2010年7月29日木曜日

貢献の位置づけ

貢献に焦点を合わせることが、仕事の内容、水準、影響において、あるいは上司、同僚、部下との関係において、さらには日常の業務において成果を上げるカギである。

                   『経営者の条件』より


ドラッカー経営論の中核は、組織で最大限の成果をいかに上げるか、そのために組織のメンバーはいかに貢献するか、その貢献の在り方をきめるためにミッション、ビジョン、ターゲットをどのように決めるかということです。

貢献はドラッカー理論の大きな柱なのです。

できるビジネスパーソンは、「自分はどのような貢献をすることができるだろうか」という問いからスタートします。

しかし、多くの場合、そうではありません。


‥成果ではなく権限に焦点を合わせる。

組織や上司が自分にしてくれるべきことや、自らが持つ権限を気にする。

その結果本当の成果を上げられない。

               『経営者の条件』より

閑話休題-市場規模を知る

以前に、このブログで会計事務所と社労士事務所の静岡県西部地区の市場規模を推定して見せました。

業界の市場規模を知ることは業者数が分かればおおよその売上が読めることになりますので重要な情報です。

ちなみに静岡県西部地域は人口130万人なので日本の人口の約1%です。そのうち浜松地域には4分の3が住んでいますので、日本の人口との比率は0.75%です。

したがってそれぞれの業界の全国の市場規模が分かると地域の市場規模を大まかに知ることができます。


参考までに主なサービス・飲食業の全国の市場規模をおおまかに書いておきます。


広告 8兆3千億  旅館・ホテル 6兆6千億  自動車整備 3兆5千億  旅行 3兆5千億

労働者派遣 2兆7千億 ゴルフ場 1兆  美容院 2兆 理容 8千億

日本料理 2兆3千億  中華料理 2兆  西洋料理 1兆6千億  すし 1兆4千億

ハンバーガー  5千億


これらの0.75%を基準に浜松地域の市場規模を推定することができます。

もちろん、都会と田舎であるとか、業種の特殊性や地域性といった論点もあります。

ですから他に全く違う経路から推定したものを利用すると一層精度が高まります。

私はたいてい3つの経路からの推論によって市場規模を推定します。

成果と自己実現

成果を上げる者は、社会にとって不可欠な存在である。

同時に、成果を上げることは新入社員であろうと中堅社員であろうと本人にとって自己実現の前提である。

                      『経営者の条件』より


ドラッカーは社会に生きる上でそれぞれがミッションに照らし合わせた成果をあげることが自己実現の前提としてとらえています。

成果というとすぐに「売上目標を達成する」と思いがちですが、ドラッカーの成果の概念はもっと深みがあります。

組織が存続していくためには社会と利害が一致しなければなりません。

ですから、場合によっては短期の売り上げ達成は長期の存続を犠牲にしているかもしれないということです。

ドラッカーは成果について明確な定義を置いていませんが、それはこの言葉を安易にとらえてもらいたくないためではないかと思われます。

2010年7月28日水曜日

書評  「人を信じても仕事は信じるな!」

小山昇『人を信じても仕事は信じるな!』大和書房、2010年 定価 1,575円



㈱武蔵野のカリスマ経営者・小山昇氏の近著です。

小山氏の著書の優れているのは、言葉の明確な定義と行動原則の提示です。

あれこれ細かい説明も不要なほどわかりやすいので、抜粋しました。



・利益責任は社長にある。実施責任は社員にある。
・社長の決定に「正しさ」は必要ない。

・大切なのは何よりもまず決めること。「違う」と思えばすぐに修正すればよい。

・ビジネスで必要なスピードとは早く取り組むこと。成功しようと思ったら早く走り始めること。
・業界内のレベルはみな同じ。マスタープランを作り方針を明確にし、社員を教育し、戦略化した会社が勝つということだけ。

・真実は時と場所を共有しなければ理解できない。社長は現場に出て自分の目で確かめよ。

・お客様とライバルが変化したら、それに対抗しなければいずれは倒産して会社がなくなる。
・しくみとは「嫌でも自然にそうしてしまうもの」
・他人の時間を無駄にするのは泥棒と同じ。

