとをなすということは、成果をあげるということである。
企業、病院、政府機関、労働組合、軍のいずれにあろうとも、そこに働く者は常に、なすべきことをなすことを期待される。
すなわち、成果をあげることを期待される。

それにもかかわらず、ものごとをなすべき者のうち、大きな成果をあげている者は少ない。

                                              (『プロフェッショナルの条件』65頁より)



さて、この成果が曲者です。

ドラッカーは成果について明確な定義をあまりはっきりと書いていないのです。

私はドラッカーの著作を読むごとに成果とは何かについて正確に知ろうと努めました。
過去の著作においては定義という形で書かれてある場所は見つけることができなかったのです。

しかし、比較的新しい著作である『経営者に贈る5つの質問』で初めて成果の定義が明確にかかれています。

この本はドラッカー単独で書いたものではなく、ドラッカー理論を実践するための簡単なマニュアルとして、著名な書き手が集って作られたものです。

ですから、これはドラッカー自身によって定義されたものかはよくわかりませんが、ニュアンスは感じるので書いてみます。


成果
組織としての帳尻。人々の人生、生活、能力、健康、姿勢、行動、環境等に与える影響。したがって組織の外にあるもの。

やさしく書いてあるのですが、逆にわかりにくいような気もします。

そこで私流に書き直してみたいと思います。


成果
顧客に与えた物理的、肉体的、精神的、財産的、社会的な満足もしくは好影響。また、それによって提供者の評価・評判が高まること。

この方が戦略を考える上で役立ちそうな気がしますがいかがでしょうか。

2009年12月15日火曜日

≪閑話休題≫ バスカヴィル家の犬

ドラッカーの著作には各所に矛盾があると申し上げました。

理論の本筋のところではないのですが、ドラッカーのちょっとした誤解をご紹介します。

ドラッカーは、経営者の意思決定が何度も何度も考えを巡らせたうえでもハタと間違いに気づくことを例えるのに、シャーロック・ホームズの事件を引用しています。


『‥全く判断を間違っていたことに気づく。

‥シャーロック・ホームズのように、重要なことはバスカヴィル家の犬が吠えなかったことだと気づく。 』



と書いています。



しかし、これはドラッカーの勘違いです。


犬が吠えなかったことが「犬と親しい人物が犯人だ」という証拠であった事件は、「バスカヴィル家の犬」ではなく「銀星号事件」です。
ちなみに犯人は当初被害者と思われていた馬の調教師でした。



初歩的な引用ミスですが、こうした勘違いはホンのご愛嬌であり、それでドラッカーの評価が別に下がるわけではありません。

要は、ドラッカーの一字一句にこだわるのではなく、その本意は何かが問題なのだと言いたいわけです。

ちなみに、このエピソードの場合、そのポイントは「何の不自然さもないことが実は問題だ」ということです。

ドラッカーの著作にはちょっとした誤りが各所にあります。
意外なことにそれを正面から指摘する人が少ないように思います。

また、時代の違いから今では当てはまらなくなった説明もあります。

こうした点を踏まえてドラッカーを実質的に理解する姿勢が必要であると考えます。

2009年12月14日月曜日

中小企業のコンプライアンス


先日、ビジネスパーソン向けのデータベース用に中小企業のコンプライアンス問題についてまとめました。


著作権の関係がありますので、原稿をそのままHPにアップするわけにはいきません。
ですから概要だけ説明したいと思います。


コンプライアンスとは法令等を遵守することで、当たり前といえば当たり前の話です。


それでは、なぜ最近になってコンプライアンスが注目されるようになったのでしょうか?




その理由として、世の中の大きな流れとして許認可権を中心とした事前規制型の行政から、何か問題があった場合に厳しく非難される事後規制型へと制度が変化してきたことがあげられます。


また、情報化の進展やグローバリゼーションの進展により、世間の裏をかくような行為について市民の目が厳しくなったことも理由の一つです。

こうしたことからコンプライアンス体制を構築することは企業が長く存続していくうえで必要なこととなったわけです。

ここ10数年のニュースを思い返してみれば、世間に知れた企業の不祥事がセンセーショナルに報じられ、その後どれほど痛い目に会ったかを思い起こしていただければ納得されるかと思います。


さて、ごく簡単に説明しますと、コンプライアンス体制は2つの側面から考えると便利です。

一つは人の心に関するもの、もう一つは会社の仕組みに関するものです。

前者はいわゆる企業風土と呼ばれるものの問題です。

不正な行為に対する会社のスタンスはどのようなものでしょうか?

かつては「ばれなければ大丈夫」「建て前と本音は違うものだ」という議論がまかり通っていました。
現在、こうした考え方こそが経営上の大きなリスクになっているわけです。



そして、企業風土を決定づけるのは経営者の意識です。
企業風土の上限は経営者のモラル水準なのです。

コンプライアンス体制を決定づけるのは経営者の意識というのが通説です。

後者は、制度の問題です。

目まぐるしく変わる法令等に対してすべて完ぺきに対応することはかなり困難です。
まして資源に大きな制約のある中小企業の場合にはなおさらでしょう。

そこで、セカンドベストなやり方として主要な法令等を中心にして、後はその企業の直面する特有の事情を加味したチェックリストを作成するのが有効でしょう。

特に大きなリスクをつぶしていくことが実務的には有益であると思います。

そのための体制を専門的には内部統制と呼びます。

これは以前は会計用語でしたが、会社法にも取り入れられ、今ではビジネスシーンにおける日常語になっています。

内部統制が注目されている背景には「やるべきことをやっていることが目に見えるようにしておく」という考え方があります。

何かあったときに内部統制がしっかりしていなければ責任を免れないわけです。

中小企業が求められるコンプライアンス体制は、「完ぺきな体制」ではなく「最大限の努力を払っていることがうかがわれる体制」といえるでしょう。

2009年12月13日日曜日

フェルミ推定

私はNPO法人東海マネジメント研究会、通称「マネ研」のメンバーで理事も務めております。

マネ研とは、マネジメントの理論と実務の両面に関心を持っている実務家、研究者の集まりで、おもに浜松で活動しています。

毎月1回の勉強会と定期的なセミナー開催、論文執筆を中心に活動しています。

セミナーは名古屋にある大学院や行政などとも連携して行っています。
メンバー各人の関心が違うため、未知の内容をお互いに学びあえる点に大きなメリットがあります。

なかなか多彩な人材が集まっていると思います。







*月例研究会は日曜午前中に開催しています









先日開催された12月の定例勉強会では私も報告させていただきました。


テーマは「フェルミ推定」です。


フェルミ推定というのは、ここ4~5年ぐらいで急速に認知度が高まったビジネス上の推計の方法です。

有名なコンサルティング会社の入社試験でよく出題されることから、できる大学生の間では常識になりつつあるテクニックです。
たまたま雑談で話題となったところ、会員の方で「初耳」という人が何人もいらっしゃったのでテーマとして取り上げました。


