2009年12月5日土曜日

書評「カオティクス」

『カオティクス -波乱時代のマーケティングと経営』F.コトラー、東洋経済社、2009年 定価 1,890円





マーケティング論の第一人者フィリップ・コトラーの近作です。



まだざっと読んだだけなのですが、この本は名著であると思います。


コトラーのマーケティング論を現代の状況変化に合わせて大幅な修正を加えたものです。
ただし、マーケティングに関する基本的考え方は変化なしです。
もっともマーケティング分野にとどまることなく、財務やITなど全社的なマネジメントも視野に入れています。


今後、精読して改めて詳細にご紹介したいと思いますが、大筋としては以下のような内容です。



コトラーは企業を取り巻く環境が「乱気流」という新たな段階に入ったことを事実として認めるところから議論をスタートさせます。
グローバリゼーションの進展で世界が互いに関連・依存し合っているため危うさと脆さが生み出されたと考えるのです。
以前は景気の上昇局面と下降局面の二つの区分で対応できましたが、乱気流時代はそのような単純な想定のもとで戦略を立てることはできないといいます。


先の読めない困難な時代に企業は一律のコストカットに走りがちです。
しかし安易なコストカットを行うことは企業としての強さを失わせるといいます。


乱気流時代は今後ずっと続くとコトラーは考えます。
ですからリスクと不確実性(この二つは経済学的な意味が違う)から逃れることはできないため、それに対処する仕組みが必要となります。


それをコトラーは「カオティクス」と呼ぶのです。
乱気流こそが「新しい通常状態」であり、そこでは景気が突然良くなったり沈滞したりということが断続的に起きるといいます。


乱気流時代の企業行動として、ひとつには危さに対する防御策が必要となります。
そして、もうひとつは機会(チャンス)で、これは活用しなければなりません。



景気の悪さが吉と出る企業も存在するのであり、その企業にとって機会(チャンス)とはライバル社の事業を奪い取ることとして生じるというのです。
競合他社が軒並み重要な費用を削減している中でも、自社だけは削減しない時に機会(チャンス)が生じるのだそうです。



先日の当社セミナーにおいて、ドラッカー理論に基づきコスト管理では費用削減ではなく、機会の最大限の開拓がポイントになるというお話をさせていただきました。
本書を見て、その論旨が間違っていないと感じることができました。



以前に指摘したようにコトラーはドラッカー理論の影響を受けていますから、本書はドラッカーのマーケティング論の現代版といえるものであると思います。