・お客様にエコひいきされるのがビジネスの基本。それが見た目や正確だろうと仕事上の能力であろうと関係ない。

・現場に同行すれば社長がどんな人に会い、どんな話をしているのか、どこを見て、どのような判断をしているのかがリアルにわかる。社長が持つ知識・知恵・技術・経験を現場で学ぶことができる。

・会社のルールブックを作れ!ルールブックがあれば行動に迷いがなくなる。
・最初から「正しさ」を求めていたらいつまでたってもルールブックなど完成しない。

・ルールブックに明示されたことを実施するのは社員の責務。責務を果たす社員は評価し、果たしていない人には罰を与える。

・チャンスは平等に与えて成績で差をつける。
・正当な理由があってもルールは曲げるな。

・いくら有能でも社長の決定を実施しない人は会社の足を引っ張るだけ。
・そこそこの人材でいいから、しっかりと汗をかいてくれる人を集める。
・性格の悪い人は教育できない。頭がよくて性格の悪いタイプは手に負えない。

・単純な仕事をさせるとその人の特性が分かる。

・マネすることは最高の創造だ。世の中にオリジナルなど存在しない。
・マネを繰り返していると何をまねするべきかを見る目、判断力が育つ。

・成功への近道は丸ごとマネすること。

・嫌なことをさせているうちに、まずは物事の形がそろい、そのあとでだんだんと社員の心もそろってくる。

・「理解」とは、体を使って経験し、自分でもできるレベルのこと。

・人の行動を変えるのは大変。基本的なことをひたすら繰り返す以外に人の行動を変え、ひいては会社全体を変える方法はない。
・部下の「はい」は単なる返事にすぎない。

・大きなことをほめる機会などない。小さなことをたくさんほめる。

・形が大事。どんなに心がこもっていても形にしなければ何も相手に伝わらない。
・「人」をしからず「こと」をしかる。何を叱っているか明確で、「こと」を叱っている限り、むしろ人前でしかるべき。

・目標は目に見える形で示し、実現可能であること。

・報告は5項目に絞る-①数字 ②お客様の情報 ③ライバルの情報 ④取引先の情報 ⑤自分の意見

・クレームは「大変だ!大変だ!」と大騒ぎしろ。
・社員にはお客様の「なぜ」を聞いてこさせる。お客様の変化に対して質問をしてくる社員を作る。

・問題がない時にこそ報告をさせる。

・営業は質ではなく回数が大事。

予期せぬ成功

自らの成長につながる最も効果的な方法は、自らの予期せぬ成功を見つけ、その予期せぬ成功を追究することである。

ところがほとんどの人が、問題にばかり気を取られ、成功のあかしを無視する。

                          『非営利組織の経営』より



ドラッカーの予期せぬ成功というコンセプトを私はとても重視しています。

これこそが、強み現れであり、自身を最も成長させる方向性を示しているからです。

予期せぬ成功を見つけるのはなかなか難しく、普段の仕事を細かく検討する習慣が必要であると思います。

2010年7月27日火曜日

完全な仕事

紀元前440年ごろ、ギリシアの彫刻家フェイディアスは、アテネのパンテオン神殿の屋根に立つ彫像群を完成させた。

だが、フェイディアスの請求書に対してアテネの会計官は支払いを拒否した。

「彫像の背中は下から見えない。見えない部分まで掘って請求してくるとは何事か。」

それに対し、フェイディアスは答えた。

「そんなことはない。神々が見ている。」

                       『創生の時』より


このエピソードは完全な仕事とは何かを示しています。

一流は、一つ一つ当たり前のことを手を抜かずにこなします。

細部にまで気を配ということです。

細部に気を抜いた仕事は「神々がみている」ので、完成度の低さとして現れます。

書評 「佐藤可士和のクリエイティブシンキング」②

佐藤氏はデザインについて次のように定義しています。


・デザインはビジョンを形にすること。ビジョンは自分で作るもの。
・デザインとは問題を解決するために思考や情報を整理して、コンセプトやビジョンを導き出し、最適な形にしてわかりやすくその価値を伝えていく行為。


このように佐藤氏はデザインとマネジメントの関係についてかなり戦略的な視点を持っています。

デザイン=ソリューションという視点を提起しています。

ですから、佐藤氏のデザインはなんとなく雰囲気で作っているわけではなく、明確なビジョンを言葉にして、それを形や色におきなおすという作業を行っているわけです。

これこそが佐藤氏が1人のクリエイターという存在を突き抜けて、経営コンサルタント的な扱いを受けている理由であり、トップ中のトップ企業の仕事を立て続けに受注している理由です。