フェルミ推定は、フェルミという有名な物理学者の名前をとった俗称ですが、決して科学的なものではありません。

時間も情報も限られた中で、おおよその推計を行うことでビジネス・シーンにおける各種意思決定に役立てようというものなのです。

たとえばスターバックスの1店舗の売上を推定してみます。

基本的には 1日の売上=客単価×客数 になります。

また、客数は キャパシティ×稼働率×回転率×営業時間 となります。

キャパシティ×稼働率は、滞在客数で言い換えられるでしょう。
さらに、それを時間帯別で区分してみると精度が上がります。

        客単価 滞在客数(1H)   回転率  持帰客(1H)  売上

朝 (3H)  400円   20人       1     4人     2万8800円

昼 (2H)  700円   50人       2     30人    18万2000円

午後(5H)  600円   30人      0.5     3人     5万4000円 

夜 (4H)  400円   20人       1     4人      3万8400円
  
合計すると約30万円ということになります。

回転率は滞在時間の逆数です。平均2時間滞在すれば回転率は0.5です。

本当にこのような数字なのかはわかりません。

しかし、このように推計し、ひとつひとつの要素について新たな情報を得られればどんどん精度が上がってきます。

フェルミ推定はビジネス上のツールとして非常に実用的と言えます。

ポイントはひとつ、ざっくりとした基礎条件を想定し、あとは手早く計算することです。


*参考資料:東大ケーススタディ研究会『地頭を鍛えるフェルミ推定ノート』東洋経済新聞社、2009年

2009年12月12日土曜日

《閑話休題》-Sさんからのご指摘

閑話休題

先日のセミナーに来ていただいた浜松のY社の女性役員のSさんがわざわざ当社にご挨拶にきてくださいました。

いろいろな話題で楽しくお話しさせていただきましたが、セミナーのテーマであった2S直角平行についておもしろいご指摘をいただきました。

当社が提唱する環境整備は見た目だけを重視する簡単なものですが、その分細かいところを見ましょうというものです。

その視点のひとつに「観葉植物の葉っぱにホコリがたまっていないか注意する」というものがあります。

これは私がトヨタの田原工場に見学に出かけた時に確認したことなのですが、オフィス・エリアの観葉植物の葉っぱにホコリがついていなかったのです。

明らかにそこまで人の手が入っていました。私はこれが最も厳しい基準であると認識したわけです。

Sさんは2S直角平行にとても関心を持っていただいたのですが、観葉植物のホコリには以前から気をつけていたのだそうです。

そして、それを取り除く一番簡単な方法として、雨の日に観葉植物を外に出しておいてホコリをとることを実行しているそうです。

またこうすると根っこ全体に水がいきわたるのだそうで、水やりの回数も少なくすることができるそうです。

私は植物音痴ですので大変勉強になりました。ありがとうございました。

2S直角平行は、各社ごとのノウハウがたまる活動であると思っています。

今後、いろいろな会社の取り組みを勉強させていただいてさらにコンセプトを洗練させていきたいと思います。

ドラッカー流コスト管理③

コスト管理の3回目です。

コスト管理の基本は「対業績比」に注意することがポイントでした。

前回はヒトに着目して対業績比が悪化しているであろう現象を事例として見てきました。

今回はドラッカーの提唱するタイプ別のコスト管理方法を説明します。



タイプ1 : 成果に直結する活動(生産、営業など)

このタイプの活動はコストとしてみてはいけません。あげた成果の大きさに注目します。
昨日の事例は、この活動が適切な成果を上げていない現象の説明でした。


タイプ2 : 補助的なコスト(経理、総務など)

必要最小限の仕事量を見積もり、それを最も効率的に行います。


タイプ3 : その活動をやめてもそのダメージ以上のコスト節約になるもの

当たり前に行っている活動も、よくよく検討してみると無意味になっている場合があるものです。
勇気を持ってやめましょう。

タイプ4 : 成果に全く貢献していないコスト‥『浪費的コスト』

稼働していない設備・人員など。
場合によっては浪費的コストの発見は大きなイノベーションにつながることがあります。


昨日の3つの例では、いずれも成果に焦点を合わせて現場がきっちりと働くと、手空き時間が発生します。
これが、わかりやすいタイプの「浪費的コスト」です。


現場では浪費的コストを明らかにすることに抵抗があります。
「手空き状態」がまるでサボっているように見えるからです。

結論だけいいますと、成果に注目する」ことでしか解決できません。

しかし、この問題に対する答えは「ヒトのマネジメント」の領域になりますから、また機会を改めてまとめたいと思います。

また、浪費的コストには巨額であるにもかかわらず、まったく意識されない場合があります。

もっとも有名な例は20世紀半ばまでの海運会社です。

以前の海運会社は、最大のコストは船が海を渡るときに発生していると考えていました。

ですから、速く、安く運行できる船の設計や維持管理に意識を集中させていました。

しかし、海運会社の最大のコストは港で発生していました。
海運会社はこの港におけるコストを所与のものとみなし、まったく注目していませんでした。

かつて船の貨物の積み込み・積み下ろしは沖仲仕・陸仲仕によってほとんど人力で行われていました。

しかも日数は各5日ほどもかかったそうで、それがすむまで次の船は港で停泊して順番待ちをしていたのだそうです。

海運会社はこのコストは変えることのできないものと見ていたわけです。

ところが、コンテナが発明されると状況が一変しました。
それは港におけるこのような状況が「浪費的コスト」と認識されたことを意味しました。

海運会社はコンテナの積み込み・積み下ろしがしやすい船を求めるようになり、船舶の設計思想が変わりました。

厳しい肉体労働であった沖仲仕・陸仲仕は積み下ろし・搬送用機械のオペレーターとしての港湾労働者に変化しました。

そして貨物の運送コストは劇的に削減されたのです。

この事例は突出したものですが、「浪費的コスト」がどのようなものか具体的にイメージしていただけるのではないかと思います。


 

