2011年8月26日金曜日

戦略計画は必要

『マネジメント』の記述です。



未来を考え、長期と短期をバランスさせる必要がある。

‥未来は望めばその通りに起こるわけではない。未来を築くには今決定を行わなければならない。

今、リスクを負わなければならない。今、行動しなければならない。


今日のトレンドを単純に引き延ばし、今日の製品、サービス、市場、技術がそのまま明日のそれであると仮定し、資源とエネルギーを昨日の防衛に使うようなことがあってはならない。

‥したがってわれわれが必要としているものは単なる長期計画ではない。戦略的な意思決定、あるいは戦略計画である。




長期計画と戦略計画の違いは、未来が現在の延長上にはないという明確な認識の差であるようです。

経済環境が不確実であるほど、長期計画ではなく、リスクを伴う意思決定である戦略計画が必要であるということだと思います。


(浅沼 宏和)

2011年8月25日木曜日

戦略計画という言葉の意味

ドラッカーの使う言葉には、似たような言葉との意味の違いが分かりにくい者がたくさんあります。

その一つが「戦略計画」という言葉です。

実質的な意味としては計画として立案された経営戦略のことですが、ドラッカーがこの用語を長期計画・短期計画というものとの対比から使っています。



今日、長期計画は誤解されている。短期の計画にも戦略は必要である。


この言葉は、短期計画が長期計画を細分化したものではないという意味です。

長期と短期はそれぞれ別の視点から検討されるべきものであり、その結果が戦略計画において統合されなければならないというのがドラッカーの考え方です。

ですから、戦略計画は長期と短期のバランスを取るというリスクを伴う意思決定になるわけです。

つまり、良く見受けられるような金融機関に提出する中期経営計画書やISOの目的・目標は戦略計画ではない場合が多いということです。


(浅沼 宏和)

2011年8月24日水曜日

意図せざる戦略を意図的に作れるか?

前回のミンツバーグの戦略論の続きです。

ミンツバーグの事後的な戦略論(創発戦略論)については批判があります。

そもそも意図せざる戦略を創りだそうとすることは意図的であるから自己矛盾ではないのか、ということです。

たまたまうまくいった話を後付けで説明しているだけであるのがミンツバーグの戦略論なのではないかということです。

この批判についてはドラッカーの理論で反論が可能です。


ドラッカーは、強みというものは最初から持っているわけではないと言っています。

可能な限りのうち手を数多く打っていく中で、思わぬ成功がおきることがあります。ドラッカーはこれを「予期せぬ成功」と呼びます。

この「予期せぬ成功」を突き詰めていくことが、これまで思いもしなかった新たな価値創出へとつながるというわけです。

つまり、 ①数多い打ち手 ⇒②予期せぬ成功 ⇒③予期せぬ成功の深掘り・さらなる打ち手 ⇒④パターンとして出来上がった事後的戦略(ミンツバーグ的戦略)

といえるのではないかと思います。

ポーターの競争戦略論とミンツバーグの創発戦略論という全く対極にある戦略論を包み込む大きさのあるドラッカー理論はやはりすごいと思います。


(浅沼 宏和)

ミンツバーグの意図せざる戦略

現在、いろいろな戦略論を整理しているので、ミンツバーグの戦略論を簡単に書きます。


ミンツバーグは、戦略とは試行錯誤を繰り返しながら、意図せざる形に形成されるものととらえました。

一般的な経営戦略のイメージが事前に詳細に検討して立案するものであるのに対し、ミンツバーグは事後的な戦略論というものを思いついたわけです。

80年代には、ミンツバーグは競争戦略論の大御所であるマイケル・ポーターと激しい論争を繰り返したという経緯があります。

二人の意見は正反対なものなのですが、ドラッカーはこの二人の戦略論のどちらも含まれてしまうほど大きな器の戦略論の持ち主です。

ということで、ミンツバーグの戦略論の事例を紹介します。


1960年代の米国の二輪車輸入市場はホンダが大変な勢いであった。輸入市場のシェアの6割を占めるほどであった。
ライバル社は、ホンダが中産階級にターゲットを絞って小型オートバイを販売する戦略をとったと考えていたが、実際に調査してみると事情が違っていた。

ホンダが米国市場で販売したかったのは当時米国で主流であった大型オートバイであった。
しかし、ホンダの大型バイクは全く売れないので困っていた。
そんな中、ホンダの社員が自分たちの足代わりに使っていた50ccのスーパーカブが、ロサンゼルスの街中で話題になっていた。

