2009年11月27日金曜日

ドラッカー経営の難しさ

ドラッカーの影響を受けた経営者は世界中に多数に多数います。
日本ではユニクロの柳井正氏はドラッカー経営を実践していることを明らかにしていますし、リクルートの江副浩正氏もドラッカー信奉者として有名です。

柳井氏のドラッカー経営論は先日NHKでも特集されていましたね。



リクルート社は数多くのコンサルタントを輩出していますが、彼らの著作やセミナーを見るとドラッカーの影響が色濃く残っています。
また日本の著名なコンサルティング会社の何社かはドラッカー理論をモデル化したツールを利用してコンサルティングを行っています。



ドラッカーは初めて体系的なマネジメントの枠組みを提起しただけに、後に続く人たちはその理論を無視することができなかったのでしょう。



ところで目を中小企業に転じてみると、「ドラッカー経営」を標榜する経営者に出会うことはそんなに多くありません。
それはドラッカーの著作の分厚さ、体系的な難解さに原因があるように思われます。



ドラッカーの著作は鋭く含蓄に富んだ言葉に満ちています。
「企業の目的は顧客の創造である」、とか「企業の成果はマーケティングとイノベーションの二つだけから生まれる」とか、短い警句を使ってズバリと経営原則を提示してくれます。



しかし、ドラッカー理論の全体像は壮大であり、一読して理解できるタイプのものではありません。
これが「ドラッカー経営」の実践者を増やさない原因なのでしょう。



他にも理由があります。まず一つには、ドラッカーの著作に見受けられる矛盾の数々です。
著作同士を読み比べて見ると随所に矛盾があることに気付きます。
特定の概念について著作ごとに定義が違っていたり、下手をすると同一著作中であっても違う説明が行われていたりします。
そのためドラッカー理論は読み手の数だけ解釈があるといわれる状況になっています。



この矛盾にはドラッカー自身による思考の深化と時代状況の変化という側面があると思います。
またマネジメントという抽象的概念と実際のビジネスパーソンの具体的行動との間に横たわる曖昧さに関係するようにも思います。



もう一つの理由は「場合分け」の数の多さです。
ドラッカー経営理論の古典三部作をざっと見ると次のような状況です。



1954年の「現代の経営」を見ると、目標の5つの条件、8種類の目標、意思決定の3つの方法、3つの生産システム、組織文化:5つの行動規範、2つの組織原理、企業規模の4段階などが書かれています。



1964年の「創造する経営者」には、企業の3つの本業、業績をもたらす3領域、製品・サービスの11分類、コスト管理の5原則、マーケティングの8つの原則、強みを基礎とする3つのアプローチ、戦略的意思決定をすべき4つの領域、業績を上げる3つの能力などが書かれています。



同じく1964年の「経営者の条件」にも、成果を上げる8つの習慣、エグゼクティブを取り巻く4つの現実、身につけておくべき5つの習慣的能力、時間浪費の4つの原因、貢献に焦点を合わせることで身に着く4つの能力、強みの基づく人事の4原則、GMのスローンの意思決定の4つの特徴、意見の不一致の3つの理由、などです。



上記ですべてではなく、それぞれの理由づけまで含めるといったいいくつの類型化がおこなわれているか数えることもできないほどです。
これが読み手の混乱を招いている原因の一つです。