2011年4月29日金曜日

マーシャル将軍の人事

第二次大戦でアメリカ軍の参謀総長だったマーシャル将軍は、強みを生かした人事でアメリカを勝利に導きました。

マーシャルが1939年に参謀総長に就任したときには、第一線で戦える水準の将軍は1人もいなかったそうです。

あのアイゼンハワーですら、将来性が不明なただの少佐にすぎませんでした。

しかし、マーシャルは1942年の時点でアメリカ陸軍史上最多の将軍を手に入れていました。

不適格者はゼロ、二流の将軍ですらごくわずかでした。

ドラッカーによるとマーシャルは原則による人事を行ったということです。


‥たとえばマーシャルは、何度もジョージ・パットンをかばった。

パットンという野心的で自信満々の有能な戦時用の将軍が、平常時に幕僚の資質を欠くことによって不利をこうむらないようにした。

しかしマーシャル自身はパットンのような派手な軍人スタイルを嫌っていた。

                      『経営者の条件』より


前に、南北戦争の際のリンカーンやリー将軍のエピソードを取り上げましたが、同じ流れのものです。

強みを生かすには弱みに目をつぶるということです。

しかし、それである以上は成果には一層こだわる必要があります。


マーシャルは人事は賭けであることを知っていた。

しかし、何ができるかを中心に人事を行うことによって少なくとも合理的な賭けにすることはできるとしていた。

                『経営者の条件』より

どれほど事前に強みを理解していたつもりでも、実際に仕事につけてみなければ成果をあげられるのかはわからないのです。

しかし、強みを意識することでその賭けに合理性が与えられるということです。

行き当たりばったりとは対極の人事です。



(浅沼 宏和)

2011年4月28日木曜日

強みを生かす-本当の意味は?

まず強みからスタートしなければならない。すなわち自らのできることの生産性をあげなければならない。


                       『経営者の条件』より


これがドラッカーの強みを生かすという考え方ですが、この強みについてどうしても誤解が生まれやすいようです。

強みを生かすとは既に存在している強みを探すという意味もありますが、積極的に行動していく中で強みを見つける、もしくは作り上げていくということのほうがより重要であるということです。

この点については多くの人が誤解しているように思われます。


企業、政府機関、病院で働くエグゼクティブの多くは、自分にさせてもらえないことについてはよく知っている。

彼らは上司がさせてくれないことや、企業の方針がさせてくれないことや、政府がさせてくれないことについて気にし過ぎる。

その結果、彼らはさせてもらえないことについてこぼすことによって、自らの時間と強みを無駄にしている。

                      『経営者の条件』より


成果をあげるビジネスパーソンは言われる前に自分で動くものなのです。

帝国ホテルの伝説の名シェフ村上信夫総料理長は、小学校を出て帝国ホテルに入社した直後の3年間は皿や鍋等の洗いものしかさせてもらえなかったそうです。

多くの同僚は仕事に嫌気がさしてやめてしまったそうですが、村上氏は「日本一の鍋磨きになろう」と決心し、毎日、鍋がピカピカになるまで全力で磨き続けたそうです。

その結果、厳しい諸先輩たちが村上氏を認めて、徐々に重要な仕事を与えられていったということです。

私はこの村上シェフのエピソードがドラッカーの強み論を非常によくあらわしていると思っているのでよく引用しています。




(浅沼 宏和)

2011年4月27日水曜日

閑話休題-ドラッカー学会会報に寄稿

私は昨年秋からドラッカー学会の会員になっています。

これはドラッカーの翻訳で有名な上田惇生先生を会長に迎え、ドラッカーを信奉する研究者・企業人・実務家など多数が参加している組織です。

けっこう有名な人や経営者等も参加しているので通常の学会より規模も大きいようです。

今回、学会の会報(といっても実質的に論文誌)に私が書いた論文を掲載させていただきました。

タイトルは


ドラッカーの経営戦略論にもとづいた新たな戦略マップの提案

(英題):A proposal of new strategic map based on the theory of Drucker's management strategy


