2011年3月9日水曜日

脱・トヨタ生産方式-現代の方向転換

すでにご覧の方も多いかと思いますが、YaHoo!ニュースによると、現代自動車がトヨタ生産方式を手放すという記事が取り上げられていました。

現代の洗練されたデザインの車
記事の書き手は井上久男氏です。     

これは、日本の生んだ、最も強力なビジネスモデルについての話ですから見逃すわけにはいかないと思います。


記事の骨子は以下の通りです。


・最近、現代自動車が躍進しているが、その秘密はトヨタ生産方式(TPS)を捨てて、自前の方式を編み出したことにあると思われる。


・現代は90年代まではトヨタに追いつくことが目標で、「カイゼン活動」などを積極的に導入した。


・00年以降、大きく方針転換した。理由は雇用慣行・労使関係など基本条件がトヨタと違うため、同じ手法を導入しても現場が混乱するだけで、かえって製品に不具合が生じる傾向にあった。




・TPSでは「カンバン」などの方法論が注目される。これは長期雇用・労使協調・徹底した人材育成による動機づけなどトヨタの雇用慣行という「基本ソフト」の上に成り立つシステム。


・チームワークを大切にし、終業後にサービス残業で居残ってまでも同じ班で話し合いをしながら生産性向上のための提案活動を行う。こうしたプロセスで、作業者は熟練度を高め、同時に複数作業をこなせる多能工となる。




・現代では労使対立によるストが発生する。その他、各種労働条件がTPSが機能しにくい状況を作り出している。




・多数の企業がTPSの導入に失敗した理由について90年代後半にハーバード大のケント・ボウエン教授による論文があり、注目を集めた。
トヨタのTPSが他社で難しい理由は、長年トヨタがつちかってきた遺伝子(DNA)の有無の違いであるという内容であった。


・日本でもTPSの導入失敗例は多い。日本郵政ではTPSの導入が現場の混乱を招き、それが原因で遅配等のトラブルが続出したとされる。
その他、TPSのコンサルティングに多額の費用をかけて成果が得られない企業は多い。




・現代の新しい生産方式では、作業者にカイゼン活動を極力させないことにしている。
トヨタでは製造工程で品質を作りこむため、作業者が知恵を出し合いカイゼンする。
現代では作業者は指示された仕事をこなすだけで良い。その代わりカイゼン担当者を置き、そこにエリートを投入する。




・生産現場ではリモートコントロール方式を導入。ビデオカメラを大量に設置し、不具合があるとカイゼン担当者がリプレイして作業をチェック。問題の原因究明を行う。


・さらに常識と異なり、工程数を増やしてラインの長さを長くした。おかげで一工程当たりの仕事は単純化され、1人の作業者は複雑な仕事をしなくて済むようにした。
現代の1ラインの工程数は、日本のメーカーの二倍の300近くある。


こうした独自の生産スタイルによって現場の混乱が減り、品質が飛躍的に向上したといわれています。
経営について自分の頭で考え、自分の会社に合うように編み出していくことは経営の基本。「コンサルに丸投げ」で良い結果が出ると考えることが根本的な間違いということのようです。


これはかなり深刻な指摘で、現実にトヨタ生産方式でうまくいっている企業の方が少ないのではないかと思います。

経営戦略家のマイケル・ポーターは、活動システム図を使って、強いビジネスモデルにはそれを支える複雑な要因の総合関係があり、一朝一夕ではまねできないということを述べています。

まさにその実証例と言えると思います。

ちなみにトヨタはデザインでは現代に負けているという認識があるそうで、だいぶアセりをかんじているとのことでした。



(浅沼 宏和)