8月12日の日経新聞朝刊に一橋大の伊藤邦雄教授の論文が掲載されていました。
伊藤教授は会計学会の大物ですが、マネジメントについても造詣が深く、日経新聞と組んで企業のブランド価値評価等を行ったりしている人物です。
今回の論文は日本企業の衰退の原因を簡略にまとめ、その対応策について提言しています。
以下、概要をまとめます。
日本の長期にわたる衰退の原因は、グローバル化の遅れ、ガラパゴス化、先端製品のコモディティー化等色々と考えられるが、根本的な原因は『失われた10年』にある。
90年代に企業はITや組織改編によって分権化を進め本社をスリム化した。打つ手も適切だった。
しかし、部門間の壁は厚くなり、連携が働かなくなった。
社員の視野も狭まり、成果主義の下で目標達成が最優先された。その結果、部分最適化が日本中を覆うようになった。
もともと日本は自分の職務を明確に規定せず、他部署やメンバーと柔軟に連携するチームワークが強みだった。それが失われてしまった。
90年代は企業競争のパラダイムが変化し、個々の事業部が自己利益を追求して合理的行動をとれば全体が最適化されるという発想になった。だからこそ部分最適化が進んだ。
しかし、このパラダイム転換は「部分」と「部分」の対立を生んだ。
そもそも部分最適化ができない企業は生き残れないが、全体最適化ができない企業は勝ち残れない。
会社経営は事業部の利害を超えた全社的最適を実現することだ。
提言1
90年代以降はスペシャリストがもてはやされたが全体最適型人材を早急に育成すべきだ。
部分を全体最適システムとして構築できる人材が必要だ。
提言2
全体最適の範囲を拡大すべきだ。今後は営業・開発・物流など他領域にも広げるべきだ。
提言3
大企業がベンチャー企業との連携を怠ってきたことを反省すべきだ。
提言4
既存産業の異業種連合を促進することだ。
全体最適という概念はドラッカー理論の中心概念でもあります。
伊藤教授は、日本企業は「モノ作り」の強みに特化し、事業システムを構成する「部分」の強みばかりを磨いてきたが、それが利益を生み出す源泉を狭めることになってしまったと主張しています。
全体最適というのは、環境変化に対してより柔軟な対応を可能にする仕組みであると思います。