また、佐藤氏はコラムニストの天野祐吉氏の印象的な言葉を引用しています。


・外見と中身を分けて考えている人がいるが、外見は一番外側の中身なんです。


私はここから当社の環境整備のコンセプトを再定義してみました。

1、美観(環境整備)は一番外側の中身です。
2、美観は、品質の象徴です。
3、美観は、生産性の象徴です。
4、美観は、広告です。

という感じですがいかがでしょうか。

佐藤氏は、オフィスの環境整備についても高い見識を持っていますが、だいたいこれと近いことを言っています。

2010年7月25日日曜日

書評 「佐藤可士和のクリエイティブシンキング」①

『佐藤可士和のクリエイティブシンキング』日本経済新聞社、2010年 定価 1,575円


クリエイターでありながら卓抜したマネジメント観を持つ、佐藤可士和氏の近作です。

佐藤氏の視点は相変わらず斬新で、いわゆる経営コンサルタントの著作より示唆に富んでいます。

以下、概要をまとめます。


その前提は正しいか?-疑うことがクリエイティブの出発点。ビジネスの本質にさかのぼって考える。
「頭の中を言語化する」という作業は大切。
・人間同士はたやすく理解し合えない。
・ブログやツイッターは自分の気持ちや考えを整理したいという側面を持つもの。


・日本の伝統技法『見立て=あるものを別のものになぞらえる(比ゆ)』は大切。
・まずは自分の仕事を別の何かにたとえてみよう。
自分の仕事を何かの形に表してみる。本質をシンプルに表せば表すほど、ビジュアルが持つ力が発揮される。これを企業規模で行いきちんとデザインするとロゴマークになる。

表現するとは、記憶をコントロールし、組み立てていく作業。
・気になるものがあれば、タグ(ちょっとした説明)をたくさんつけてみる。意味のビジュアル化。

・プレゼンテーションは本質的なコミュニケーション能力がものをいう。共感を得る手段。
・プレゼンは自分がその問題に対して考えてきたプロセスを順を追って率直にしゃべる(佐藤流)
・プレゼンで共感を得るにはリアリティがポイント。

・消費者の実態がつかみにくい時代になった。
・時代のキーワードはリアリティ
・表面的であきられやすいトレンド(流行)ではなく、より本質的で現実の生活にフィットする感覚で消費者の心を自然にとらえる。


お客様の目線世間の目線は違う。企業はお客様の目線を気にするが、もっとシビアでドライな世間の目線を忘れてはいけない。
・「お客様の目線」は、どうしても企業の都合や業界内の常識から離れられず、実際の世間のニーズとは微妙にずれる。


・80-90年代は広告は見てもらえるものというのが常識だった。今は違う。見てもらえなくて当然の時代。
・一般客としてのファーストインプレッション(第一印象)が大切。
・選択肢がたくさんありすぎるとお客は選べない。


・今は何でもメディアになる。例-コンビニの陳列棚もメディア。どのように見えるかが勝負。
・90年代までの説得型の広告から、提案型の広告(こういうものはいかがでしょうか?)の時代になった。
・いい商品を開発しても、それを伝える方法が適切でなければヒットにはつながらない。

2010年7月23日金曜日

よりよく行う

他の者が行うことについては満足もありうる。

しかし、自らが行うことについては責任があるだけである。

自らが行うことについては常に不満がなければならず、常によりよく行おうとする欲求がなければならない。

                      『現代の経営』より



責任の在り方についての記述です。

人は仕事に慣れてくると、同じようなやり方で同じようなレベルの出来栄えで満足しがちです。

ドラッカーはこうした姿勢を全面的に否定しているわけです。

ドラッカー経営を実践するユニクロの柳井氏も、前と同じ仕事振りであった場合、その仕事をほとんど評価しないと明言しています。

ビジネスパーソンは常に前より上のレベルの仕事をする責任があります。

閑話休題-孫正義の語録

週刊ダイヤモンド2010年7月24日号は孫正義氏とソフトバンクの特集でした。
そこに孫氏の語録がありましたので、ご紹介します。


  • 「理念」で100年単位で何をやりたいかを立案して、「ビジョン」でいつ何処までやりたいかを立案。その後に戦略。
  • 300年先までソフトバンクは生き延びているはずだ。そのような仕組みを考えている。
  • 僕は日本のビルゲイツじゃなくて、世界の孫正義になりたいんですよ。
  • 地に足がついたことだけやっていても革命にならないんです。