2009年12月11日金曜日

ドラッカー流コスト管理②

コスト管理の要諦は「対業績比」です。




昨日のブログに事例を3つあげました。



① 受注半減で仕事終了が2時半


② 修理1件でも3件でも終業ぎりぎりまで作業する


③ オフィスなどで残業終了時間がいつもみんな一緒



経営者の方はすぐ問題の所在が分かると思います。

ですが現場の方はあまり気に留めない現象ですね。
似たような話を非常によく聞きます。
まさに「経営者目線の欠如」です。
現場の方たちには、まずここを理解してもらう必要があるでしょう。





まず①です。

始業8時で終業5時とすると、仕事量が50%なら午前中で仕事が終わるべきです。

2時半までかかるということは、仕事が薄いので終業時刻に間に合わせようとする緊張感が抜けて作業の間延びが発生しています。対業績比が低くなっています。




次に②です。

基本的には①と同じです。1日3件分処理できる能力がありながら仕事が少ない時は終業時刻に合わせて仕事をスローダウン(間延び)させています。

工程が「見える化」されている製造業と異なり、サービス業などで起きがちな現象です。

サービス業では仕事量に合わせてペースを無意識に調整することがおこなわれます。

こうした仕事ぶりでは実質的な手空き時間が隠されてしまいます。





最期に③です。

これは作業能率の最も遅い人間に他のすべての人間がペースを合わせていることを意味しています。現場におけるモラル・ダウンの兆候です。

仕事量が同じ場合、有能な人ほど早く終わります。
最もレベルの低い水準に合わせた仕事ぶりは対業績比を悪化させるでしょう。



上記のような現場、オフィスには前向きなリーダータイプの人材(中核的人材)がいないのかもしれません。
人的資源の問題も浮き彫りになっています。



コスト管理という観点からは、お客様の満足に直結する作業最速かつ正確にこなすことが絶対不可欠です。



上記のいずれの場合に関しても、各人が最速で仕事をこなしていくと手空き時間が発生します。

ドラッカー式コスト管理では、まず最速で仕事をこなしたうえでの手空き時間を見えるようにすることが必要と考えます。



その手空き時間をどのように活用するかは別の経営課題として認識するわけです

これをドラッカーは「浪費的コスト」と名付けています。



経営者目線で見る場合、コストを類型化する視点が大切になります。次回はそれについて解説します。

2009年12月10日木曜日

ドラッカー流コスト管理①

先日のセミナーのテーマの一つはコスト管理でした。



現場レベルでのコスト管理は無駄なコストを削っていくことが中心です。

いわば改善の視点からのコスト管理ということができます。



一方、ドラッカー流の経営者目線のコスト管理とは「対業績比」がポイントとなります。



そもそも経営活動というものは、資源を事業に投入してその成果を最大化する活動と見ることができます。



したがってこの投入する資源とそれによって獲得された成果の比率が大きければ大きいほど事業がうまくいっていることになるわけです。

それが「対業績比」の意味になります。



自社の事業が「対業績比」という意味でコスト管理がうまくできているか知る必要があります。



どうすれば、「対業績比」が良いか悪いかがわかるでしょうか?

前にも書きましたが、重要なので再度説明します。



その最も適切な指標が「一人当たり加工高(粗利益額、粗付加価値)」です。



まず、売上から仕入・外注費(会社の外でつけられた価値です)を差し引いた金額を、その会社の生み出した価値と見ます。

そしてその価値を生み出した人数(実働社員数のこと。パートは0.5人、非常勤役員は0人等と調整する。)で割るのです。

こうして計算された金額が大きければ、最重要資源であるヒトに対応する業績比が大きい、つまりうまくコスト管理ができている言えるわけです。



この数値は業種によってだいぶ違いますので、具体的な数値が必要な場合にはその情報を持っているコンサルタントや会計事務所に聞けばよいでしょう。



製造・建設等では黒字企業平均で約850万円程度です。サービス・飲食業はだいぶ低くなります。



さて、一人当たりの加工高を高める基本的考え方について説明したいと思います。



皆さんは次のような現象をどのようにお考えになりますか?



① 受注が50%減少したので工場が2時半までの操業となった。


② 修理の仕事が1件の場合でも3件の場合でも、終業ぎりぎりまで作業をやっている。


③ 毎日、オフィスの全員の残業終了時間が同じ。



これらはいずれも経営者目線でのコスト管理の問題です。

いずれもコスト管理上の問題が発生しています。
おわかりになるでしょうか?

正解は明日のブログに書かせていただきます。

2009年12月8日火曜日

続・続・ドラッカー流戦略的事業計画

繰り返しになりますがドラッカーの事業戦略は概略としては


 

ミッション(使命)→ビジョン(未来像)→ゴール(目標)→アクションプラン(実行計画)→アクション(実行)→評価→フィードバック


という基本型で表現されます。


形式としては決して難しいわけではありませんが、これを自社の強みに焦点を合わせた独自の戦略に仕上げることはやさしいことではありません。


しかし、中小企業の中にこのドラッカー事業戦略論にほぼ当てはまる経営を実践している会社があります。
それがダスキンのフランチャイズである(株)武蔵野です。


(株)武蔵野はカリスマ経営者小山昇氏に率いられる企業で、その独自の経営戦略を他社にコンサルティング商品として売るほどです。
また小山昇氏の著書は常にベストセラーとなっています。



武蔵野の経営のフレームワークは明らかにドラッカーを基本としています。以下、武蔵野オリジナルの経営計画書のフレームワークを見てみると



武蔵野理念・ダスキン理念 ‥ミッション

七精神(価値観) ‥バリュー

長期事業構想書   ‥ビジョン

基本方針

戦略  

戦略課題(目標含) ‥ゴール

各方針
(環境整備・商品・販売・お客様・地域貢献・情報マネジメント‥‥)

部門実行計画・個人実行計画

日常行動

*ドラッカー経営ではビジョンを明示する場合としない場合があります。なお、横の太字はドラッカー事業戦略と対比できるように私が書き加えたものです。


といった感じです。

また、このフレームワークには「選択と集中」「コア・コンピタンス」といったドラッカーに端を発するコンセプトも入っています。

実行計画を部門や個人自身に作らせる点は目標管理制度の原則に合致しています。


以上の点から(株)武蔵野はドラッカー経営を実践していると判断されるのです。


武蔵野のマネジメント手法が詳細に書かれている本が



小山昇『あなたの会社の強みを活かしなさい-小山昇が語る経営と情報化の真髄-』生産性出版、2009年  定価1,575円(税込)