それに注目したスーパーマーケットのシアーズのバイヤーが、「スーパーカブを扱いたい」というオファーをホンダに出したのである。

ホンダ側は当初は「50ccを売ることは自分たちのイメージを損なう」として、当初は拒否していた。
しかし、シアーズの熱心な誘いに負けて、仕方なく50ccを販売することになった。
それがホンダ躍進の足がかりとなったというのが真相である。


まさに、瓢箪から駒というやつです。

このエピソードは米国ではとくに有名で、主要なMBAではケース・スタディとして教えているそうです。

これが事後的な戦略というものです。

ドラッカーはこうした出来事を「予期せぬ成功」といっています。

予期せぬ成功こそイノベーションの種であり、新たな強みや卓越性のもととなるものなのです。


(浅沼 宏和)

2011年8月23日火曜日

事業の目標

『マネジメント』の記述です。


事業の目的とミッションについての定義は、目標として具体化しなければならない。


そのうえで、目標について次のように説明しています。

① 目標はミッションを実現するための決意であり、成果を評価するための基準である。

② 目標とは行動のためのものである。

③ 目標とは、資源と行動の集中を可能にするものである。

④ 目標とは一つではなく複数のものである。

⑤ 目標とは、事業の成否にかかわる領域すべてについて必要である。


ドラッカーは、目標の内容は事業によって異なるというものの、目標を設定すべき領域はあらゆる事業に共通すると考えていました。

事業の成否を左右する要素は、どんな組織であっても同じだからです。

そこから私は戦略シートの構想を考え付いたわけです。


(浅沼 宏和)

体系的廃棄

ドラッカーは事業の定義に当たり、体系的廃棄を行うことを重視しています。経営資源に限りがありますので、ムダな資源投入を止めて、新たな取り組みに振り向けるステップということです。

『マネジメント』に次の記載があります。


新事業への参入の開始と同じように重要なこととして、事業の目的とミッションに合わなくなったもの、顧客に満足を与えなくなったもの、業績に貢献しなくなったものの体系的な廃棄がある。

「われわれの事業は何か。何になるか。何であるべきか。」を決定するうえで不可欠のステップとなるものが、既存の製品、サービス、プロセス、市場、最終用途、流通チャネルの分析である。



多くの場合、既存事業の分析を十分に行わないままに新規事業を行ってしまい、そのため資源の分散投入によっていずれも成果を得られないという結果になりがちです。

新規事業への取り組みと体系的廃棄はセットで考えるべきなのです。

ドラッカーによると、体系的廃棄の概念は1964年の「創造する経営者」で初めて紹介され、最初に実行した企業がGEであるとのことです。


(浅沼 宏和)

2011年8月22日月曜日

閑話休題-その場しのぎの対処法

YAHOOの記事に「誰もが陥っている“その場しのぎ症候群”の処方箋」という面白い記事が出ていました。

カリフォルニア大のR.Dボーン教授の学説に基づいて解説してるのですが、おおむね次のような話です。

1、次の項目のうち3つ以上に該当すると「その場しのぎ症候群」であるといえる。

① すべての問題を解決する時間がない
② おざなりの解決をしている
③ 問題が再発し、エスカレートしている
④ 問題の重要性よりも緊急性を優先している
⑤ 小事が大事に発展している
⑥ パフォーマンスが下がる

結構思い当たることがありますね。
それらの原因が以下のようなものであるといいます。


2、「その場しのぎ症候群」の原因

① 「その場しのぎ」でむしろ充実感を味わっており、「これで良い」との認識に陥っている
② 「その場しのぎ」が習い癖になってしまい、上司が部下に任せている中小問題に口を出す
③ 時間に追われ過ぎて、根本対策を考え実行する発想が頭から消えている。
④ 何より大きいのは「その場しのぎ」が社内的に承認されている。

3、その対策

① 問題の優先順位をつける
② 問題をグルーピングして、まとめて根本的に解決する
③ 「その場しのぎ」の行動に褒賞を与えない
④ 何が何でも「その場しのぎ症候群」を根絶するという強い意志をもつ


この説明を眺めてみるとドラッカーの意思決定論そのままであることが分かります。

ドラッカーは、多くの問題の表面的な違いにとらわれることなく、それらの根底に共通している根本的な問題に焦点を当てて解決することの必要性を指摘しています。

ですから意思決定の数は絞りに絞られるべきものであり、決定のための基準・原則を打ち立て、それに基づいて個別の問題を処理していくということを述べています。

つまり、「その場しのぎ」をしないことを求めていると言えるのです。


今回の記事を読むと、ドラッカーの意思決定論はいまだに基本原則として使えることを再認識できます。


(浅沼 宏和)