  • 大きなことをするといつもこきおろされますが、数年で評価が変わるというのがパターンです。
  • 退却は進軍の10倍の勇気がいるんです。
  • 私は頭がちぎれるほど考えた。
  • 50年間、飽きずに全知全能をささげることができる仕事かどうかです。
  • 売上高を5年で100億円、10年で500億円にします。いずれは売上を豆腐のように1丁(兆)、2丁(兆)と数えたい。

最後の言葉は、孫氏が起業して間もないころに、二人いたアルバイト社員に熱く語りかけていた言葉なのだそうです。しかし、これを何度も聞かされているうちに二人のアルバイト社員はやめてしまったそうです。


私の知人の若手経営者にも似たような話があります。
4年ほど前にその会社が業況不振で事業規模を大幅に縮小し、社員が1人しかいなくなったそうです。

それでも毎朝たった二人だけの朝礼をやっていたそうで、ある朝1人だけの聴衆に向けて「3年後に社員300名の企業になる!」と力強く宣言したところ、翌日その社員から辞表を出されてしまったそうです。

その社長は飲食ビジネスとブライダルビジネスを拡大し、その言葉通り300名以上の企業を作り上げました。


高いビジョンを持つことの大切さがよくわかります。

2010年7月22日木曜日

責任を果たす

成功のカギは責任である。自らに責任をもたせることである。

あらゆることがそこから始まる。

大事なものは地位ではなく責任である。責任ある存在になるということは、真剣に仕事に取り組むということであり、仕事にふさわしく成長する必要を認識するということである。

                  『非営利組織の経営』より


このドラッカーの言葉は重い意味を持っています。

ドラッカーはビジネスパーソンの将来性を決める重要な柱として責任の表明をあげています。

ビジネスパーソンの格は、当人が自身で表明している責任の範囲に比例します。

この範囲が広い人物ほど成長可能性が高いと言えると思います。

責任表明の範囲が狭い人には大きな仕事を任せることはできないわけですから、必然的に成長可能性が低くなります。

2010年7月21日水曜日

成長の責任はだれにあるか?

成長に最大の責任を持つ者は本人であって組織ではない。

自らと組織を成長させるためには何に集中すべきかを自ら問わなければならない。

              『非営利組織の経営』より


人は自ら成長する道を選ばなければならないとドラッカーはいいます。

企業の成果は、そこに属するビジネスパーソンの活動が生み出します。

その成果の大きさはビジネスパーソンの能力と適切な仕事ぶりによって決まります。

ですから、企業が成果を出すためにはビジネスパーソンが成長しなければならないというわけです。

時間には制約がありますから、どのような成長を目指すのか(ビジョン)を決めて、集中的に取り組まなければなりません。

閑話休題-ISOマネジメント8月号発刊

私が原稿を二本執筆したISOマネジメント8月号が今月20日に発売されました。


今回は事例発表ですが、浜松の総合建設業・常盤工業株式会社の事例のほかに当社(株式会社TMAコンサルティング)を事例として取り上げさせていただきました。


当社は「ドラッカー経営」を標榜していますが、ドラッカーの経営理論をはやりのバランス・スコアカードとISOの品質マネジメントシステムと融合させる枠組みを実行しており、その概要についてご紹介させていただいています。


