昨日に引き続き、石田梅岩の都鄙問答に収録されているエピソードです。
ある屋敷に出入りしている絹商人が2人いました。
新しく出入りを望む商人が現われ、ためしに絹の見積もりをさせてみたところ、かなり安い金額で見積もりを出してきました。
それを見たお屋敷の担当者は非常に怒り、2人の出入り商人を呼びつけて、「お前たちの見積もりは法外な値段であった。なぜか説明せよ。」と問い詰めました。
1人目の商人は
初めて出入りする者は損をしてでも取引をしようとします。しかし、それを続けることはできませんから次第に値段をあげていくものなのです。
と答えました。
もう1人の商人は
贅沢を好んだ愚かな父が多額の借金を残して逝ったため、運転資金が思うように工面できません。
そのため、仕入値も相手側の言うことを飲まざるを得なくなってしまいました。
高価な品を納めることになってしまったことは誠に申し訳ございませんでした。
家財を売り払い、借金を軽くしますので、その折には改めて取引を続けていただきたいのです。
屋敷の担当者は両者の答えを聞き、「損して得取るのは商人の常識」といった商人を出入り禁止にしました。
屋敷の担当者は、身を粉にして働き、親の借金を返済しようとしている姿が正直で神妙であると考え、資金も援助して正直者の商人を育ててやろうという話になったのです。
商道徳という者は商人だけのものではなく買う側の視点もあるのだということを感じさせるエピソードです。
(浅沼 宏和)