です。

これは昨年日本会計研究学会の全国大会で発表したレジュメを論文に起こしたもので、締め切りに気付いてから実質5日で仕上げました。

なにせ短期間でまとめたので書いているときは不満足でしたが、レイアウトをきれいにしていただいたせいでとてもレベルが高く見えるようになりました。

ドラッカー学会の影響力のおかげで、会報が送り届けられた翌日にはこのブログのアクセス数が激増しました。


この論文でも例によって浅沼式のドラッカー戦略マップを紹介しています。

現在、このマップを実務で使っているのですが、とても使い勝手が良いので出版社に企画を持ち込んでいるところです。

私はこの戦略マップを活用し、洗練させながらドラッカー戦略の実践フレームワークを構築しようと試行錯誤しています。

出版の暁にはまたご紹介したいと思います。



(浅沼 宏和)

2011年4月26日火曜日

古代ローマの野獣の原則

故意であろうとなかろうと、自らが社会に与える影響については責任がある。

これが原則である。

組織が社会に与える影響には、いかなる疑いの余地もなく、その組織の経営者に責任がある。

                   『マネジメント』より


東電問題でトピックになった社会的責任論です。

どれほど大きな話であっても根っこはシンプルです。



自らが与える影響について責任を取るべきことは、太古からの法的原則である。

自らの過ちによるものか、怠慢によるものかは関係ない。

この原則を明らかにしたローマの法律家たちは、これを野獣の原則と名付けた。

ライオンが檻から出れば、責任は飼い主にある。

不注意によって檻が開いたのか、地震で鍵が外れたのかは関係ない。

ライオンが凶暴であることは避けられない。

              『新しい現実』より



原発が「凶暴」であることは避けられませんから、「万が一」でも事故が起きてはならないわけです。

起きた以上は責任をすべて取るということが原則です。


原発問題は80年代から大きな議論が続いてきましたが、ここ10数年は原発推進派が優勢でした。

しかし、野獣の原則から言えば事故が現実に起きた以上、結果責任を負わねばなりません。



(浅沼 宏和)

2011年4月25日月曜日

仕事は大きく設計する

‥もっとも単純な仕事でさえ、要求するものは必ず変化していく。

しかも突然変化していく。

そのため仕事と人の完全な適合は急速に不適合へと変わる。

したがって、仕事はそもそものはじめから大きくかつ多くを要求するものとして設計した場合においてのみ、変化した状況の新しい要求に応えていくことができる。

                          『経営者の条件』より


以前、三人の石工の例をあげました。

三人の石工の中で、最も大きな成果をあげるのは「大聖堂を建てる」ことを目的としている石工です。

彼は目的に照らし合わせ、仕事を取り巻く状況変化に対応します。

他方、それで食べているだけの石工や、石積み仕事のレベルをマニアックに追求している石工は状況変化に対応できない可能性があります。

単純な仕事も顧客との関係で大きなものにとらえる必要があります。

仕事の裏に潜む大きな目的は何なのかを意識するように構築する必要があるのです。



(浅沼 宏和)

2011年4月23日土曜日

情実となれ合い

人に合わせて仕事を構築するならば、組織は情実となれ合いに向かう。

しかし、情実やなれ合いの余裕はない。

組織は公平さと非属人的な公正さを必要とする。

                   『経営者の条件』より



組織の多様性の別の側面です。

仕事が客観的に構築することで、そこに不明朗な点を介入させないということです。


ただし、ドラッカーは人に仕事を合わせることを例外的に認めています。

その場合であっても


‥しかし、これらは例外である。
 
尋常ならざる卓越した能力をもって行う例外的な能力の人についてだけ認められるものである。


                       『経営者の条件』より


異能の人を遇するにはそれなりの異例の態勢が必要であろうということです。

「異能」とは、大きな成果を上げる能力であり、かつ、その人しか持ち合わせていないというレベルのものです。

たいていはそうではないので、仕事を中心に据えるわけです。



(浅沼 宏和)

