末永國紀『近江商人学入門」淡海文庫、2004年 定価 1,260円
近江からは続々と商売上手が登場しました。
また、日本生命、高島屋、伊藤忠、丸紅、トーメン、ニチメン、武田薬品、日本生命など数多くの企業は近江商人の系譜をひいています。
さらに、近江商人は「売り手よし、買い手よし、世間よし」として知られる三方よしの思想を生んだことで、日本におけるCSRの源流の一つといわれています。
私は東海マネジメント研究会の活動の一環で滋賀県の近江商人記念館を訪ねたこともあり、近江商人には強く関心を持っています。
基本的には、なぜ滋賀県の片田舎に本拠地を置いたままで富豪になることができたのだろうかということに関心を持っています。
以下、本書の中からキーワードを列挙しておきます。
持ち下り商い
近江商人の基本は行商でした。上方の商品を天秤棒にぶら下げて地方に下り、今度はその地方の物産を仕入れて上方で売りさばくという、往復ともに商売になるというノコギリ商いからスタートしました。
卸行商
最初は少ない元手しかありませんので、天秤棒で商品を担いで行く持ち下り商いをするのですが、商売先の土地で有力者と知り合いになり、信用ができると、そこに馬や船で大量に商品を送るようになります。
自身で担ぐ天秤棒には身の回りの品だけをぶら下げて出向くようになり、地域の商人たちを集めて委託販売などの商談を行いました。
行商団体
商人同士の過当競争を避けるために、地域ごとに行商団体を組織しました。
そして債権回収や情報収集などの役目を果たす特約旅館制度などを設けました。
諸国物産まわし
こうして資産を築くと、近江商人は複数の地方に出店を開きました。出店は商品の輸送・保管場所として前線基地の役目を果たし、そこからさらに枝店が広がりました。
そして出店同士の情報交換から各地方の物資の価格差を利用して大規模な物資の流通を行いました。
すぐおわかりになるでしょうが、総合商社と同じビジネス形態です。
多くの商社の原型が近江商人であるのも当然です。
江戸時代のようにテクノロジーが発展していない時代にこれほどの先進的経営を行っていたことは驚きです。
その他、各地方に根付き、そこで酒造や織物などの事業を展開し、成功した人も多かったといいます。
また近江商人は、複式簿記制度をもっていたこともわかっていますし、独特の人材募集・育成制度を持っていたこともわかっています。
近江商人はこうした卓越したビジネスを行ってきましたが、基本的には薄い利益で信用を築き、人一倍勤勉に働くという王道の商売を行っていました。
私はこうした精神がドラッカーに通じるものがあると思っています。
近江商人については継続的に研究していきたいと思っています。