事業の定義の寿命

『マネジメント』の記述です。


事業の目的とミッションにかかわる定義のうち、50年どころか30年さえ有効なものはない。

せいぜい10年が限度である。

したがってマネジメントたる者は、「われわれの事業は何か」を問う時、

「われわれの事業は何になるか。われわれの事業のもつ目的・ミッション・性格に影響を与える可能性のある経営環境の変化は認められるか」

「事業の定義、すなわち事業の目的・戦略・仕事の中に、それら経営環境の変化を現時点でいかに組み込むか」

についても考えなければならない。


といっています。

これが現時点での戦略としてのマーケティング、事業の定義の変更の必要性としてのイノベーションという2大機能を生み出す基本的事情であると思います。


(浅沼 宏和)

2011年8月21日日曜日

顧客の価値

『マネジメント』の記述です。


顧客にとっての価値は、あまりに多様であって、顧客にしか答えられない。

したがって、答えを推察してはならない。 じかに聞かなければならない。

しかし、顧客にとっての価値から、事業の目的とミッションが自動的に明らかになるわけではない。


‥‥事業を決めるものは、世の中への貢献である。

貢献以外のものは成果ではない。 顧客が支払うものが収入である。 他のものはコストにすぎない。

外の世界、つまり市場から考えることが第一歩である。



これはドラッカーが最も重視する、事業の定義についての注意事項です。

このシンプルな問いの答えを導き出すこと自体がリスクを伴う意思決定になります。



(浅沼 宏和)


事業の定義の陳腐化

『マネジメント』の記述です。

成功は常に、その成功をもたらした行動を陳腐化する。 新しい現実をつくりだす。 新しい問題を作り出す。

「そうして幸せに暮らしました」で終わるのは、おとぎ話だけである。


‥‥しかし、成功しているときに自らの事業を問わないマネジメントは、つまりところ傲慢であって、怠慢である。成功が失意に終わる日は近い。


‥‥マネジメントたる者は、当初目標としていたものが達成された時こそ、「われわれの事業は何か」を問わなければならない。

それがマネジメントの責任というものである。

この責任を無視するならば転落あるのみである。



ドラッカーは、成功した人はついおごりがちになり、足元に忍び寄る危機に気がつかないと指摘しています。

これは人間の心理からしていた仕方のない部分です。

しかし、わが国には幸いなことに「驕る平家は久しからず」という誰もが知る教訓があります。

古い昔よりドラッカー的な教訓があるのですから生かさなければいけませんね。


(浅沼宏和)

2011年8月20日土曜日

事業は何か

ドラッカーが企業のマネジメントに置いて最も重視していることは事業の定義です。

『マネジメント』の中で、その具体例として、AT&Tの事業の定義の決定の背景を説明しています。

1910年前後のAT&Tの経営者であったセオドア・ヴェイルは、自社の事業の定義を「サービスである」と決定しました。

これだけでは、意味が分かりにくいので、もう少し詳しい定義に書き直します。


電話事業は地域独占事業であるため、公営事業化されやすい。
また、先進国では民営であることが例外的であった。
アメリカの電話事業会社として民営企業のままでいるためには、世論の支持が不可欠である。
世論の支持は、AT&Tを公営事業化する意見の持ち主を批判するだけでは得られない。
つまり、世論の支持には顧客満足が必要なのだ。
であるから、当社の事業はサービスでなければならない。

というものです。

こうした定義の仕方は時代を経ても通用するものです。


(浅沼 宏和)

2011年8月17日水曜日

目標管理と自己管理

ドラッカーは『マネジメント』の中で、目標管理の注意事項について述べています。


マネジャーが自分の業績を管理するためには、目標を心得ておくだけでは十分とは言えない。
目標と比較しながら、活動ぶりや成果を測定できなければいけないのだ。
事業の主要分野すべてに共通する明快な尺度をマネジャーたちに提供することを慣習として定着させるべきである。

尺度は厳密な意味で定量的である必要はなく、正確である必要もない。
ただし、シンプルでわかりやすく、理にかなっていなくてはならない。
測定にふさわしく、注意や努力をあるべき方向へと導くものでなくてはいけない。