2011年4月22日金曜日

組織の多様性

オーケストラの指揮者は、オーボエ奏者がいかに優れた音楽家であろうとも、第一チェロの欠員の補充として採用したりしない。

あるいは、指揮者は1人の音楽家を受け入れるために楽譜を書き直したりしない。

                          『経営者の条件』より



人ではなくて仕事からスタートするというのがドラッカーの考えです。

それぞれの人はその分野においてプロであることが前提です。

自分の役割責任範囲内において上司より専門性がなければビジネスパーソンとして失格です。

各楽器パートの人が指揮者より演奏がうまいのは当たり前ですが、ビジネスシーンでは意外とこれが忘れられてしまっています。

ビジネスパーソンとしての自立したうえで、組織共通の目標(楽譜)に向かって取り組むわけです。




‥仕事を客観的かつ非属人的に構築しなければならないということには、もうひとついわく言い難い理由がある。

すなわちそれこそが組織が多様な人間を確保する唯一の道だからである。

人の気質や個性の違いを認め、かつ助長する唯一の方法だからである。

組織における多様性を確保するには人間関係を人ではなく仕事を中心に構築しなければならない。

                          『経営者の条件』より


こうした組織論を前提にして、自分自身の目標を自分で立てて管理させるというのがドラッカー流の目標管理です。


(浅沼 宏和)

2011年4月21日木曜日

真に厳しい上司

真に厳しい上司、すなわち一流の人をつくる上司は、部下がよくできるはずのことから考え、次にその部下が本当にそれを行うことを要求する。

                            『経営者の条件』より


これは強みを生かすことの具体的中身です。

強みについて「得意なこと」といった程度に漠然ととらえられがちです。

しかし、ドラッカーは強みを生かすことについて厳しい基準を設けています。


強みを生かすということは成果を要求することである。


この場合の成果とは「抜きんでた大きな成果」のことです。

強みを生かすとは、仕事の結果として他の人を寄せ付けないレベルの成果を要求するということです。

だからこそ、「一流の人」とわざわざ断り書きが入っているのです。


この基準からいえば強みを生かしている人は実に少ないことになるわけです。



(浅沼 宏和)


                

2011年4月20日水曜日

欠くことができない人

ドラッカーは人事についておもしろいことをいっています。

「手放せない。いなくては困る」という声に耳を貸してはならない。

ある人が「欠くことができない」という理由は三つしかありえない。

第一に、その者が実際には無能であり、かばってやる必要がある場合である。

第二に、弱い上司を支えるためにその者の強みを使っている場合である。

第三に、重要な問題を隠すため、あるいは取り組みを遅らせるためにその者の強みを使っている場合である。

いずれの場合であっても、「欠くことができない」といわれる者は、なんとしてでもただちに移動させるべきである。

さもなければその者の強みを壊してしまう。

                               『経営者の条件』より




ドラッカーは成果をあげるためには、人を中心にするのではなく、仕事を中心にする必要があると考えています。

上の話は仕事の中身ではなく、人を中心にしてしまっていることが問題なのです。

「あの人がいなければだめだ」という状況は、組織を最大成果から遠ざけている状況なのです。

これが中小企業に共通する問題点でもあります。




(浅沼宏和)

成果のあがらない人

ドラッカーは「成果をあげられない人の方が多くの時間働いている」といっています。

成果の上がらない人の特徴は次の通りです。


① 一つの仕事に必要な時間を過小評価する

すべてがうまくいくものと楽観視する。しかし、うまくいくものなど一つもない。

予期しないことが常に起きる。だから余裕を見なければならない。


② 急ごうとする

成果をあげる者は時間と競争しない。ゆっくり進む。


③ 同時にいくつかのことをする

そのため同時に手掛けている仕事のどれひとつにもまとまった時間が割けない。

どれか一つが問題にぶつかるとすべてがストップする。



ごもっともな話です。

‥したがって、自らの時間とエネルギー、そして組織全体の時間とエネルギーを一つのことに集中する。

最も重要なことを最初に行うべく集中する。

                    『経営者の条件』より



(浅沼 宏和)

2011年4月19日火曜日

集中した事例

ドラッカーはある製薬会社のCEOの事例を取り上げています。

彼がCEOに就任した時には、企業規模は小さく国内事業だけを行っていたそうです。

しかし、11年後に引退したときには世界のリーディングカンパニーになっていたということです。


1、社長就任の数年間は、研究開発の方向付け・計画・人事に力を入れた。

  当時その会社は研究開発はその他大勢の企業であった。
  彼が方向性を明確にしたことで、5年後には2つの分野でリーダー的地位を得た。

2、次に彼はグローバル化に集中した。
  
  すでに数カ国でスイス企業がリーダー的地位を得ていた。
  彼は世界の医薬品の消費動向を分析し、
  どの国でも健保と医療制度が需要を左右していることに気付いた。
  そこで彼は海外進出のタイミングをその国の医療制度の充実に合わせた。
  その結果、洗髪の各社と競争することなく大規模事業を開始できた。

