2010年10月26日火曜日

書評-「ビジネスで一番大切なこと」②

ヤンミ・ムン教授のマーケット論の続きです。

現在のビジネスシーンでは差別化が行き過ぎて意味を失っているというのが彼女の主張でした。


・市場が成熟化しすぎると二つの傾向が表れる。一つは、競争が行き過ぎ過剰な活動が展開されて消費者の目に違いが見えなくなること、もう一つは、市場の成熟化で消費者にとってはそのカテゴリーのあらゆるブランド全体との関係になること。

・過度に成熟したカテゴリーに対する消費者の態度の5タイプ

①知識豊富なカテゴリー通  ;カテゴリーに強い愛着を持ち、目が肥えているが、特定のブランドを選ばない。

②目ざとい買い物上手  ;実利を重んじる取引志向の消費者。バーゲンやポイントに詳しい。

③関心の薄い現実主義者  ;ブランドの違いに無関心。習慣・価格・便利さによって購買を決定する。

④いやいや関わる不本意な人々  ;そのカテゴリーに渋々かかわっている。親近感の欠如は混乱、ストレス、気まずさとなって現れる。

⑤理屈抜きの熱心な愛好者  ;市場が過度に成熟するとこの手の愛好者はレトロに見えるが、どの市場でもわずかに生き残っている。


・市場が飽和状態になると、消費行動は製品やブランドではなく、カテゴリー全体との関係に左右されるようになる。ブランドロイヤルティはほとんど見られなくなる。

『競争の群れ』から抜け出すには3つの可能性がある。 ①リバース・ブランド ②ブレークアウェー・ブランド ③ホスタイル・ブランド


1、リバース・ブランド   家具メーカーのIKEAが好例。

・他社が競争には欠かせないとみなしている便益の提供を控える。

・余分なものをそぎ落とすが、予想もしない形でぜいたくなものに変える。

・ともすればしみったれた製品を独特のきらめきで取り囲む。

・期待するものを取り上げ、期待しないものを提供する。

・何かは足りないが何かは多い。共存は無理だと思うものが共存している。

・競合他社とは出発点がまるで違うからこそ、何年もの間、独自の差別化に成功している。


2、ブレークアウェイ・ブランド   ソニーの犬型ロボット AIBOが好例。

・AIBOはロボットではなく「ペット」と位置づけられたため、「20万円もしたのに性能が悪いロボット」と批判されず、「うちの子はわがまま」と顧客に愛着を感じさせた。

・意図的に製品を作りなおす。ロボットを提供するが、ペットとしての役割を果たさせる。

・新しい定義を通じて製品にアプローチするように顧客に働きかける。

・カテゴリーの境界線から飛び出そうとしながらも、その一員でいるメリットを理解している。

・スウォッチは、季節ごとのコレクション提供・セレクトショップ・芸術家によるデザイン等、ファッション業界で当たり前のことを時計業界で行った。

・スウォッチはカテゴリーの境界線から飛び出そうとしながら、その一員としての恩恵にもよくしていた。

・歩幅をギリギリまで広げる。カテゴリーから外れない範囲で原形をとどめようとする。

・枠組みを変えると違うタイプの行動を呼びさまされる。

・日常的に消費されている商品のほとんどには別の形がありうる。


3、ホスタイル・ブランド  ミニ・クーパー、ベーシング・エイプ(日本のファッション・ブランド)が好例。

・消費者にこびず、その気がないふりをする。

・消費者の意向にひるまないブランドは強い愛着を獲得する。

・自社製品の長所も短所もさらけ出し、もし気に入らないのならそれまでだと言ってのける。

・迎合や追従を拒み、製品のででこぼこを磨いて直そうとはしない。

・消費者の懸念に一切反応せず、市場のフィードバックにも反応しない。これ以上ないほど偏ったポジションをとる。

・愛憎の衝突するエリアで生計を立てている。

・希少性は重要を呼び起こす。


ムン教授は、「あらゆるビジネス戦略は最後には失敗する運命にある」という話を書いています。

ビジネスの世界では、どんな戦略であっても永遠を期待することはできないわけです。

ある程度の期間にわたって持続する競争優位を得られれば上出来と考えるべきであるというわけです。


ですので、差別化についても非常にドライな視点を持っているようです。

ただし、本書はエッセイ調で、非常に親しみやすく読みやすい本です。いわゆる「学者調」とは違いますので気楽に読めます。

ムン教授は、上記の3つの戦略は、厳密に考えないで良いとも言っています。アップル社などは、3つの戦略を同時につかっているとも述べています。

ここではカテゴリーを厳密に区分するよりも、ある程度の目安として考える方が有益でしょう。


教授の差別化論は斬新で、今後も引用されることが多くなるでしょう。