CSR(社会的責任)の議論が活発化する中で、江戸時代に町人のための学問、石門心学を広めた石田梅岩の著作が注目されています。それが都鄙問答です。
この著作では商売の正しい道、いわば商人道についてわかりやすく解説してくれています。
いつか整理してブログに書きたいと思っていますが、私が現代語訳して少しご紹介します。
(弟子)
商人にはどん欲なものが多く、彼らは常に利益をむさぼります。
商人に無欲であることを教えようとするのは、猫にかつお節の番をさせるのと同じです。
彼らに学問を教えるのはムダなことです。
それでも教えようとする先生は間違っているのではないですか?
(梅岩)
『商人の道』を知らない者は、利益をむさぼったあげく家を滅ぼしてしまいます。
商人の道を知れば、欲得の心ではなく、仁の心をもって仕事に励みますし、また道理にかなっているゆえに商売も繁盛します。
これが学問の徳というものです。
(弟子)
では、売るときに利益を得ないで元の値段のまま売ることを教えるのですか?
利益を取らないことを学びながらも、実際には陰で利益を得るならば、本当の教えとは言えず、偽りの教えを強制することになるのではないでしょうか?
なぜならもともと利益を取らないことを強いているわけですから、つじつまがあわなくなるのではないでしょうか?
商人であって利欲の心がないという話は聞いたことがありません。
(梅岩)
決して偽りの教えではありません。
君主に仕える者が数多くいますが、俸禄(給料)を受け取らないで仕えている者がいるでしょうか?
(弟子)
それはありえないことです。
古来から聖人といえども俸禄を受けないことは礼にかなっていないとされています。
これは受け取ることが道であるから受け取っているわけですから欲得の心とは言えません。
(梅岩)
利益を得るのが商人の道です。
元値で売ることを道という話は聞きません。
利益を「欲」というのならば、孔子は子貢をどうして弟子にしたのでしょうか?
子貢は孔子の教えを商売に用いました。子貢も給金がなければはげむことができないでしょう。
商人の利益は武士の俸禄と同じです。商人に利益がないということは、武士が俸禄なしに主君に仕えることと同じなのです。
この問答には石門心学の基本的な考え方がよく表れていると思います。
商人(ビジネスパーソン)が利益をあげるのは当然なのです。ただ、その利益を得る方法は倫理的でなければならないということです。
私はドラッカーのマネジメントというものが、社会にプラスをもたらすことで利益をあげるという考えが底辺にあると思っています。
せっかくCSRについての認知度も高まってきたことですし、石門心学も再評価されてもよいのではないかと思います。
(浅沼 宏和)