3、最後の5年間に、彼は各国の医療制度の変化に応じて経営戦略を変えた。
  
  当時、世界のどこでも医療は医薬品の購入は医師が決めるが、
  支払いは政府や健保組合が行うという公益事業となっていた。


ドラッカーは1人のCEOがこれほど大きな仕事を行うことはあまりないと評価しています。

彼は大きな仕事を3つ成し遂げましたが、一度に一つしか行いませんでした。

ドラッカーは「これこそ困難な仕事をいくつも行う人たちの秘訣である」といっています。



菅総理、「災害からの復興と財政再建を両方同時にやる」と宣言しました。

ドラッカーの原則からすると共倒れになる宣言なのですが、はたしていかがでしょうか。



(浅沼 宏和)

2011年4月17日日曜日

閑話休題-会議のコスト

ヤフーのトップページのコラムに「会議の時給」という話が出ていました。


たとえば5人で1時間の会議をする場合、

参加者の平均年収が500万円で年間の勤務時間が約2500時間(残業含)とすると、時給換算で約2000円になると想定されていました。

それが5人分ですから2000円×5(人)=10,000円ということになります。

つまりこの事例では1時間の会議には1万円のコストがかかっていることになります。

ですからコスト意識を持ちましょうといった趣旨のコラムです。



これはできるビジネスパーソンにとっては当たり前の話です。

以前に書評を書いた「東大卒でも赤字社員 高卒でも黒字社員」の中にもだいたい同じ内容の話が書いてありました。


私は企業研修などを行う場合、参加人数と推定平均時給を計算して参加者側が投入しているコストを考えるようにしています。

そうすると100人ぐらいで3時間研修をしますと60~70万円になります。

これは人件費だけの話で、他に私の講師料や諸経費等が加算されますので場合によっては100万円近くになってしまいます

このように考えると研修講師としての責任の重さを痛感できますし、事前準備にも馬力が入るので必ず計算するようにしています。



ビジネス上のあらゆる活動にはコストがかかっています。

そのコストは人数、投入時間、推定時給の掛け算に諸経費を足すと簡単にわかります。


時間に対する意識があるとないとでは成果に大差がつくと思います。

時間をかけた場合には必ず簡易コスト計算をするとよいでしょう。

2011年4月15日金曜日

過去の計画的廃棄

これも有名なドラッカー原則です。

ですがよくよく考えると当たり前のことなのです。

時間が足りないので集中が必要です。足りない時間をかき集めるためにはムダな仕事を取り除かなければなりません。

これが過去の計画的廃棄もしくは体系的廃棄とよばれるものです。


もはや生産的でなくなった過去のもののために資源を投じてはならない。


第一級の資源、特に人の強みという希少な資源を昨日の活動から引き上げ、明日の機会に充てなければならない。


                          『経営者の条件』より


資源を小出しに使うことは浪費にほかなりません。目的を定め集中的に使うことで成果が出ます。

しかし、まず最も重要な資源である時間をかき集めることが重要であるということです。

この計画的廃棄は実は難易度が高いのです。


完全な失敗を捨てることは難しくない。自然に消滅する。

ところが昨日の成功は非生産的となった後も生き続ける。


この傾向は特に政府機関で顕著です。

ドラッカーもいったん発生した仕事は意味がなくなっても生き続ける問題点を主張しています。



(浅沼 宏和)

2011年4月14日木曜日

集中する

成果をあげるために集中するという素朴な原則をドラッカーは提示します。

理由は時間に制約があるからです。

ドラッカーの議論の根本は常にシンプルです。

成果をあげるには目標に向けて行動することが必要、そのためには時間が必要、時間には制約がある、だから集中するということです。


もちろんモーツアルトがいた。彼はいくつかの曲を同時に作曲した。すべてが傑作だった。

彼は唯一の例外である。

バッハ、ヘンデル、ハイドン、ヴェルディは多作であっても一度に一曲しか作らなかった。

‥組織で働く者が仕事のモーツアルトになることは至難である。

                 『経営者の条件』より




(浅沼 宏和)

