2010年2月3日水曜日

トヨタのリコール問題を考える-大野耐一氏の言葉

現在、トヨタ自動車が大規模リコール問題で揺れています。

ニュースで大々的に報じられているので、すでにご承知かとは思います。

2年ほど前ぐらいから日経ビジネス等の経済誌では、トヨタの品質問題が取り上げられたりしていましたが、これほどの事件になるとは思ってもみませんでした。

部品の共通化の問題であるとか、海外の部品工場の品質管理であるとか具体的な内容があげられていますが、根本的にはトヨタ自動車の規模が巨大化し、十分なコントロールが難しくなったことがあるように思われます。

そこでトヨタの物づくりの原点を考えてみます。

トヨタ生産方式を作り上げたのは大野耐一氏です。

戦後すぐの段階ではトヨタとGMとの間では生産性(時間当たりの生産台数)が、ほとんど10倍近くあったといいます。

トヨタは大野氏を中心に、その差をギャップと認識し、無駄を徹底的に排除し、なぜを5回繰り返すという積極的思考態度を持ち、カンバン・アンドンといった独特の手法を生み出す等の斬新な製造スタイルを次々と生み出していったわけです。

その考え方と工夫については大野氏の著作『トヨタ生産方式』にくわしく書かれています。この本は歴史に残る名著であると思います。

その中で大野氏は

私どもは高度成長時代にも、‥‥いたずらに量産機械を導入することを避けた。
私どもは大艦巨砲主義のもたらす生産現場のひずみがいかに大きなものであるかを知っていたので、時流に押し流されることなく、ひたすらトヨタ生産方式の前進に取り組んだ。

といっています。

数年前まで自動車業界は増産につぐ増産という状況にありました。はたしてその頃のトヨタ自動車はこの大野氏の言葉どおりであったのでしょうか。

今、こうした事態が起きているということはトヨタとしても深く考えなければならないところでしょう。

大野氏は次のようにも述べています。

私が思うには、たとえば一企業のなかで、よく売れる部門を持たされるよりも、なかなか売れないで弱っているところで取り組んだほうが、それだけ差し迫った改善のニーズがあるだけに、やりがいがあるではないかと考えるのだが、現実はそうでもないらしい。
このような硬直した考え方が、今の企業、ひいては産業社会に巣くっていることは困ったことである。‥‥‥

肝心なのはシステムではなく、情報を選び解釈する人間の創造力である‥‥。私自身、日々新たなる決意をもって、硬くなりがちな頭の創造にムチを当てつつ、今日も生産現場を歩くつもりである。

大野氏の肉声は起業家精神に満ちており、大企業の地位に安住している気配はみじんもありません。大野氏の言葉を読むと自分自身がはたして「創造的」であるか考えてしまいます。
リコール問題について、トヨタ本社の役員がようやく非を認めるコメントを出していましたが、そのスタイルはいかにも「大企業的」で、あまり「創造的」には聞こえませんでした。

大野耐一氏の率直な真摯な姿勢と語り口を取り戻すことが、現在のトヨタ自動車にまず求められていることのように思われます。

ちなみにCSRの観点からいえば、数年前の米国の事故の段階で、「理由のいかんを問わずトヨタ車の事故が起きたことには責任を感じる」という声明を出すことが必要だったでしょう。