日経ビジネス2010.6.14号は人材育成の危機についての特集でした。
世代について1986年以降入社の「バブル入社世代」、1993年以降の「就職氷河期世代」、2008年以降の「ゆとり教育世代」にわけ、それぞれの問題点を浮き彫りにするところから議論を進めています。
そのうえでリクルートワークス研究所の大久保幸夫所長の見解が紹介されているのですが、おおよそ次のような内容です。
・1980年代後半から大量採用したバブル入社世代が管理職として中ぶくれしている企業は問題。大手企業の約7割が当てはまる。
・バブル崩壊後の新卒採用抑制でバブル世代は部下育成の経験が少ない。
・40歳以降、部下育成が職務となったバブル世代が果たして対応できるかが課題。
・50代のベテラン社員と20代の若手社員が多いという組織は名門製造業に多い。このタイプの企業は技能伝承が課題。
・理想的には高年齢世代が少なく低年齢世代の多いピラミッド型がよい。高度成長期の日本企業の構造である。
・残念ながらピラミッド型企業は全体の2割にすぎない。
・日本企業の人材育成が弱体化したのは成果主義の弊害が大きい。部下育成は数ある評価項目の一つにすぎなくなった。
・組織のフラット化で課長が多くの部下を抱えることとなり、きめ細かな指導はできなくなった。
さて、ここで大久保氏が提案するのが、一部の大手総合商社がやっているように、部下の育成を担当する大ベテランのチューターを活用することです。
60歳近い大ベテランと20歳代の若手で店舗運営を任せたところ顧客満足度が大幅に向上した海外のスーパーの事例などが紹介されていました。
ところで、ドラッカーは成果の具体例として
・直接の成果
・顧客の価値にかかわる活動
・人材育成
の3つを上げています。
直接の成果は短期的視点、次の二つは中長期の視点に立つ今日の成果ということです。
人材育成は中長期の成果なのです。
そして、人材育成のポイントは本人の自己管理による目標管理制度であると述べています。
ドラッカーの目標管理制度はビジネス界で一般的に行われているものとは全く異なります。
まず、ドラッカーは「レベルを上げることは当人の責任である」という前提からスタートします。
目標管理は当人が自身が到達すべきレベルを決定し、その結果を本人にフィードバックし、それを踏まえて本人がよく考えて次の目標を設定するPDCAサイクルを回すという、あくまで自己研さん支援システムであるということです。
ドラッカーはこのシステムを直接処遇に結びつけることは問題であると考えているわけです。
ドラッカーのマネジメントの基本形を簡単に示すと
①組織(チーム)全体で大きな成果を上げる ⇒ ②成果に対する貢献度に応じて配分を受ける
となります。
多くの企業の目標管理制度が①を達成できない状況で、②を行おうとするための言い訳の道具にされてしまっている点が問題になるわけです。
ドラッカーは「目標管理制度は不況期に採用してはならない」と述べていますが、こうした事態を懸念してのことであると思われます。
全体成果が出なければ、どれだけ1個人ががんばっても報われないわけです。
ドラッカー流目標管理制度では、各人が組織全体の方針を適切に理解し、自身が適切にレベルアップしていけるように研さんの目標を立てなりません。
大ベテラン社員がチューターとして付く仕組みが機能するためには、この視点が抜けてはならないように思われます。