この枠組みの学問的な発表を9月の日本会計研究学会の全国大会で行ってきます。

卓越性の追求

自らの成長のために最も優先すべきは、卓越性の追求である。

そこから充実と自信が生まれる。

能力は仕事の質を変えるだけでなく、人間そのものを変えるがゆえに重大な意味を持つ。

                        『非営利組織の経営』より


卓越性とは抜きんでた実力のことです。


ビジネスパーソンの場合、同業者がうなるレベルの仕事振りかどうかが卓越性の基準であると考えています。



現在のように経済の成長力の乏しい時代において、企業も人も勝ち組は2割以下で、8割は負け組に分類されると思います。


少なくとも同業者が唸るレベルの実力があれば、上位2割程度には入っているでしょう。


「平均的な実力」とは負け組に入っていることを意味すると考えなければなりません。


どれほど厳しい時代になっても卓越した実力があれば、生き残る確率は増えるはずです。


また、そのような卓越性を追求する姿勢は人間そのものを変える、つまり成長させる原動力となるとドラッカーは考えていました。

仕事を通じた成長について

少ししか求めなければ成長しない。
多くを求めるならば、何も達成しない者と同じ努力で巨人に成長する。

                    『経営者の条件』より


ドラッカーの経営理論は大きく分けて、経営戦略論の部分と仕事を通じた成長の部分があります。

しばらく、このドラッカーの仕事論というべきものについて検討していきたいと思います。


ドラッカーは成長の可能性を決める基本は本人の志の大きさにあると考えます。

ビジネスパーソンは志の大きさに応じた成長をするものと仮定されています。

本人が、会社内レベルの成長を志すのか、社外でも評価されるレベルを目指すのか、業界で名が知れるレベルを目指すのか、全国に名が轟くレベルを目指すのか、これらいずれかによって、その後の成長に大きな差がでるというのです。

2010年7月16日金曜日

総力をあげた迅速なイノベーション

最後のイノベーション戦略は「総力を挙げて迅速に行うイノベーション」です。


勝つための戦略としては一番当たり前そうに聞こえますが、ドラッカーはこの戦略は当たるとでかいがはずれるとすべてを失う危険な賭であると考えています。

ドラッカーはイノベーションは「小さく始める」のが基本であると考えているわけです。

これは軍事戦略の世界では天才的な名将だけが使いこなせた難易度の高いものです。

具体的な例をあげると、桶狭間の戦いにおける織田信長の戦略がこれに当たるでしょう。

2010年7月15日木曜日

製品や市場のイノベーション

ドラッカーは製品や市場の性格を変えるイノベーションを4つあげています。


①効用創造戦略

顧客が本当に必要としているものを提供する戦略です。効用戦略はハイテクも特許も関係ありません。顧客のニーズに焦点を当てるだけです。


②価格戦略

価格設定に工夫を凝らすイノベーションです。
剃刀のジレットは、破格の安さの剃刀を販売し、「ひげをそる」というサービスを床屋から奪い取りました。また、ゼロックスはコピー機ではなく、「コピーをする」という行為に破格の安値がつくような価格戦略をとりました。


③顧客の現実に合わせる戦略

顧客が抱える問題点を機会ととらえる戦略です。割賦払いは高額な商品をすぐ入手できるようにするイノベーションでした。

④価値戦略

お客さんからみた価値を中心に既存の知識を組み替えます。そのものではなく、その価値を強調することで原材料からみて大きな価格をつけることができます。ブランド等も価値戦略の一環といえます。
化粧品等はイメージ戦略によって原材料の何十倍もの価格をつけることが可能になっています。
また単なる食材等も「健康食品」と視点を変えるだけで大いにお客さんにアピールできます。



ここらあたりのドラッカーの議論は細かく類型化されているのでわかりにくいところでもあります。

しかし、これらはマーケティングに関するイノベーションになります。




‥顧客にとっての効用、顧客にとっての価格、顧客にとっての事情、顧客にとっての価値からスタートすることはマーケティングのすべてである。

              『イノベーションと起業家精神』より

2010年7月14日水曜日

閑話休題-学会発表

私は会計研究者として定期的に学会発表をしています。

会計関連の学会では日本会計研究学会が規模も最大で影響力も大きいため、なるべくここの全国大会で発表するようにしています。

今度、2年ぶりに全国大会で発表することになりました。

ドラッカー経営とバランススコアカードを一体化させるためのアイディアをまとめたものを発表します。

タイトルは

バランススコアカードの戦略マップに関する一考察 (A study on a strategic map of BSC)