私はこれについて、打ち手の数と得られた成果を数えるというやり方を模索しています。


たとえば顧客に対して主体的な働き方を行う、相談・頼まれごと等を受ける、予期せぬよいことが起きる、商談が成立する等の事実を数えるのです。

私の場合には、これらに★をつけることをルール化し、上がった成果・効果の大きさに応じて星一つから三ツ星までランク分けをするといったやり方をしています。


すると、「今月は★22個、★★5個、★★★2個だった」というように成果を可視化できるわけです。

星のつけ方について少し具体的なルールを作ればどのような組織であっても使えるのではないかと思っています。

これは非常に簡便なやり方ですが、わかりやすく効果的であると思います。

組織で導入しなくてもビジネスパーソンが成果を自己管理をするにはこれで十分です。


組織が目標管理制度を導入する場合、複雑なやり方ですと覚えるのに大変で、運用で挫折するような気がします。

私はどのような組織であってもこうしたシンプルなやり方の延長上で考えて、それぞれの組織に合った形でカスタマイズすることがよいと思っています。



(浅沼 宏和)

マネジャーの目標設定の具体例

ドラッカーは『マネジメント』の中で、マネジャーの目標設定の正しいやり方の事例を説明しています。


‥‥各マネジャーがまず上司と自分の職務上の目標を自分なりの理解に従ってしたためる。
次に、自分の課せられた業績基準を書く。
つづいて、目標を達成するためになすべき事柄を列挙する。
あわせて、部門内の主要な障壁も書きだす。

上司や会社の行いの中から、自分の助けになっていることがら、足を引っ張っている事柄を、それぞれあげる。
最後に、目標を達成するために次年度は何をするかを提案する。

上司の承認が得られると、この「マネジャーの手紙」は、書いた本人にとっての業務上の憲章となる。


シンプルですが目標管理制度の骨子を良く伝えているやり方であると思います。



(浅沼 宏和)

2011年8月16日火曜日

マネジャーの目標の決め方

ドラッカーの『マネジメント』の記述です。


‥目標を承認するかどうかの権限は、より上位のマネジメント層がもつのが筋である。
だが、目標の設定そのものはマネジャーの責任範囲に含まれる。というよりマネジャーの第一の責任である。
つまりマネジャーは、上位の組織の目標設定にかかわる責任をも担っているのだ。


‥マネジャーであるとは、責任を負うことを意味する。
マネジャーの目標は、上司や自分が何を望んでいるかではなく、事業の客観的な要請を映し出しているべきだ。


‥事業の究極的な目標は何か、自分には何がどのような理由で期待されているか、どのような尺度と方法で成果が得られるのかを知り、理解しなくてはならない。



ドラッカーの考えるマネジャーは自分の役割について自分の頭で考え抜く人のことです。

優秀なサッカー選手のようなイメージでしょうか。


(浅沼 宏和)

マネジャーが目標とすべきもの

マネジャーの目標設定に関するドラッカーの記述です。


「お偉方」から、生産現場の職長や事務長に至るまで、マネジャーはみな明確な目標を持たなくてはならない。
さもなければ、混乱が生じるのは目に見えている。
目標には、配下のチームがどのような業績を目指すかも、盛り込むべきである。


‥つまり、初めからチームの成果とチームワークに重点を置くべきなのだ。

目標は常に、会社のゴールをもとに決めなければならない。

‥マネジャーはみな、すべての事業分野における会社の目標達成を支えるために、自分がどれだけ貢献するかを明確に示すべきである。




ドラッカーの目標による管理の基本的な考え方です。

ドラッカーはガチガチな制度ではなく、制度の不備を各人の貢献意識で補うような考え方を持っているように思われます。

それがよかったのかどうかは組織の成果によって判断できるということです。



(浅沼 宏和)

報酬体系について

ドラッカーの『マネジメント』から賃金体系の考え方について抜き書きします。


どのような報酬体系においても、金銭は決してガラス張りではなく、繊細な価値観や性質をあらわす。
このため、本当の意味でシンプルで合理的な報酬体系などあり得ないのだ。‥






‥「科学に根差した方程式」を持ち込もうとしても完璧な成果は期待できない。






最善の報酬プランといえども、組織をまとめ上げる一方で分裂の芽を生み、方向付けをする一方で誤った方向へもそれる。
そして正しい行動だけではなく、望ましくない行動をも引き起こすのだ。‥






複雑な体系とシンプルな体系とでは、後者を選ぶべきである。
お仕着せの方程式を一律に当てはめるよりも、裁量の余地を残し、各人の職務内容に会った報酬を支払うべきである。