です。


大変示唆に富んだ本ですので一読をお勧めします。
中小企業の実践的経営戦略のよいお手本になると思います。



ただ、私は骨格はそのまま用いつつも、自社の風土、業界の相違などを加味しつつ自社独自の取り組みを目指したほうがよいと考えています。


ドラッカーの事業戦略論を3回にわたり説明しました。
事業計画の作成法についてはおおよその骨格を理解することが大事で、細かいスタイルにこだわらなくてもよいことがおわかりいただけたかと思います。

2009年12月7日月曜日

続・ドラッカー流戦略的事業計画

先週に続いてドラッカー流の事業戦略です。




私は英語圏の政府、研究機関、企業のサイト等をよく閲覧しますが、ドラッカー流にミッション、ビジョンを定義している組織が多いことに気づかされます。



今回はその中でも会計人としての私が興味を持ったカナダ勅許会計士協会(CICA)の事業戦略をご紹介します。



CICAのHPから分厚い事業戦略書がダウンロードできますが、私にはとてもわかりやすくて参考になりました。



↓ カナダ勅許会計士協会HP (中央下のreportをクリックすると事業計画がダウンロードできます。)

http://www.cica.ca/about-the-profession/vision-and-mission/index.aspx





量が多いですから重要な個所だけ簡単に訳してみます。

直訳するとわかりにくそうなので一部意訳しました。





まず、ミッションとビジョンの意味については

 

ミッションとは



自組織が貢献できる顧客ニーズ、所有している中核能力、またそれらを詳しく説明する価値観等についての正確な表明。組織の使命。


言い換えれば、どういった領域で競争することを選択するのか、そしてそれを成功させるための強みや特徴は何かということ。



ビジョンとは



ミッションで定義した競争領域において将来自組織がどのようになっているかについての表明。自組織の将来像。





そこでカナダ勅許会計士協会の事業戦略とは



ミッション

「私たちのミッションは、財務マネジメント、保証業務、その他の専門技能を通じて意思決定を強化し、組織のパフォーマンスの改善を行うことです。


私たちは、誠実性、客観性、卓越性と公益に対する堅い約束(コミットメント)を伴った行動をします。」



ビジョン

「私たちは組織のパフォーマンスを測定、強化するための情報を創造し、正当性を与え、それを解釈することにおいてリーダーとなります。そして財務マネジメント、保証業務、その他の専門サービスについて抜きんでた存在となります。」





というものです。普通の方はあまりなじみのない表現でしょうが、会計専門家からみる力強く頼もしい前向きの宣言に聞こえます。



さらにこれらの定義について、その言葉の一つ一つに詳細な解説が付けられています。



そして、このビジョン、ミッションを前提としたうえで戦略的に重視する領域



A:顧客重視


B:知識とスキル


C:資本市場におけるリーダーシップ


D:専門家としてのアイデンティティと展望


E:専門家への近づきやすさ、魅力



と定めたうえで、AからEに関するゴール(目標)を定めているのです。



それぞれのゴールにはいくつかの重要要素に分解され、どのようにアクションを起こすかが決められているのです。



全部で50ページ以上にわたる詳細なものです。



組織の使命を決めること、目標を細分化して設定することの大切さをドラッカーは強調しています。



組織を取り巻く環境が複雑になる一方ですから、こうした手順を踏むことの重要性は高まるばかりです。

2009年12月5日土曜日

書評「カオティクス」

『カオティクス -波乱時代のマーケティングと経営』F.コトラー、東洋経済社、2009年 定価 1,890円





マーケティング論の第一人者フィリップ・コトラーの近作です。



まだざっと読んだだけなのですが、この本は名著であると思います。


コトラーのマーケティング論を現代の状況変化に合わせて大幅な修正を加えたものです。
ただし、マーケティングに関する基本的考え方は変化なしです。
もっともマーケティング分野にとどまることなく、財務やITなど全社的なマネジメントも視野に入れています。


今後、精読して改めて詳細にご紹介したいと思いますが、大筋としては以下のような内容です。



コトラーは企業を取り巻く環境が「乱気流」という新たな段階に入ったことを事実として認めるところから議論をスタートさせます。
グローバリゼーションの進展で世界が互いに関連・依存し合っているため危うさと脆さが生み出されたと考えるのです。
以前は景気の上昇局面と下降局面の二つの区分で対応できましたが、乱気流時代はそのような単純な想定のもとで戦略を立てることはできないといいます。


先の読めない困難な時代に企業は一律のコストカットに走りがちです。
しかし安易なコストカットを行うことは企業としての強さを失わせるといいます。


乱気流時代は今後ずっと続くとコトラーは考えます。
ですからリスクと不確実性(この二つは経済学的な意味が違う)から逃れることはできないため、それに対処する仕組みが必要となります。


それをコトラーは「カオティクス」と呼ぶのです。
乱気流こそが「新しい通常状態」であり、そこでは景気が突然良くなったり沈滞したりということが断続的に起きるといいます。


乱気流時代の企業行動として、ひとつには危さに対する防御策が必要となります。
そして、もうひとつは機会(チャンス)で、これは活用しなければなりません。



景気の悪さが吉と出る企業も存在するのであり、その企業にとって機会(チャンス)とはライバル社の事業を奪い取ることとして生じるというのです。
競合他社が軒並み重要な費用を削減している中でも、自社だけは削減しない時に機会(チャンス)が生じるのだそうです。



先日の当社セミナーにおいて、ドラッカー理論に基づきコスト管理では費用削減ではなく、機会の最大限の開拓がポイントになるというお話をさせていただきました。
本書を見て、その論旨が間違っていないと感じることができました。



以前に指摘したようにコトラーはドラッカー理論の影響を受けていますから、本書はドラッカーのマーケティング論の現代版といえるものであると思います。

2009年12月4日金曜日

ドラッカー流戦略的事業計画

ドラッカー経営を実践する難しさはその体系的な壮大さにあると前に書きました。




しかし、ドラッカーのマネジメント理論が初めて有名になってから(1954年)、だいぶ時代が下ってきましたから徐々にその実践形式が出来上がってきています。



ごく簡単に事業のマネジメントの概要を述べると、会社の使命を定義して、それを実現するためにマーケティング、イノベーション、生産性、利益等の目標を定めて、その達成のためのアクションプランを作り、実行し、評価し、修正してまた実行するサイクルを回すことになります。



こうしたサイクルについてドラッカーは多くの有力な論者の協力のもとに『経営者に贈る5つの質問』という簡略な形式を提起しています。その中で事業戦略を明確にする簡単な形式を明らかにしているのです。