―Porter活動システム図及びDrucker経営戦略論との実務的統合に関する試論―


です。

何やら難しげな感じですが学会発表であるため、なかなか砕けた雰囲気にはなりません。


内容としてはこのブログでたびたびご紹介している当社の経営戦略実行プログラムを学問的に整理したというだけのものです。

ちなみに、今月20日に日刊工業新聞社から発売される『ISOマネジメント』8月号では、当社の実務的取り組み事例を紹介しています。


学会の全国大会は9月9、10、11日に東洋大学で開催されます。

写真は東洋大学の建物ですが、いまどきの大学はどこもきれいですね。 

2010年7月13日火曜日

ニッチを狙うイノベーション

ニッチを狙う戦略は現在では常識になっています。


ドラッカーは特に生態的ニッチという表現を使っています。

市場や業界には特有の構造があり、それをドラッカーは生態系としてとらえたわけです。

その生態系には自社が有利に入り込める隙があり、それを狙うのが生態的ニッチ戦略というわけです。

この戦略では、市場において『なくてはならない存在』を目指します。

ドラッカーはその3つの類型を紹介しています。


①関所戦略

市場において必ず通らなければならない場所を抑える戦略です。
例えばPCにおけるWindowsや、ポータルサイトとしてのGoogleなどがこの戦略をとっています。


②専門技術戦略

専門的技術を生かしてその市場の一部を支配する戦略です。新市場の初期の段階でユニークな技術を展開することがポイントです。またタイミングが重要であるとも言います。

イギリスで中流階級が勃興し、旅行がはやり出しましたが、彼らには貴族と違ってあれこれと旅行の段取りをしてくれる召使いがいませんでした。そこを狙って登場したのが旅行ガイドブックでした。


③専門市場戦略

市場に対する専門知識を活用する戦略です。

2010年7月12日月曜日

補足: 柔道戦略

柔道戦略について補足しておきます。

ドラッカーの提唱した柔道戦略は現在の経営理論においても重視されています。

いわば柔道戦略の発展形というべき経営理論を紹介したいと思います。

その代表例がクリステンセンの破壊的イノベーションとムーアのキャズムです。


1、クリステンセンの破壊的イノベーション

クリステンセンは機能は劣るが価格が安い技術を破壊的イノベーションと名付けました。
この破壊的イノベーションがあまり注目されない市場に導入されると、そのうち技術が洗練され、やがて主流市場を脅かすようになると主張しました。

このプロセスは柔道戦略と同じです。

2、ムーアのキャズム

ムーアはハイテク技術を普及させる戦略をキャズムと呼びました。
ムーアはハイテク技術は、まずニッチ市場でトップとなり、その後周辺市場を攻略するのが定石と主張しました。

敵の少ない市場に進出し、これをテコとして巨大市場を投げ飛ばす柔道戦略と同じ考え方です。


ドラッカーの柔道戦略は現在でも重要性を失っていません。

2010年7月11日日曜日

手薄なところを狙うイノベーション

手薄なところを狙うイノベーションには二つの戦略があります。


①創造的模倣戦略

これは著名なマーケティング研究者のセオドア・レビットの造語です。
先発商品を真似しながら、そこにさらなる価値を加えてより良い商品を市場に投入するという戦略です。
誰かの起こしたイノベーションを横取りするわけですが、効率の良さ、効果の大きさから有力な戦略となります。



②柔道戦略

この言葉はドラッカーの作ったものです。他の企業が相手にしない市場に参入する戦略です。
小さな市場で足がかりを作り、そこをテコにしてより大きな市場を投げ飛ばす戦略です。

この戦略が有効な理由は次のようなものです。
1、自分の発明以外は無視しがち
2、市場の良いところだけをとり、その他を無視する傾向
3、最高の品質を提供しているという自負心から、利用者との価値観のずれが見えなくなる
4、開発者利益に追求による価格の高止まり。低価格商品の思うつぼ。
5、昨日の極大化・複雑化による利用者の価値観とのかい離。


