W.チャン・キム&レネ・モボルニュ『ブルーオーシャン戦略』講談社、2005年 定価1,995円
数年前の本なのですが、最近、戦略論の書籍を良く取り上げていますので、本書の提唱する有名なブルー・オーシャン戦略について検討してみたいと思います。
現在のように市場が成熟してくると、同じ市場において、同じような商品でライバルと戦うこととなりますが、そうした競争は“消耗戦”となりがちです。
本書ではそのような血みどろの戦いが行われる既存の市場を「レッド・オーシャン(血に赤く染まった海)」と呼びます。
著者たちは、コスト削減や差別化等の戦略は、レッド・オーシャンの場合の戦略であると考えています。
それに対してブルー・オーシャンというのは未だ生まれていない未知の市場のことで、それを開拓すれば新たな需要が掘り起こせます。
たとえば有名なパフォーマンス集団であるシルク・ド・ソレイユは、サーカス業界という斜陽産業において、世界中の観客をひきつけるサービスを提供することに成功した事例がブルー・オーシャンです。
シルクが登場する前は、サーカス団は変わり映えのしない演技で縮小傾向にある市場で競争していました。
シルクは、サーカスの楽しさと興奮に加えてパフォーマンスとしての洗練さ、豊かな芸術性を追求してサーカス・ファン以外の普通の大人の観客をひきつけることに成功しました。
それは従来のサーカスの概念とは異なる全く新しい概念だったのです。
また、日本のQBハウスもブルーオーシャンとして紹介されています。QBハウスは「千円カット」で有名になった会社です。
同社は洗髪・肩もみ・予約などのサービスをやめて、カットだけに専念することで従来1時間程度かかっていた散髪時間をわずか10分程度にまで短縮しました。
これは従来全くなかった価値を提供したものであり、斜陽産業である理容業界において同社は急成長を遂げることができました。
著者たちによれば、優れたブルー・オーシャン戦略には、「メリハリ」「高い独自性」「訴求力のあるキャッチフレーズ」という3つの特徴があるといいます。
これらを備えているかが、ブルー・オーシャン構想の成否を推し量る判断基準となるわけです。
このブルー・オーシャン戦略を策定する際には4つの原則に従うべきといいます。
①市場の境界を引きなおす: 代替産業や先進企業に学び、既存市場の枠組みにとらわれずに業界の境界を再検討する。
②木を見ず、森を見る: 大局的見地から戦略を考える。
③新たな需要を掘り起こす: 顧客以外の層に目を向ける。
④正しい順序で戦略を考える: 買い手にとっての効用⇒価格⇒コスト⇒実現手段 という順番で戦略を築いていく。
簡単に書いているので、差別化との違いがよくわからないかもしれません。
ポイントは市場のとらえ方にあるようです。
同一市場におけるポジションの取り方が差別化であり、市場の境界線を引きなおすことで従来の競争関係を全く無効にしてしまうのがブルー・オーシャンというわけです。
初期のころのスターバックスもブルー・オーシャンであると思います。
ポイントはコーヒーを飲む喫茶店というカテゴリーの中で競争するのをやめて、洗練された空間で過ごす憩いのひと時を提供する対価として料金を定めることで、単なる喫茶店と比べるとはるかに高額な価格を設定していることがそれに当たると思います。
しかし、ブルー・オーシャンは永遠には続きません。著者たちは平均して15年程度でその独自なポジションは失われるといいます。
企業経営とはこうして次々と新たな戦略を策定し実行していくプロセスであるということなのでしょう。
ブルー・オーシャン戦略は、1980年代に全盛であったポーターの競争戦略論への批判として提起されたものです。
ポーターは、差別化と低価格戦略は両立しないといいますが、ブルー・オーシャンでは両立可能とされています。
実はポーターも一定の段階までは差別化と低価格は両立すると考えているようですので、この論点についてはまた別の機会に考えてみたいと思います。