これがドラッカーの賃金体系の考え方です。

これに反して複雑で計算式を多く用いるような人事制度、報酬制度を導入されている例が多くありますが、運用のためのコストは多くなる一方で、それに見合ったメリットがあるかというと疑問が残ります。

人の作る制度には限界があるということを忘れず、適切な運用によって求める姿を実現することが大切であると思われます。



(浅沼 宏和)

2011年8月10日水曜日

◆拙著刊行のお知らせ

8月5日に拙著が刊行されました。


『ドラッカーが教えてくれた経営戦略シート』


浅沼宏和 著/中経出版

定価 1,500円+税



この本の目玉は事例が豊富であることです。

私が開発した経営戦略作成シートに書き込む形で各社の経営戦略を分析しました。

有名企業5社

1、ユニクロ(ファーストリテイリング)
2、青山フラワーマーケット
3、ガリバーインターナショナル
4、シマノ
5、オイシックス


中小企業5社

1、ゴトー理研
2、クリエイティブシステム
3、エコム
4、大和製作所
5、島田工業


中小企業は社員数15~40名程度の本当に身近な規模の企業ばかりです。

大手企業であろうと中小零細企業であろうと同じフォーマットで経営戦略を語れるところが特徴です。



(浅沼宏和)

2011年8月4日木曜日

ポーター 「トレードオフ」

ポーターの戦略論とドラッカーの類似点を示す部分をもう少し説明します。


戦略においては、何をするかという選択と同じくらい、何をしないかという選択が重要になってくる。

‥どの顧客グループをターゲットとし、どの製品種類やニーズに対応するかという決定は、戦略策定の基本である。

しかし、それと同様に、どの顧客やニーズを無視するのか、どの仕様やサービスを提供しないのかという意思決定も重要である。



ドラッカーの場合、戦略の要素の一つとして「集中」をあげています。集中とは一つを選び、残りを選ばないことを明確にすることです。

これはポーターの言うトレードオフに他なりません。


トレードオフとは両立できない二つの選択肢の一つを選ぶことであり、これこそが戦略であるというのがポーターの主張です。



(浅沼 宏和)

2011年8月3日水曜日

ポーター 「リーダーの役割」

ポーターは戦略におけるリーダーの役割について次のように述べています。

‥積極的に選択を行う意思を持った強力なリーダーが不可欠である。

‥多くの企業では、リーダーシップは単にオペレーションの改善や取引を調整するだけの存在になり下がっている。


‥企業経営とは、個々の機能の行司役を務めることではない。その中核には戦略がある。

自社の独自のポジションを定義・伝達し、トレードオフを行い、活動相互のフィットを育てるのが経営である。



ドラッカーはリーダーシップとはカリスマ性の問題ではなく具体的な「仕事」であるといっています。

そしてリーダーは組織・チームの進むべき方向を示し、各人の役割を定め、責任を負わせ、成果をあげさせる者としてとらえていました。

上記のポーターのリーダー論はドラッカーの理論と矛盾していません。

ポーターの競争戦略論は他社の裏をかいてうまいことをやるようなイメージでとらえる人もいます。

しかし、一つ一つの活動を丁寧に積み上げて独特のフィットを生み出そうとするポーターの戦略論は結構正攻法について書いてあると思います。



(浅沼 宏和)

2011年8月2日火曜日

ポーター「競争の二つの意味」

ポーターの関心は企業同士の競争にありました。

どのように競争するかが戦略であるというのが基本的な考え方です。


ポーターの初期の著作では業界内で独特のポジションをとることで競争を避けることの大切さが強調されていました。

後期の著作では企業経営における立地の重要性を指摘し、互いに競争することでレベルが上がることが強調されていました。


つまりポーターは一方では競争を避けるべきものと説明し、他方では競争によってレベルが上がるともいっているのです。


たとえるならば次のような意味であると思われます。


サッカーや野球などの人気スポーツは競技人口が多いため、お互いの切磋琢磨によって全体のレベルが引き上げられます。

これがポーターの後期の意味での競争の本質であり、好ましい競争であるわけです。



また、プロ選手となった人たちはトップ・レベルでの競争において自身の価値を認めてもらうために他の選手とは違う独特の強みを磨き、なくてはならない選手になろうとします。

これが初期の意味での競争です。


このように考えるとポーターの競争の定義は整合性を持って説明されると思われます。



(浅沼宏和)