英語圏のサイトをvission、missionで検索してみると、このタイプの経営戦略を構築して公にしている組織が多いことに気付きます。


日本でもコンサルティング会社等がこのような形式で戦略を作っていて、その数は年々増えてきているようです。
この形式は今後、事業戦略・事業計画作成の大きな流れになると私は考えています。



『‥5つの質問』に記載されている、公共の美術館の事業戦略モデルの具体例は次の通りです。



市立美術館

ビジョン:世界の多様な美術品を市民の心の糧とする街をつくる


ミッション:市民と美術品との触れ合いの増大


ゴール1:美術品の収集と保全


ゴール2:展示、講座、出版による啓蒙


ゴール3:来場者の増加


ゴール4:設備の充実と運営の改善


ゴール5:財務基盤の確立



ゴールはこの美術館が目指している成果です。

この成果を目指してアクション・プランが作成され、実行され、その結果が評価されるわけです。

そして、そのアクション・プランができて初めて予算が意味を持つわけです。


この例を見ると簡単そうで、なんだか事業戦略がとっつきやすく見えてきますね。
実際はその内容を決めるまでに真剣な議論が必要なんでしょうけれど。




中小企業では実効的な予算や経営計画があまり作られていないようです。

それは上記のように数字以外の部分をしっかり考える手順を踏まないために、数字を作ってもなんだか空々しくなってしまうことが原因であるように思います。


やるべきことも決まらないままにいきなり予算を作ろうとしても難しいですよね。



現在、TMAコンサルティングではこのドラッカーのモデルに基づいた事業戦略・事業計画作成の形式の策定とその支援を検討しています。

2009年12月3日木曜日

書評「未来経済入門」

『ビジネス読解力を伸ばす 未来経済入門』小宮一慶、ビジネス社、2009年 定価 1,575円


朝の番組のコメンテーターなども務める経営コンサルタントの小宮一慶氏の近作です。

小宮氏はドラッカーの影響を強く受けていることがはっきりわかるコンサルタントです。
理論の骨格はほぼドラッカーをなぞっていますが、実地に即してわかりやすく説明している点で小宮氏は抜きんでています。


本作はミクロのマネジメントの本ではなく、どちらかというとマクロ的視点からのものです。
日本経済、世界経済の分析結果を未来予測という形で問題提起したものです。



まず、日本経済を理解する上で次の4つのポイントがあるといいます。


①日本の経済成長を陰で支えていた冷戦構造という政治状況がなくなった。


②世界的供給過剰の中での競争激化・利益率減少


③世界経済のブロック化・一体化


④日本国内の一層の国際化


この4つのポイントにより日本経済は以前の強さを持たなくなったといいます。
高齢化問題、教育問題の深刻さも経済にダメージとなっているといいます。


世界的な供給過剰が続くことは必至であり、日本企業はこれまで以上に付加価値の高いものを作るか、より低コスト化を進めるかしなければならないと主張しています。
つまり二極化がますます進むというわけです。


こうした状況を踏まえて、企業経営で重視すべきこととして次の二点をあげます。



1、自社の強み・弱みを見極め、有望市場に目を向ける。そのために変革をいとわぬ社風を作る。




2、大企業だけでなく中小企業でもM&Aを戦略オプションと考えることが必要。「時間を買う」という意識を持つ。



このような小宮氏の予測は筋が通った確度の高いものと思います。


この本を読んで思い出したエピソードがあります。


先日、静岡銀行のセミナーでキリンホールディングスの加藤壹康社長の講演を聞く機会がありました。


加藤社長の話してくださったキリングループの経営戦略はかなり大胆で積極的なものでした。
それは大企業というよりは革新的な中小企業以上に柔軟かつスピーディなものでした。
 


講演後に懇親会があり、加藤社長とお話しをするチャンスがあったので、失礼ながら「まるで中小企業のような経営戦略ですね。お聞きしてとても驚きました。」と申し上げました。

すると、「いや、キリンといってもグローバル社会ではただの中小企業ですよ。日本から一歩外に出ると誰も知りません。やらなければいけないんですよ。」と笑顔でお話ししてくださいました。


「キリンがこれほど必死なら、中小企業は一体どれだけ必死になればいいのか」と身の引き締まる思いを感じました。


小宮氏の提言は、経済大国の地位を脅かされている日本企業が意識を切り替えて必死に取り組むべき時期にあることを示すものと思います。

当社セミナー開催

昨日、12月2日に当社の無料セミナーを開催しました。




テーマは私が書いた雑誌記事をもとにしたものです。
環境整備は気楽に聞けるものですが、コスト管理は濃い内容ですから概略にとどめました。

その点は無料セミナーの限界であると思います。
概要紹介を無料セミナーの役割とし、詳細な内容は有料セミナーで行うように明確化していきたいと思います。



コスト管理については、現場社員の目線と経営者目線の違いがポイントです。



現場社員のコスト管理は細かい節約やちょっとした改善といったものです。

しかし、経営者の場合はコストとは「資源の投入である」という自覚を持つことが大切です。



そして、投入資源に対してどれだけ大きな成果を上げることができたかを管理していくわけです。

これをドラッカーは「コスト管理の要諦は対業績比にある」と表現しています。



業界別に、黒字企業の社員数と一人当たり粗利益額の相関関係をグラフ化してみると、それぞれ非常に特徴があることがわかります。



一般的に言うと、製造業、建設業、卸売業は一人当たりの付加価値が高くなります。小売業、運輸業などは中程度の付加価値です。しかし、飲食業、サービス業などは付加価値がこれらの業種と比べるとかなり低くなります。



一人当たり粗利益額が高い業種がえらく、低い業種がだめというわけではありません。巨大な設備が必要な業種は付加価値の高さが必要です。また水準の高い社員の存在が不可欠な業種では人件費の額も高くなります。一人当たり粗利益額は個々の業種の特性を加味して考えてみなければなりません。



さて、一人当たり粗利益額によって自社の現状が明らかになってからがコスト管理の本題になるわけです。



詳細は今後、『TMAレポート』としてHP上で閲覧できるようにしますので、またご覧いただければと思います。

2009年12月2日水曜日

ビジネス誌掲載

データエージェント社発行『近代中小企業』12月号の別冊『速習』向けに書いた原稿が出来上がってきました。

編集部からいただいたテーマの中から「環境整備」と「コスト管理」を選び執筆しました。

総務や経理の現場向けの冊子ですので、かなりやさしめな文体でまとめてあります。

今回、あえてこの二つのテーマについて経営者目線で書かせていただくこととしました。

「環境整備」や「コスト管理」は基本的には現場の活動という色合いが濃いものと思います。
経営者目線でこれらの活動をみるということは、大所高所からその戦略性を明らかにすることにほかなりません。

