中森貴和『行政不況』宝島社新書、2008年 税込680円
中森氏は帝国データバンクの情報取材課課長です。
仕事を通じて感じた日本の企業を取り巻く経営環境を「行政不況」と一言で表現している点は秀逸です。
中森氏は昨今の経済情勢の原因の多くは行政府(つまり官僚)が、自分たちの新たな権力行使を模索する中で起きている側面があると指摘します。
「改正貸金業法」「改正建築基準法」「改正独占禁止法」「金融商品取引法」「特定商取引法」‥‥といった法改正ラッシュ、それに伴う規制強化を受けて経済状況がわるくなっているというのです。
一連の法規制は「消費者保護」「反社会勢力の排除」を目的としており、それは当然といえば当然のことです。
しかし、一方でこうした改正が関連業界の淘汰を招き、格差の拡大をさらに加速させ、個人消費の冷え込みに影響を与えているといいます。
中森氏は、こうした法改正ラッシュの背後には官僚の思惑があると考えます。
行政改革や経済のグローバル化によって支配構造の転換期に直面した霞が関が消費者保護政策に活路を見出していると捉えることができるというのです。
産業界ではグローバル化、国内市場の縮小を契機としたガリバー化が進行していますが、法改正ラッシュはこうした寡占化をさらに加速させる要因となっているといいます。
産業界の寡占化は中小零細企業の切り捨てにつながり、競争原理が逆に限定されていくわけですから消費者にとっては最終的には好ましくないことになります。
中森氏はこの直接的原因が小泉政権にあると見ています。
小泉政権が構造改革を掲げながら結果として中途半端に終わったうえに、需要創出政策を怠ったままに規制緩和を進めたことで、産業界のみならず社会全体の二極化を進行させてしまったというのです。
もちろん構造改革そのものが間違っているわけではありません。
構造改革とは経済・社会のグローバル化・自由化を追求することで、その足かせとなる規制を外し、悪しき慣行を是正することです。
政治・行政の無駄を省いて民間に対する余計な規制をなくすことが本来の目的であるはずです。
ところが行政が、この本来の目的を見失い、自己の生存を図る動きを行っていることで、よくなるはずのところがよくならないというわけです。
中森氏は、他にも各業界の再編事情に詳細に触れています。
かつての有名企業が、現在どれだけ経営基盤がゆるんでいるかについて詳細に分析しています。
そこから見えてくるのは各企業の長期的戦略の欠如です。
過去の遺産を食いつぶしてきた企業が、いかに力を弱めてしまったのかがよくわかります。
さて、中小企業に目を転じると、やはり淘汰と再編という状況が訪れているように思います。
明日以降は少しその点について触れたいと思います。