2011年4月13日水曜日

リーダーの仕事ぶり

人間集団の基準というものはリーダーの仕事ぶりによって決定される。したがってリーダーこそ強みに基づいて仕事をしなければならない。

                        『経営者の条件』より


ドラッカーのリーダー論です。


人の世界ではリーダーと普通の人たちとの距離は一定である。リーダーの仕事ぶりが高ければ普通の人の仕事ぶりも高くなる。

集団全体の成績をあげるよりもリーダー一人の成績をあげる方がやさしいということを知らなければならない。


これはなかなか耳の痛い話ですが、本質をうがっているでしょう。

ドラッカーのリーダー観は戦国時代には最も有能な人間が侍大将になって軍勢を率いていたことと同じ意味を持っていると思います。

丹羽長秀の肖像画
江戸時代に世襲で受けついだリーダーという地位とは違った視点です。


たとえば、織田信長の武将であった丹羽長秀は豊臣秀吉から120万石以上の所領を与えられましたが、長秀が亡くなり息子の代になると4万石にまで大幅に減俸されました。

見方は色々でしょうが、司馬遼太郎によると当時の所領が能力給であったことの表れだそうです。

リーダーの地位はその責任と裏腹のものであるということです。




(浅沼 宏和)

2011年4月12日火曜日

自らの成果をあげる

これがドラッカーの「強み」論の中核であると思います。

自らの仕事においてもまず強みからスタートしなければならない。すなわち自らのできることの生産性をあげなければならない。

                       『経営者の条件』より


ドラッカーはこの大原則から出発し、次のように続けます。


彼らは、させてもらえないことについてこぼすことによって、自らの時間と強みを無駄にしている。

成果をあげるエグゼクティブも自らに対する制約条件は気にしている。

しかし彼らは、してよいことで、かつ、する値打ちのあることを簡単に探してしまう。

させてもらえないことに不満を言う代わりに、してよいことを次から次へと行う。


これこそイノベーションの元である「予期せぬ成功」が起きる原点です。


まずはじめに「何ができるか」という質問からスタートするならば、ほとんどの場合、手持ちの時間や資源で処理できないほど多くのことがあることを知るはずである。


できるエグゼクティブは仕事を自分で作ります。これが中核社員、中軸社員の定義になると思います。


(浅沼 宏和)

2011年4月11日月曜日

上司の強みを生かす

これもよく知られたドラッカーの原則です。


成果をあげるには、上司の強みを生かさなければならない。

‥上司の強みを生かすことは部下自身が成果をあげるカギである。

上司に認められ、活用されることによって、初めて自らの貢献に焦点を合わせることが可能となる。

‥もちろん、へつらいによって上司の強みを生かすことはできない。なすべきことから考え、それを上司に分かる形で提案しなければならない。

                         『経営者の条件』より



一般的に、役職が上になるほど外との接点が増えてきます。サッカーで言うなら中盤より前の選手になってくるというわけです。

部下は自身が得点を決めることができなくても、適切なパスを出すことで上司に得点を決めさせることができます。つまりアシストは可能ということです。


ドラッカーは現代は知識社会であり組織社会でもあると考えました。

したがって大きな成果は組織であげるものであり、個人は全体の成果に貢献する視点を持つことが大切になるわけです。

部下が上司に貢献することは最も簡単に全体成果につながる行動になるわけです。



(浅沼 宏和)

2011年4月10日日曜日

◇東電問題に見るリーダーシップ

また原発事故を題材にマネジメント問題を考えてみます。

東電および日本政府について海外から徐々に厳しい指摘がなされ始めています。

要するに「いったい何をもたもたしているのだ」ということです。


今回の場合、ドラッカーのリーダシップ論の次の内容を考えてみる必要があると思います。


船が沈没しかけているときに会議を開く船長はいない。 

命令をする。船を救うために全員がその命令に従う。

意見も参画も関係ない。危機にあっては階層と服従が命綱である。

しかも同じ組織が、ある時には議論を必要とし、ある時にはチームを必要とする。

  
           『チェンジリーダーの条件』より


ドラッカーはリーダーシップを具体的仕事の遂行ととらえています。

先週、ニュースステーションで原発対応の初日のもたつきの検証をしていました。

そこで動いていれば、おそらくだいぶ現状とは違っていたでしょう。


法的な問題、現在の政治状況等複雑な問題があるでしょうが、自体の緊迫性を明確に理解している人間がトップレベルに一人か二人いればと思います。

ここでの越権行為は事後に正当化されたことでしょう。

リーダーに人を得なかったことで、今後数十年、場合によっては数百年の付けを払う可能性もあるわけですから、この問題は厳しく検証していく必要があります。

毎日流されている記者会見では、ほとんど責任の表明がなされていませんが、そもそもこれほどの損害が出た以上、「まさかこれほどの津波が来るとは思わなかった」という責任回避は許されません。

