企業経営においてコンプライアンスやCSRといったものが重要なリスク要因となってきました。
私は会計研究の主要テーマの一つを「企業倫理」としている関係で、比較的早くから先端の動向についてフォローしてきました。
これから折に触れて、そういった問題を扱っていきたいと思います。
今回は、サプライチェーン問題がテーマです。
サプライチェーン問題と聞くとなんだか「安く仕入れる企業戦略」に聞こえるかもしれませんが、全く違います。
わかりやすく説明するためにサプライチェーン問題の失敗事例と成功事例を一つずつ上げたいと思います。
≪失敗事例≫ ナイキのスウェットショップ事件
世界最大の運動靴メーカーであるナイキ社は主に発展途上国に生産工場を展開していました。
現地工場はナイキ社の直接経営ではなく、現地法人がナイキ社から委託を受けて生産する形式、つまり「外注」が基本となっていました。
1997年に、米国の労働NPOがナイキ社の内部文書をマスコミに暴露しました。
その内容は、ベトナム現地工場において高濃度の発がん性物質の蔓延する作業環境、違法な長時間労働、児童労働、日常的セクハラといった劣悪な労働環境が放置されていることを明らかにするものでした。
米国のマスコミは大々的にこのニュースを取り上げましたが、ナイキ社の回答は「外注先の問題であり、当社は関知しない」というものでした。
それにたいしてマスコミは猛反発。ニュースを聞いた市民たちによって全米で瞬く間にナイキ社製品の不買運動が展開され、ナイキ社は大幅に株価を下げることとなり大きな痛手を被りました。
≪成功事例≫ ソニー・プレイステーション事件
2001年、オランダの税関でプレイステーションの部品にオランダの定める基準値以上のカドミウムが混入していることが発覚しました。
それは日本の基準はクリアするものでしたが、通知を受けたソニーはプレイステーション約130万台の自主的な出荷停止を決断しました。
この決断によってソニーは商品の再出荷をクリスマス商戦に間に合わせることができず、130億円以上の損害を被ることとなりました。
ちなみにカドミウムの混入していた部品は中国の外注先企業が製造したものでした。
しかし、この迅速な対応はヨーロッパにおいて賞賛を集め、以後ソニーはCSR(企業社会責任)意識の高い企業としての評判を獲得することとなりました。
この二つの事例から得られる教訓は、ロゴマークを冠した最終製品を市場に提供する企業は仕入先・外注先が起こした問題についてまでも社会的責任を負っているということなのです。
もう一つあります。
ソニーの例は失敗を転じて信頼を勝ち取った事例です。
サプライチェーン問題の成功事例とは事前のリスクマネジメントと事後の適切な行動によって達成できるものです。
サプライチェーン問題によって、最終製品を製造するメーカーが二次、三次下請け企業のみならず、五次、六次‥と、徹底的にさかのぼって工場監査をするようになりつつあります。
サプライチェーン問題は大手企業だけに関係する話ではなくなりつつあります。
今後は中小企業においてもコンプライアンス、CSR、リスクマネジメントについての知識は不可欠であるといえるでしょう。