環境整備の戦略性というと思い浮かぶのは5Sでしょう。
トヨタでは5S活動のような環境整備を有名なカイゼンの前提と位置づけています(トヨタでは今は4Sと呼ぶようですが)。したがって戦略のとっかかりと言えるわけです。

しかし、多くの会社の5S活動が形骸化していることは有名です。
私はその原因が5S活動の抽象性にあると考えています。
「整頓」はものの置き場を決めるという基準設定が必要です。
「躾」は倫理的な概念です。
この抽象性が初歩的な段階である美観維持活動を阻害しているのではないかと思うわけです。

「見た目」だけを徹底すると環境整備は格段にやりやすくなります。
あれこれ細かいことを考えなくても美観だけにこだわれば相当大きな効果が得られます。
それを私は「2S直角平行」という概念に整理しました。

2S直角平行とは、まず、いらないものを捨てる(整理)、汚れホコリを徹底して取る(清掃)、後は見た目を直角平行に整える、だけなのです。
活動を絞ることで徹底性を追求できるわけです。
これは5S活動と両立できますからお勧めです。

またコスト管理についてですが、コスト管理=コストカット ではないというのが結論です。
ドラッカーも述べているのですが、経営活動というのは資源を投入して成果を得る活動です。
したがってコスト管理とは業績管理であるべきなのです。

業績管理の視点を持たないコスト管理は現場レベルではよいのでしょうが、経営レベルの活動としては問題があります。
安易なコストカットは既存事業の根幹を揺るがす場合もあるからです。

日常的な管理活動の戦略的意味合いを深く考えてみると新たな発見があると思います。

2009年12月1日火曜日

知識労働者と成果

ドラッカーの経営理論で重視されている概念に「知識労働者」があります。




知識労働者というのは肉体労働者に対して作られた概念です。時代がすすむにつれて知識労働者の比率が高まっていきました。



肉体労働者とは単純な労働者のことです。
仕事内容やその出来栄えも外からはっきりわかります。ですから仕事の出来高に応じた賃金が割り当てられていればいいわけです。



知識労働者とは知識を基本において働く人のことで、現代社会ではその比率がどんどん高まっていきます。
しかし、知識労働者=ホワイトカラーというわけではありません。
現代では工場やお店の現場にも知識労働者に該当する人が多数いると考えなければならないのです。


たとえばユニクロの柳井正社長は、ユニクロの社員は知識労働者であると明確に述べています。
ユニクロにおける知識労働者の頂点にある「店長」の優秀な人は役員と同等の待遇なのだそうです。




知識労働者の問題として「その人の仕事の成果が見えにくい」という問題があります。



これについてドラッカーはおもしろいたとえを引用しています。



あるビジネス誌に風刺漫画が掲載されていました。
大変立派な重役室のドアが開いています。
そしてその奥には立派なデスクを前にして目をつむり、深刻な顔をした貫禄ある経営者が一人座っているのです。


そのドアの外に若手の社員が2名、中をのぞきながらひそひそと話し合っています。



「社長は事業計画を練っているのかな?それとも寝ているのかな?」



このように知識労働者の仕事は外から見えません。
彼、彼女の仕事がはっきりと知るためには成果を見るしかないわけです



ですから知識労働者が中心となった現代の組織社会においては成果にこだわることが適切な社内コミュニケーションとなります。



個人の成果が見えにくいため、それをどのように明らかにしていくかが現代の経営の一貫した課題といえます。


付け加えると、組織の成果は一人では出せません。いろいろな人間が同じ目標に向かって力を結集することでしか成果が出せないのです。


したがって自分のあげた成果とは「最終成果に対する貢献」という形で考えなければならないのです。



最近、「見える化」とか「可視化」という言葉がはやっています。この言葉が注目されている理由は知識労働者の仕事の複雑化であると思います。

2009年11月30日月曜日

社会的責任(CSR)の背景

私は会計学で学会活動もしています。


主な関心領域としては内部統制、内部監査、会計史といったものになるのですが、CSR(企業社会責任)についても継続して調査をしています。



企業の社会的責任についてもドラッカーは50年以上も前からその重要性について指摘しています。

彼は社会的責任を企業の主要な目標として考えるべきであると主張しています。



しかし、CSRが社会的な認知を得られるようになったのはごく最近のことなのです。



実際、日本においてCSRが本格化し、マスコミに頻繁に取り上げられるようになったのは2003年以降です。



ちなみにこの2003年は『CSR経営元年』と呼ばれたりします。



もともと日本にも古くから商道徳の一端としての社会的責任という考え方はありました。



例えば、商売上手といわれた近江商人には「三方よし(相手にも自分にも世間にもいい商売)」という考え方がありました。



また江戸時代に心学という学問を創始した石田梅岩は、士農工商と社会的に最低ランクに格付けされていた商人の商売上の道徳は武士にも劣らぬ立派なものであると提唱しました。


そこには社会に対する責任といった考え方も含まれていました。



二宮尊徳が説いた経済と道徳の調和を重んじる報徳思想も社会的責任を重んじる考え方でしょう。



これらはCSRの議論を行う場合、必ず引き合いに出されるものです。


しかし、最近の議論は歴史的にみると明らかに以前の議論とは連続性がないように見えます。


この背景には社会を動かす原理が変化したということがあります。


そうした意味で、CSRはコーポレートガバナンス、コンプライアンス、リスクマネジメント、内部統制といった考え方が重視されるようになったのと同じ背景を持っているのです。


ISOもその歴史を振り返ると同じ背景を持っているのです。


今後はCSRを含めたこれらの概念に関連する話題もしていきたいと思います。

2009年11月29日日曜日

マーケティング―コトラーとドラッカー


前回に引き続きマーケティングについてです。




現代のマーケティング論における第一人者はフィリップ・コトラーです。



彼はマーケティングを初めて戦略的活動として体系的に整理した人物です。


マーケティングが企業の主要な活動として認識されている現在、コトラーの重要性ははかり知れません。



実はこのコトラーはドラッカーのマーケティング概念に大きな影響を受けており、それを自ら明らかにしているのです。



コトラーは、ドラッカーの理論を簡単に実践するための著作である「経営者に贈る5つの質問」においてドラッカーの顧客満足の視点を補足する説明を書いているほどです。



コトラーはドラッカーが企業が自身の事業の定義を絶えず問いただしていくことの重要性を指摘したことを最大限に評価しています。



事業の定義をするということは、その企業全体を説明することにほかなりません。そこで定義された内容をいかに現実化するかという活動がマーケティングに他ならないのです。



コトラーの評価したドラッカーによるマーケティング論への貢献とは



顧客は誰なのか?