ビジネスパーソンは結果責任を負うしかないわけですから。


(浅沼 宏和)

2011年4月9日土曜日

仕事の設計の仕方

ドラッカーは仕事は客観的に設計しなければならないと言っています。

客観的な仕事は適切な人事の前提でもあります。

そこでドラッカーは正しい仕事の設計のための原則をあげています。


① 適切に設計する

ときどき見受けられるのは、例外的な個性を持つ人のために設計された仕事を他の人にやらせることです。

こうした仕事は特異な個性に合わせて設計されていますから、他の人にやらせた場合、成果をあげることができないものとなってしまっています。

前職で実績のある人たちが次々と挫折する仕事は、仕事そのものを見直す必要があります。


② 多くを要求するか

どのような仕事であっても多くを要求する大きなものに設計する必要があります。

強みが成果をあげるためには仕事が大きく設計されていなければなりません。

どんな単純な仕事でも、要求されるものが変化します。すると仕事と人の不適合が生じます。

そもそも仕事を初めから大きくかつ多くを要求するものとして設計してあれば変化した状況の新しい要求に応えていくことができるというわけです。


③ その人にできることか

ドラッカーは潜在能力を重視し過ぎる人事考課制度について批判的です。

行うことができるのは現実の成果を評価するだけであるといいます。

現実に成果をあげることができることに絞って仕事を設計するべきであるといいます。


④ 弱みを我慢できるか

強みを生かすには弱みを我慢しなければなりません。

ドラッカーは、

危険な状況下においてリーダーシップが必要とされているのであれば、謙虚さの欠如には目をつぶり、ディズレーリやフランクリン・ルーズベルトを受け入れなければならない。

と述べています。

仕事には最適なものを当てなければなりませんが、逆に際立った成果をあげられない者は容赦なく移動させなければならないといいます。

これが強みを生かすことに伴う責任です。



(浅沼 宏和)

2011年4月8日金曜日

一流のチームを作る

ドラッカーは成果をあげる人間関係が生産的であると指摘しました。その延長で次のようにも述べています。


一流のチームをつくる者は直接の同僚や部下とは親しくしないということである。

好き嫌いではなく何をできるかで人を選ぶということは、調和ではなく成果を求めるということである。

そのため彼らは、仕事上近い人間とは距離を置く。

                          『経営者の条件』より


これはいろいろ意見があるでしょうが、目的は最大成果をあげるために厳しい話もできる関係であるかということでしょう。

明らかに成果があがっていなくても、普段親しくしていると強いことも言えないかもしれませんが、それは逆にビジネスパーソンとして「不誠実」ということになります。

ビジネスである以上、成果をあげることを優先しなければならないということです。

ドラッカーは、リンカーン、F.ルーズベルト、GMのスローンらを引き合いにして、いずれも仕事上の関係者と一線を画していたことを強調しています。


‥友情は仕事と切り離す必要のあることを知っていた。彼らが好きかどうかは仕事に関係のないことであるとした。

孤高を保つことによって多様性に富む強力なチームをつくっていた。


                   『経営者の条件』より


ドラッカーのマネジメント論は、かなり厳しい話をあっさりとしているところに特徴があります。





(浅沼 宏和)

2011年4月7日木曜日

仕事を中心にする

人を生かすためには人事が重要なポイントになります。

ドラッカーは適切な人事の前提として仕事を客観的な視点から構築することを主張します。


‥目の前の人事が人の配置ではなく仕事の配置として現れているから‥

‥仕事は客観的に設計しなければならない。人の個性ではなく、なすべき仕事によって設計しなければならない。

‥業績は、貢献や成果という客観基準によって評価しなければならない。‥さもなければ、「何が正しいか」ではなく「誰が正しいか」を重視するようになる。

‥人に合わせて仕事を構築するならば、組織は情実となれ合いに向かう。


                     『経営者の条件』より


強みを生かすことを強調し過ぎると、その人に仕事を合わせてしまうことになりがちですが、ドラッカーではそれはいけないと述べているわけです。

仕事を客観的に構築するとは、その組織の定める最終的な成果が何であるかに基づいて仕事を構築することです。

個人の強みは組織の最終成果に向けられなければ意味がないということです。

三人の石工のエピソードで、石工が「私は国一番の石積み仕事をしている」と答えた二人目の石工についてドラッカーは問題があると指摘しています。

なぜならせっかくの強みも組織の共通の成果に向けられていなければ意味がないからです。


(浅沼 宏和)

