2010年6月30日水曜日

閑話休題-サンデル教授の政治哲学

今年、4月から6月まで、毎週日曜日の夕方からNHK教育TVで『白熱教室』というタイトルで、ハーバード大教授のマイケル・サンデルの講義の様子が放送されていました。

ハーバード大の講義は本来「門外不出」です。しかしサンデル教授の講義があまりに名講義なので、講義の様子をそのままTV番組にしてしまったのです。

このサンデル教授の講義は実にすばらしく、私は毎週感動しながら視聴していました。


サンデル教授は政治学者としても世界的権威なのですが、学生を相手に身近な実例をあげながら「正義」について考えさせるという硬軟使い分ける切れ味鋭い教育者でもあります。

とりあげる思想家も、アリストテレス、カント、ロック、ミル、ロールズなどの大御所ぞろいなのですが、その難解な思想を実に手際よく身近な事例で考えさせるのです。


たとえばこんな問いがなされていました。


・電車の行き先に作業員が5人いてこのままでは全員事故で死ぬ。ポイントを切り替えるなら、その先には作業員が1人しかいない。ポイントを切り替えて1人の作業員を死なせてしまうことは正義と言えるか?

・同じ状況で、あなたが線路を見下ろす陸橋の上にいる。隣にかなり太った男が身を乗り出しており、その男をつき落とせば電車は止まり5人は助かる。この肥った男を突き落とすことは正義か?

・最初の事例は正しい行為のように思え、肥った男を突き落とす行為は正しくないように思える。その背景にはどのような道徳的問題が潜んでいるか?


またこのような事例も出されました。


・リーマンショック後に経営不振に陥った金融機関に多額の税金が投入された。しかし、その金融機関の幹部が多額のボーナスを受け取っていることがわかり、国民から猛烈な批判の声が起きた。

・幹部は「優秀な人材を引き留めておくためには多額のボーナスはかかせない」という。この幹部の発言の背景にある道徳的問題とは何か?



私は大学の学部が政治学科であったため、政治哲学は学校でも学び、本もたくさん読みました。しかし、サンデル教授の授業ほど切れ味の鋭い議論はこれまで聞いたことはありません。

あまりの切れ味に衝撃を受け、録画を何度も見直すだけでは足りず、サンデル教授の著書まで購入してしまいました。(右)


この本はNHKの番組で取り上げられた内容をそのまま書籍にしたものなので、大学の学部生程度の理解力で読めるものです。

しかし、かなり思考力を使う内容ですし、他に読むべき本が吹きだまっているので、少しずつしか読めなさそうな感触です。


また、サンデル教授はもっと本格的な専門書を多数書いているので、それらにも目を通してみたくなりました。


マイケル・サンデル『これから「正義」の話をしよう』早川書房、2010年  定価2,415円