内田和成『異業種競争戦略』日経新聞社、2009年 定価1,785円
内田和成氏は元ボストン・コンサルティング・グループの日本代表で、現在は早稲田大大学院教授です。
近年では業界の境界線を越えた顧客の奪い合いが激化しています。
内田氏はこうした異業種間の競争に対処する戦略的方向性を示しています。
本書は大変興味深い内容なので2回に分けて検討したいと思います。
従来の市場に全く異質な企業が入り込んで市場をかき回す状況を、内田氏は「異業種格闘技」と呼びます。
異業種格闘技の定義は、①異なる事業構造を持つ企業が ②異なるルールで ③同じ顧客や市場を奪い合う競争 というものです。
異業種格闘技が増えたのは、経済が成熟化したため企業の成長には新規事業をやるか新市場に進出するしかなくなったためです。
こうした状況を分析するためには「事業連鎖」と「ビジネスモデル」の2つの視点がカギになるといいます。
まず、事業連鎖とは原材料・部品の調達から消費者に至るまでの大きな価値連鎖(バリューチェーン)のことです。
自社だけではなく、川上から川下に至るまでのすべての事業連鎖に目を向けると異業種格闘技がどこで起きるか、どんな競争相手が現れるかを知ることができます。
カメラ業界を例にとって説明します。
カメラに最初に起きた変化は「使い捨てカメラ」の登場です。
これによってフィルムとカメラが一体化しました。つまりフィルム会社とカメラ・メーカーの異業種間競争が始まったわけです。
次に、現像と焼き付けを同時にできる「ミニラボ」の登場です。
従来までの「取次店→現像所→取次店」という3段階のプロセスが、「ミニラボのある店」という1段階で済むようになりました。
最後に「デジタルカメラ」の登場です。
フィルムがメモリーカードに代わり現像の必要がなくなり、焼き付けも自宅のプリンターでできるようになりました。
ほぼ並行して携帯電話で写真を撮ることが当たり前となり、コメントを付けることも当たり前になりました。
以上がここ20年で起きたカメラをめぐる変化ですが、事業連鎖からみて5つの視点で分析できるといいます。
1 置き換え
置き換える側の企業はチャンスで、換えられる企業は一大事。例:フィルムとメモリーカードの置き換え
2 省略
省略が起きるとそこで稼いでいた企業が従来のビジネスを続けるのが困難。例:現像の省略
3 束ねる
2つ以上の機能が1つに束ねられる。束ねられる機能で稼いでいた企業はピンチ。例:現像所がミニラボのある店に束ねられた。
4 選択肢の広がり
従来1つしかなかった機能がいくつにも分かれる。例:写真をPCやテレビで見たりウェブに乗せたりできるようになった。
5 追加
新しい機能の追加。例:画像データをメールで送ることができるようになった。
これら5つの視点を使えば業界に今起きている変化やこれから起きる変化を見極めることができるといいます。
事業連鎖が重要なのは、自社を超えた広い視点で業界を見ないと足元をすくわれる可能性があるからでしょう。
また事業連鎖を意識することはドラッカー経営においては「顧客が何に対価を払っているか」を知ることにもつながります。
顧客はカメラやフィルムや現像サービスを購入しているわけではなく、画像を楽しむという価値を買っていることに気づく必要があるということでしょう。