この二つはかつて日本のお家芸のような感じでした。しかし、現在ではこれは韓国・中国にお株を奪われそうになっています。

日本の携帯電話のガラパゴス化現象は、柔道戦略の理由の3と5がドンピシャと当てはまる気がします。

現在の柔道戦略のナンバーワンは韓国のサムスンでしょう。

2010年7月9日金曜日

イノベーション実現の手段と戦略

ドラッカーはイノベーションを実現するための注意点を4つのポイントで示しています。


1、機会に注目し徹底的に検討する

7つの機会に注目し、それらしいものをみつけたら有望性について検討します。

2、簡単にする

機会をとらえたら、それを複雑にとらえずシンプルに活用することを考えます。
焦点を絞り、やることを明確化し単純化することで成功の可能性が高まるといいます。

3、小さく始める

イノベーションは最初から大がかりに始めてはならないといいます。
小さく始めて成功の可能性に確信が持てるようになってから大きな手を打ちます。

4、トップを狙う

イノベーションはその分野のトップを目指さなければ意味がありません。
マーケティング理論には「一番手の法則」と呼ばれるものがあります。

企業はトップをとれる分野を探すべきであり、新規分野を開拓すればそれはトップになることと同じわけです。


さらにドラッカーはイノベーション実現のための戦略には4つの類型があるといいます。

①手薄なところを狙う

②ニッチを狙う

③製品や市場の性格を変える

④総力を集中し迅速であること

次回からこの4つの類型を検討していきます。

2010年7月8日木曜日

イノベーションについて⑥

予期せぬこと、ギャップ、ニーズ、構造の変化、人口の変化、認識の変化、新知識の獲得、
これら7つの機会のすべてを分析することが必要である。

油断なく気を配るだけでは十分ではない。分析が体系的に行われなければならない。
機会を体系的に探さなければならない。

                  『イノベーションと起業家精神』より


ドラッカーはイノベーションを実現するための第一段階を「すでに起きた未来を発見し、活用すること」であると述べています。

これは経済・社会の非連続的な変化をいち早く発見し、その影響がはっきりするまでの時間差を利用することです。

ちなみにドラッカーは、変化をいち早くとらえ、その変化を機会と考えて自らイノベーションを起こす人、つまり変化の先頭に立つ人をチェンジリーダーと呼んでいます。

上のドラッカーの言葉は、チェンジリーダーが体系的にイノベーションの機会をとらえるための7つの切り口を上げたものです。

この7つの切り口のうち、もっとも信頼できるものが予期せぬことなのです。

この予期せぬことは「強み」を発見する切り口でもあります。

私は特にこの予期せぬ出来事を重要視しています。

2010年7月7日水曜日

イノベーションについて⑤

イノベーションは、事業のあらゆる局面で行われる。
設計・製品・マーケティングのイノベーションがある。
価格や顧客サービスのイノベーションがある。
マネジメントの組織や手法のイノベーションがある。
起業家が新たなリスクを冒せるようにする新種の保険もイノベーションである。

                   『現代の経営』より


ドラッカーは企業が成果を生むたった二つの活動をマーケティングイノベーションとして位置付けています。

ところが、上の記述をみるとそのマーケティング自体がイノベーションの対象となっているわけです。

私はかなり長い間この二つの概念が並列するものなのか序列があるのか悩んでいました。

しかし、現在ではこの二つは切り口の違いであり、あえて言うならばマーケティングは短期的視点、イノベーションは長期的視点につながりやすいと考えています。

「強み」としてイノベーション能力が必須であるとドラッカーは定義していますが、マーケティング能力を「強み」として必須のものと上げていないところからそう考えたわけです。

2010年7月6日火曜日

イノベーションについて④

イノベーションとは、理論的な分析であるとともに知覚的な認識である。
イノベーションを行うに当たっては、外に出、見、問い、聞かねばならない。


               『イノベーションと起業家精神』より


イノベーションを行うことは体系的な活動ですが、知覚という人間らしい部分も駆使しなければならないというのがドラッカーの主張です。

知覚を磨くことは必要不可欠で、そのために外に出かけて積極的に働きかけなければならないといいます。

外部に出かけてアクションを起こさない者がイノベーションを起こすことはないわけです。

知覚を磨くというの微細な点を見落とさないことであると思います。

他人が気がつかぬ微細な点に気づくものはいち早くイノベーションを起こすことができるでしょう。

2010年7月5日月曜日

イノベーションについて③

既存事業の戦略では、現在の製品・サービス・市場・流通チャネル・技術・工程は継続すべきものと仮定する。
イノベーションの戦略では、既存のものはすべて陳腐化すると仮定する。

                     『マネジメント』より



これがすべての企業にイノベーションが必要とされる根本的な理由です。

何も変わらなければどれほど強い企業もいずれ淘汰されてしまうわけです。

ですから、あらゆる企業にはイノベーションが不可欠であり、イノベーション能力の高い企業のみが成長することができるとドラッカーは仮定しています。

ドラッカーのイノベーション論のポイントは、イノベーションをやるかやらないかではなく、どのようにやるか、どれぐらい大きなイノベーションを生み出せるかということになるわけです。

