ドラッカーの著作中に「石切り工」の有名なエピソードがあります。
三人の石切り工の昔話がある。
何をしているかと聞かれたとき、第一の男は「これで暮らしを立てている」と答えた。
第二の男は手を休めず「国中で一番上手な石切りの仕事をしているのさ」と答えた。
第三の男は目を輝かせ、夢見心地で空を見上げながら「大寺院を作っているのさ」と答えた。
(ドラッカー『マネジメント 下』87頁より)
三番目の男こそが本当のビジネスパーソンです。
この寓話のエッセンスは、仕事は目標に焦点を合わせなければならないということです。
そしてもう一つのエッセンスがあります。
第二の男は組織の成果の足を引っ張るかもしれないということです。
国中で一番の石切り仕事をする男の技量は、単なる生活費稼ぎの第一の男よりだいぶ上でしょう。
しかし、組織目標と無関係な技量はかえって邪魔になる場合があるということです。
ドラッカーはこの二番目の男について次のように指摘します。
‥‥職人や専門家といった人は、実際には、石を磨いたり、脚注を集めてたりしているにすぎない場合でも、何か大きなことをやっているのだと気負いこんでしまう危険があるものである。
熟練技能は企業でも奨励しなければならない。
しかしそれは常に全体のニーズとの関連の下においてでなければならない。
これは環境が目まぐるしく変化する現代ではざらにある話だと思います。
昔は価値が高かった技能が陳腐化したにもかかわらず、それで評価されてきた人はその意識がなかなか抜けないものです。
一つ事例をご紹介します。
太平洋戦争中の日本海軍も真珠湾の成功で航空戦の重要性に気づくチャンスがあったのに、最後まで大艦巨砲主義から抜け出せませんでした。
*大艦巨砲主義の象徴の大和です。
投入資源に対する成果がとても低く、ドラッカー流のコスト管理の視点からは失敗事例と言えます。
これは大きすぎる話かもしれませんが、小さな話ならばどこの会社にもあるでしょう。
一つの仕事をまじめに長くやってきた人ほど「第二の男」になってしまう可能性があるということです。
第二の男は腕をふるうこと自体が自己目的化してしまっており、組織の成果から遠ざかってしまったことに気がつかないわけです。
組織の目標を明確化することは第二の男の数を増やさないためにも必要なのです。