顧客はどこにいるのか?



顧客は何を買うのか?



という、一見すると自明のような簡単な質問の重要性をはっきりと示したことです。



これらの質問への解答が実は難しいものであることを認識したところからマーケティング戦略はスタートするのです。



これらに対して当たり障りのない一般的な解答しか思いつかない企業は、独自性のない場当たり的な企業活動をしているということに他なりません。



それが正解であるかは分からないまでも、こうした問いに考え抜いた解答を持ち合わせない経営者についてドラッカーは厳しい視線を向けています。

ドラッカーのマーケティング

ドラッカーは現代社会が組織なくしては回らないと考えました。




ですから組織が適切な成果をあげなければ社会がよくなっていかないことになります。



ドラッカーの有名な定義「企業の目的は顧客の創造である。」もこうした視点からでてきたものです。



そしてこの目的を達成する手段はたった二つしかなく、それこそがマーケティングとイノベーションであるというわけです。



このように言われると「なんだ、営業部と研究開発セクションだけが偉いのか」と誤解されそうですが、実際にはそのような意味ではありません。



ドラッカーはマーケティングとイノベーションという概念を企業の全社的な取り組みの対象と位置付けました。

つまりそれらは経営戦略的な視点から理解しなければならないのです。



ドラッカーはマーケティングと営業の違いを強調します。

営業とは売り込むことであり、マーケティングとは自然に売れていくようにすることであり、両者は全く違う意味であるといいます。



営業とは「はじめに商品ありき」の発想であり、マーケティングとは新たな顧客ニーズ・ウォンツを満たしていく活動であるというものです。



「ニーズ・ウォンツを満たす」という考え方はだいぶ普及しているように思われますが、この営業との相違点については日々の経営の中ではつい忘れられがちになるところではないかと思います。



顧客のニーズやウォンツは日々変化します。



「今日、売れていない商品は顧客の昨日のニーズ・ウォンツに対応しているのではないか。今日売れている商品は明日の顧客のニーズ・ウォンツに対応できるだろうか。」と常に考え続けなければなりません。



こうした視点を抜きにして売り込もうとすることが営業です。

 
マーケティングの理想は営業をなくすことなのです。

2009年11月27日金曜日

ドラッカー経営の難しさ

ドラッカーの影響を受けた経営者は世界中に多数に多数います。
日本ではユニクロの柳井正氏はドラッカー経営を実践していることを明らかにしていますし、リクルートの江副浩正氏もドラッカー信奉者として有名です。

柳井氏のドラッカー経営論は先日NHKでも特集されていましたね。



リクルート社は数多くのコンサルタントを輩出していますが、彼らの著作やセミナーを見るとドラッカーの影響が色濃く残っています。
また日本の著名なコンサルティング会社の何社かはドラッカー理論をモデル化したツールを利用してコンサルティングを行っています。



ドラッカーは初めて体系的なマネジメントの枠組みを提起しただけに、後に続く人たちはその理論を無視することができなかったのでしょう。



ところで目を中小企業に転じてみると、「ドラッカー経営」を標榜する経営者に出会うことはそんなに多くありません。
それはドラッカーの著作の分厚さ、体系的な難解さに原因があるように思われます。



ドラッカーの著作は鋭く含蓄に富んだ言葉に満ちています。
「企業の目的は顧客の創造である」、とか「企業の成果はマーケティングとイノベーションの二つだけから生まれる」とか、短い警句を使ってズバリと経営原則を提示してくれます。



しかし、ドラッカー理論の全体像は壮大であり、一読して理解できるタイプのものではありません。
これが「ドラッカー経営」の実践者を増やさない原因なのでしょう。



他にも理由があります。まず一つには、ドラッカーの著作に見受けられる矛盾の数々です。
著作同士を読み比べて見ると随所に矛盾があることに気付きます。
特定の概念について著作ごとに定義が違っていたり、下手をすると同一著作中であっても違う説明が行われていたりします。
そのためドラッカー理論は読み手の数だけ解釈があるといわれる状況になっています。



この矛盾にはドラッカー自身による思考の深化と時代状況の変化という側面があると思います。
またマネジメントという抽象的概念と実際のビジネスパーソンの具体的行動との間に横たわる曖昧さに関係するようにも思います。



もう一つの理由は「場合分け」の数の多さです。
ドラッカー経営理論の古典三部作をざっと見ると次のような状況です。



1954年の「現代の経営」を見ると、目標の5つの条件、8種類の目標、意思決定の3つの方法、3つの生産システム、組織文化:5つの行動規範、2つの組織原理、企業規模の4段階などが書かれています。



1964年の「創造する経営者」には、企業の3つの本業、業績をもたらす3領域、製品・サービスの11分類、コスト管理の5原則、マーケティングの8つの原則、強みを基礎とする3つのアプローチ、戦略的意思決定をすべき4つの領域、業績を上げる3つの能力などが書かれています。



同じく1964年の「経営者の条件」にも、成果を上げる8つの習慣、エグゼクティブを取り巻く4つの現実、身につけておくべき5つの習慣的能力、時間浪費の4つの原因、貢献に焦点を合わせることで身に着く4つの能力、強みの基づく人事の4原則、GMのスローンの意思決定の4つの特徴、意見の不一致の3つの理由、などです。



上記ですべてではなく、それぞれの理由づけまで含めるといったいいくつの類型化がおこなわれているか数えることもできないほどです。
これが読み手の混乱を招いている原因の一つです。

2009年11月26日木曜日

書評「経営戦略の思考法」



「経営戦略の思考法 -時間展開・相互作用・ダイナミクス-」沼上幹、日本経済新聞社、2009年 定価(本体1900円+税)



沼上氏は一橋大大学院教授で気鋭の経営学者です。


本書はアカデミズムの視点と実務的視点のバランスを取りながら体系的にまとめられたすぐれた経営戦略論となっています。


本書は第Ⅰ部から第Ⅲ部に分けられており、それぞれ、従来の経営戦略論の整理、戦略思考の解剖、戦略の実践について書かれています。

私は本書の最大の有用性は第Ⅰ部にあると考えます。


沼上氏は第Ⅰ部において、従来の経営戦略論を①戦略計画学派 ②創発戦略学派 ③ポジショニング・ビュー ④リソース・ベースト・ビュー ⑤ゲーム論的アプローチ の5つに類型化しています。

