林總『餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?』ダイヤモンド社、2006年 定価1,575円
名古屋のブックオフでたまたま見つけて購入したのですが、大当たりでした。
本書は会計実務家必読です。
タイトルが変わっていますので、中身が薄そうに聞こえますが、本書の内容はかなりハイレベルで、会計専門家でも十分満足できる内容です。
また、マネジメントの本としても優れていて、私がインパクトを感じた命題が10個以上含まれていました。
命題のレベルもよく練れていて高く、これを生みだすのに長い思索を経ていることがわかります。
以下、インパクトのある命題を抜き書きます。
・会計の使命は会社の活動を「可視化」すること。
・絶対的に正しい決算書は存在しない。
・大トロは儲からない。仕入れた大トロが現金化する速度は1カ月。コハダは即日現金化する。この速度の差。
・会計はキャッシュフローと利益概念を用いて行動計画の実行可能性を検証するツール。
・「蒲田の餃子屋のオーナーは不況のなった時にどれだけ損をするか考える。
銀座のフレンチのオーナーは不況といえども圧倒的な差別化で顧客を絶え間なく引きつけなければならない。」 -損益分岐点分析から割り出した結論
・ブランド価値とは見えない現金製造機のこと。
・バランスシートの左の資産を実態以上に膨らませれば、右にある利益もその分増えたように見せかけられる。 ―粉飾決算の基本原理
・殺風景な工場ほど儲かっている。
・一流の蕎麦屋には無駄がない。これは生産現場の普遍的原理といってよい。
・可視化とは異常点が目に飛び込んでくる状態のこと。
・会計数値で異常を見つけたら、そこを突破口にするのだ。現場に行き、関係者の話を聞き、とことん原因を突き詰める。
・シャーロックホームズの目と行動力を持つことが大切なのだ。
・会計知識だけで数字の裏側は絶対に見えない。
本書のスタンスには共感を覚えます。
会計専門家は会計知識を前面に出しがちなのですが、私はそのスタイルでは限界があると考えています。
会計の限界を明確に示し、その神格化を排除する姿勢はとてもよいと思います。
また、偶然ですが私もシャーロックホームズ的な思考法がビジネスパーソンに有益であると考えており、セミナーなどでもそう言ってきました。
ホームズの思考法はアブダクション(仮説的推論)と呼ばれるもので、ある現象を適切に説明できる仮説を導き出すというものです。
優れたビジネスパーソンは例外なくアブダクションの能力が高いと思います。
このアブダクションは会計の専門知識とは違った能力であり、アブダクションの能力を高めなければ決算書から意味ある情報を見出すことは難しいと思います。
アブダクションは場合によっては「こじつけ」と言われたりするものですが、適切な学習によってその技能を高めることが可能であると思います。
アブダクションについては、また別途に説明したいと思います。