2011年4月6日水曜日

強みを生かす=成果を要求する

強みを生かすとは成果を要求することである。

‥真に厳しい上司、すなわち一流の人をつくる上司は、部下がよくできるはずのことから考え、次にその部下が本当にそれを行うことを要求する。


               『経営者の条件』より


強みを生かすためには弱みを我慢しなければならないという話を前回にしました。

ここで誤解が生じやすいのは、自分の好きなことを適当にやればよいという意味にとらえられてしまうことです。

強みを生かすというのは逆により一層厳しい基準に切り替えることを意味します。

この大前提になるのが成果が上がらなければ強みではないというこです。


前回の事例でいえば、南軍に負けるようならリンカーンはグラント将軍を罷免したでしょう。

かんしゃくを起こすプリマドンナは客が呼べなければ出演依頼もなくなるでしょう。


強みを生かすということはこのように厳しい責任と裏腹のものであるということです。




(浅沼 宏和)

2011年4月5日火曜日

強み-できることを中心にする

成果をあげるためにはできることを中心に据えることが重要であるといいます。


リンカーン大統領は、最高司令官の人選にあたってグラント将軍の酒好きを参謀から注意された時、「銘柄がわかれば、他の将軍たちにも送りなさい。」といったという。‥

‥リンカーンは、飲酒の危険性を十分に承知していた。しかし北軍の将軍の中で、常に勝利をもたらしてくれたのはグラントだった。

‥酒好きという弱みではなく、戦いに上手という強みに基づいて司令官を選んだためにリンカーンの人事は成功した。


                      『経営者の条件』より



徹底的に強みを生かすという視点が大事であるということです。

ドラッカーは強みを生かす事例として他にもいくつかあげています。


① ‥普段は感情を抑えるリー将軍が怒った。

しかし、落ち着いたところで副官が「解任しますか?」と聞いたところ、全く驚いたという顔で、「ばかなことをいうな。彼は仕事ができる。」といったという。



② オペラの舞台監督は、プリマドンナが客を集めてくれる限り、彼女が何度かんしゃくを起こそうと問題ではないことを知っている。

最高の舞台を務める上で必要なかんしゃくであるならば、それを我慢することも舞台監督の報酬のうちである。



強みに焦点を当てることが成果をあげる秘訣ですが、この事例だけをみると当人に好き勝手に任せておくことが正しいのかと誤解を生じるかもしれません。

次回は、この点について検討します。



(浅沼 宏和)

2011年4月4日月曜日

良好な人間関係の定義

良好な人間関係というと、「楽しく和気あいあいとした関係」という意味でとらえるのが一般的であると思います。

しかし、ドラッカーは全く違ったとらえ方をします。



対人関係の能力をもつことによって良い人間関係がもてるわけではない。

自らの仕事や他との関係において、貢献に焦点を合わせることによってよい人間関係がもてる。

そうして人間関係が生産的となる。

生産的であることがよい人間関係の唯一の定義である。

                   『経営者の条件』より



有名バンドや人気漫才コンビ等がお互いに仲が悪く、携帯の番号すら知らないということはよくあるそうです。

つまり、「わきあいあいとした楽しい付き合い」とは対極にある人間関係です。

しかし、ドラッカーの定義によると仕事において大きな成果をあげている以上、彼らは「よい人間関係」を築いていることになります。

共通の目標や成果を見つめる習慣があることがよい人間関係の条件ということになります。

さらにドラッカーの言葉を続けますと


仕事上の関係において成果がなければ、温かな会話や感情も無意味である。貧しい関係の取りつくろいにすぎない。

逆に関係者全員に成果をもたらす関係であれば、失礼な言葉があっても人間関係を壊すことはない。

                                                                          『経営者の条件』より


となっています。

つまり組織の目的を達成することこそが重要であるということです。


(浅沼 宏和)