この5類型は沼上氏の大きな知的貢献であると思います。


①の戦略計画学派の代表選手はアンゾフで、一般的にイメージする事前に詳細に作成する経営計画はこのイメージになると思います。


②の創発戦略学派の代表選手はミンツバーグであり、現場からボトムアップ的かつ事後的に形成されてくる戦略という視点です。


ミンツバーグは世界的には有名ですが、日本においては一般によく知られているというほどではありません。

私はかねてよりミンツバーグの著作を愛読しており、その評価が高まらないことを不思議に思っていました。

本書で沼上氏がボトムアップ型の創発戦略を戦略計画学派に対抗する位置付けを明確にあたえている点に深く共感を覚えます。


③のポジショニング・ビューはポーターの競争戦略論が代表で、④のリソース・ベースト・ビューは、プラハラードとハメルの「コア・コンピタンス」概念に代表される企業独自の資源(=強み)に焦点を当てた戦略論です。

最後のゲーム論的経営戦略は、最近の経済学の流行を取り入れた最新の理論動向といえるでしょう。


戦略論の概念整理については②の代表選手であるミンツバーグの著作「戦略サファリ」が従来もっとも重要といえるものでした。
そこでは経営戦略論を10もの学派に類型化しています。

しかし、あまりに類型が多すぎて実用的ではないという印象がありました。

その点沼上氏の類型化はシンプルかつ明確であり有用性が高いと思われます。


沼上氏はそれぞれの戦略タイプをお互いに補完しあう関係にあると考えており、その点で実務的な側面への貢献も大きいと思います。


私見ですが沼上氏の5類型のうちゲーム論的アプローチ以外の4つの類型はすべてドラッカーの経営理論の中でバランス良く取り扱われていると思います。


ドラッカーは手順にのっとって戦略計画を作成することも重視しています。

また現場の状況をよくくみ取って計画を修正していく柔軟さも持ち合わせています。

これは創発戦略学派の視点と調和します。


また「強み」を重視する点においてハメルとプラハラードと同一線上にありますし、市場の中におけるポジショニングの視点はポーターと重なる部分でしょう。


沼上氏の著作を読むとドラッカーの偉大さが改めてわかる気がします。

ドラッカーの評価

ドラッカーが提起したといわれる概念は多岐にのぼります。「経営戦略」「民営化」「知識労働者」「目標管理制度」等は彼の提唱した言葉として知られています。




またマーケティングの大家、レビットやコトラーに先立ってその重要性を指摘したのはドラッカーです。
経済学の分野でシュンペーターの主張したイノベーションの重要性に着目し、マネジメントの中心的概念として新たに位置づけたのもドラッカーです。



彼はこのマーケティングとイノベーションの二つだけが企業の成果を生み出す活動であると提唱し、それは企業の外に対して働きかけるものであると断言しました。
つまり企業の内部にはコストしか存在しないわけですから、それまで曖昧であった経営者が持つべき視線の方向がはっきりしました。



ドラッカーはマネジメントのあらゆる分野について原則を述べ、現代のマネジメントの骨格を一人で築き上げたといってもよいほどの実績を残しました。
特に1954年の著作『現代の経営』は史上初めての体系的なマネジメントの書物として有名で、そのためドラッカーは「マネジメントを発明した男」と呼ばれています。



これほどの足跡を残したドラッカーですが学会での評価は必ずしも高くありませんでした。
彼が経営者向けの著書やビジネス誌を中心に書き続けていったため、いわゆる学会誌における実績がなかったのです。そのため経営学の専門書の多くにはドラッカーが登場しません。
世界の経営者の圧倒的な支持と実に対照的で状況です。
研究者の世界の特殊性を感じざるを得ません。



しかし、ドラッカーが世を去り生誕100周年を迎えた今年になって変化の兆しが見えてきました。
その最たるものが経営専門雑誌『ハーバード・ビジネス・レビュー』の11月号が大々的にドラッカーの特集を組んだという事実です。
同誌はその名のごとくハーバード大学のマネジメント専門誌です。



大学の頂点に君臨するハーバード大学の影響は大きいと思います。
これは経営学の世界がようやくドラッカーを認めようとしていることの表れのような気がします。
この顛末は今後も注目していきたいと思います。

2009年11月25日水曜日

ブログを始めます

ブログ全盛の時代ですので、遅ればせながら私も始めようと思います。

タイトルは「ドラッカー経営」となっていますが、マネジメント全般のよもやま話を書いていこうと思います。



さて、やはりタイトルがドラッカーですから少し紹介しておきます。



ドラッカーは「マネジメントを発明した男」として知られる20世紀最大の経営思想家です。現代の経営者・コンサルタントが日々使っている経営コンセプトの過半も元をたどるとドラッカーに行き着きます。

色々なセミナーを受講すると「これはドラッカーの言葉の焼き直しだな」と思う個所が必ずあるほどです。ドラッカーの考え方は気付かぬうちにビジネス界に深く浸透しています。



 しかし、実際にドラッカー理論を意識している人はそれほど多くないと思います。無意識にドラッカーの言葉を用いつつ、本人もそれに気がついていなかったりすることもしばしばです。
そこでこのブログを通じてドラッカー理論について色々と考えたことを述べていきたいと思います。



 私はビジネスパーソンとしてのスタンスを決める際にドラッカーの理論を最も重視しています。
もちろん戦略論のポーターや、マーケティング論のコトラー、ブランド論のアーカーを始め、主要な経営学者の著作は意識しますし、また注目を浴びたビジネス書などにも影響されています。
しかし、あくまで基本とするのはドラッカー理論です。



ドラッカーは1909年11月19日に生まれ、2005年11月11日に亡くなりました。
今年はドラッカー生誕100周年に当たり、ドラッカーに関連する各種著作が刊行され、雑誌でも特集が組まれました。おそらくドラッカー理論はこれから再評価が進んでいくと思います。












 ドラッカー理論とは、一言で言うと「経営にまじめに取り組むための心得」のようなものであると思います。その通りにやれば必ず成長企業を作れるというタイプのものではないのですが、彼の言葉に反した経営をすると手痛いしっぺ返しにあうでしょう。

このブログを通じて私も「手痛いしっぺ返しを受けない」ように考えをまとめていきたいと思います。