2010年10月25日月曜日

書評-「ビジネスで一番大切なこと」①

ヤンミ・ムン『ビジネスで一番大切なこと』ダイヤモンド社、2010年  定価 1500円+税


ヤンミ・ムン氏はハーバード・ビジネススクールで競争戦略論のマイケル・ポーター、破壊的イノベーションのクリステンセンと並ぶ大人気のマーケティング論の教授です。

彼女は、今の企業が行っている差別化はほどんど差別化になっておらず、せいぜい「群れ化」を促進しているにすぎないと主張します。

本書は随筆風の柔らかい文章ですが、言っていることは意表をついています。

彼女の意見は今後重要視されていくような気がしますので整理しておきたいと思います。


・ビジネスの成功のカギは競争力にある。競争力とは他社といかに差別化するかである。
 ところが、その差別化が細かくなりすぎたために無意味なものになってしまった。

・企業が激しく差別化を争うほど、その違いはプロでなければ見分けがつかないものとなる。

・雑魚の集団から抜け出し、消費者との純粋なきずなを生み出せる傑出した企業は残念なほど少ない。

・何かを測定しだすことはそれを重視すると決めたに等しい。競い合う群れが一斉にその方向に走り出す。

・よくある「ランキング」は一匹狼の存在を危うくする。


・一定の測定方法が定着すると、逸脱者、異端児、冒険者が生まれにくくなる。

・全員が同じ方向を目指せば、誰も抜きんでることはできない。


・消費者に聞くことは「競合他社が何を提供しているか」を聞くに等しい。その結果、「アウディのように走るボルボ、ボルボのように走るアウディ」が生まれることになった。

・相違点を可視化すると当事者たちは互いの違いを際立たせるのではなく、解消しようとする。

・群れに参加しようとする者は二つの要件を求められるだけ。①感知機能-周囲が何をしているか察知する ②反応性-周囲が方向転換したら、それに合わせて調整する。


・企業が熱心に差別化を競い合うほど、その違いは消費者からみて小さくなっていく。


・ビジネスパーソンは型通りで意外性のない製品の改善を加える傾向がある。

 ①よりよく新しく進化させる「付加型」

 ②選択肢が掛け算のごとく増えていく「増殖型」

・付加型にしろ増殖型にしろ、本来の目的を見失い、その改良自体が自己目的化する。過度のセグメント化、過度の競争の結果、変化そのものがコモディティ化してしまう。



・消費者はある段階まで来るとそう簡単には心を動かされなくなる。

・差別化のための努力があまりに実を結んでいない。顧客満足度も上がっていない。




差別化といえば、経営戦略の最重要概念です。その意味自体がビジネスパーソンに正しくとらえられていないというのがムン教授の主張です。

これは重要な指摘であると思います。


次回も本書のまとめを続けます。