2011年4月3日日曜日

閑話休題-「経営者の条件」というタイトル

このブログでは最近、「経営者の条件」の一節を抜き出して検討しています。

この本の原題は「Effective Exective」です。

直訳すると「効果的な経営者」ですが、内容と日本語で伝わるニュアンスを活かすとすると、私なら「精鋭のエグゼクティブになるために」とかいうタイトルにします。
effectiveには「精鋭の」という意味もありますから。

このタイトルでは売れないでしょうが、内容がだいたいそんな感じなのです。

この本は、ビジネスパーソンがいかにして大きな成果を上げることができるかということを詳しく説明しています。

必ずしも経営者だけに当てはまる話ではなく、立派な仕事をしようと思っている社会人すべてに役立つ内容になっています。

「経営者の条件」というタイトルでは、中間管理職以下の人間には関係のない本に思われてしまうのではないかと心配になります。

この本が訳された時の諸事情でこういうタイトルになったのでしょうが、今となってはタイトルが足かせになっている面があるのではないかと思います。

この本は大変な名著ですが、タイトルのおかげで手に取らないビジネスマンが多い気がします。




(浅沼 宏和)

2011年4月2日土曜日

閑話休題-好きなことと強み

当社で近々産休に入る社員がいます。

少しブランクを空けてまた仕事についてもらう予定ですが、その前に「自分がこれまで仕事をやってきてうまくできたことを整理して置いてください。」と指示を出しました。

今後は家庭の負担が増えますから、時間当たりより高い付加価値を出していく必要があります。

ですから、今までより一段レベルをあげた仕事ができるようになってもらおうと思っています。

ところで、その話の中で「好きなこととうまくできることは違う」という話もしました。

人は好きなことを中心に物事を考えがちですが、ドラッカーはそれは違うといいます。

お客様に求められ、喜ばれることでうまくできることに焦点を当てるべきなのです。

ドラッカーは、物理学者のアインシュタインが大変なバイオリン好きで、
「オーケストラのメンバーになれるほどの技量が得られるならノーベル賞と引き換えにしてもよい」
といったというエピソードを取り上げています。


彼は弦楽器を弾くことが好きで日に四時間も弾いて楽しんだ。

しかし弾くことはかれの強みではなかった。

彼は数学をやるのは嫌いだといつも言っていた。

しかし、彼が天才だったのは数学においてだけだった。


           『非営利組織の経営』より



これは極端なエピソードですが仕事というものの本質を表していると思います。

似た話ですが、プロ野球の城島捕手は大変な釣り好きだそうで、釣り雑誌の連載も持っているプロはだしの腕前の持ち主だそうです。

あるインタビューで「釣りを職業にしたい気持ちがありますか?」と尋ねられて「野球と同じ年俸をもらえるなら釣り師になる」といっているのを見ました。

つまり城島捕手にとって、釣りの方が野球よりはるかに好きであるということです。


仕事でも好きなやり方で成果が上がらなければ、より成果の上がるやり方が強みであるわけです。

仕事は趣味ではありませんから好きなやり方ではなく成果のあがるやり方を選ぶべきなのです。



(浅沼 宏和)

2011年4月1日金曜日

貢献に焦点を合わせる-ブライアン看護師の原則

ドラッカーは成果には直接の成果、価値への取り組み、人材育成の3つがあると指摘しています。

人材育成についてドラッカーはブライアン看護師のエピソードを紹介しています。




アメリカのある病院では、難しい問題に直面して何らかの答えを導き出すと、

「この答えにブライアン看護師は満足するだろうか。」

と議論するそうです。

ブライアン看護師というのはその病院の古参の看護師で、自分の病棟で何か新しいことが決まりそうになると

「それは患者さんにとっていちばんよいことでしょうか。」

と必ず聞くことで有名なのだそうで、実際、彼女の担当病棟の患者は回復が早いのだそうです。

何年かのちに、病院全体に「ブライアン看護師の原則」がいきわたったのだそうです。



ブライアン看護師が退職した後もこのブライアン看護師の原則によって現場の看護師の水準は高い状態が保たれたということです。



このエピソードが語るのは、仕事のレベルは貢献を意識することによって引き上げられるのだということです。

また、組織や上司は部下や新人たちに対し「ブライアン看護師の原則」を提示しなければならないということです。


(浅沼 宏和)