多くの企業、特に成功している企業は、ついつい現状を肯定しがちになります。

これは人間の弱さであり、その結果は好ましいものとはならないということです。

2010年7月4日日曜日

イノベーションについて②

イノベーションとは起業家に特有の道具であり、変化を機会として利用するための手段である。
それは体系としてまとめ、学び、実践できるものである。

                『イノベーションと起業家精神』より



すべての企業が強みとしてのイノベーション能力が必要とドラッカーは述べています。

すると、すべての企業は「起業家的」でなければならないわけです。

そして、起業家的活動であるイノベーションは、体系的であり、学習可能で、実践可能なものであるというのがドラッカーの主張です。

誰でもできるから、やらねばならないわけです。

2010年7月3日土曜日

イノベーションについて①

イノベーションは市場に焦点を合わせなければならない。
製品に焦点を合わせたイノベーションは新奇な技術は生むかもしれないが、成果は失望すべきものとなる。
             『マネジメント』より


ドラッカーの経営理論はすべて組織・ビジネスパーソンが成果を上げることに結び付けて体系化されています。

ですから、ドラッカーのイノベーション論も組織の成果との関係性で考えなければなりません。

イノベーションが市場に焦点を合わせるのは、そこに成果があるからです。

これにたいして製品に焦点を合わせたイノベーションはプロダクト・アウトといって、自己満足的な革新に終わり、成果に結び付かない場合が多いのです。


既存事業についての戦略の指針が、よりよく、より多く、であるとすれば、イノベーションについての戦略の指針は、より新しく、より違ったもの、でなければならない。

                      『マネジメント』より

イノベーションは市場に対して新しい満足を提供することです。

より新しく、より違ったもの、という基準がイノベーションを支配する原理です。

2010年7月2日金曜日

シュンペーターのイノベーション論

ドラッカー理論においてイノベーションは重要な概念です。

しかし、イノベーションについて初めて体系的な理論を提示したのは経済学者のシュンペーターです。
まず、ドラッカーのイノベーション論の前にシュンペーターの考えを整理しておきたいと思います。

シュンペーターは1912年に発表した『経済発展の理論』の中で、イノベーション(経済的革新)について触れています。
彼のイノベーション論はその後のあらゆるイノベーション論の基礎となっています。


シュンペーターはイノベーション(経済的革新)は消費者から起きるのではなく、生産者側が新しいニーズを創造することによって生まれるのだと主張しました。

そのイノベーションとは、利用可能なさまざまな物や力を結合することで生み出すことができるというのです。それを新結合といいます。

新結合の結果生まれるものとして ①新しい財貨 ②新しい生産方法 ③新しい販路 ④新しい供給源 ⑤新しい組織 などがあげられています。

新結合の結果、経済的な発展や革新が非連続的に実現されるというわけです。

発展や革新は連続的には起きないというところがポイントです。

こうした非連続的発展は常に古いものを破壊していくことで生まれると考えます。それを創造的破壊といいます。

この創造的破壊は現在でも非常によくつかわれている考え方です。

余談ですが、ドラッカー家はオーストリアの名門で、ドラッカーがまだ子供のころにシュンペーターがドラッカーのお父さんと親しく、家にもよく来ていたそうです。

ドラッカーのイノベーション理論の基礎にはシュンペーターのイノベーション理論があります。

2010年7月1日木曜日

「強み」について⑤

強みは企業によって異なる。
それはいわば個性である。しかし、あらゆる企業、あらゆる組織が持つべき共通の強みがある。
イノベーションの能力である。
     
             『未来への決断』より


強みは個性的なものなので、他社との違い、差別化といった概念になじみます。

しかし、ドラッカーはイノベーション能力が企業に必須の強みであるといいます。

このイノベーションはドラッカーの主要なコンセプトです。

ドラッカーは組織の成果は外部にしか存在せず、しかもそれはマーケティングイノベーションによって生み出されるといいます。

このマーケティングとイノベーションは組織の2大機能であり、そこに強みがなければ組織として成果を上げることができないわけです。

そこで、次回からイノベーションについて考えたいと思います。