ドラッカーの主張する企業の基本的機能の二つ目がイノベーションです。
ドラッカーはマーケティングだけでは企業としての成功はないといいます。
そもそも企業が存在することができるのは成長する経済においてです。
少なくとも、変化を当然とする経済でなければならないわけです。
ですからドラッカーは企業を成長と変化のための機関として位置付けます。
そして、イノベーションとは新しい満足を生み出す活動と考えます。
ドラッカーはイノベーションに関して次のように述べています。
企業そのものは、より大きくなる必要はないが、常によりよくならなければならない。
‥‥イノベーションの結果もたらされるものは、よりよい製品、より多くの便利さ、より大きな欲求の満足である。
(『エッセンシャル マネジメント』p.18)
ここで誤解しやすいのは、イノベーションというものが何らかの高度な技術や発明に関するものと思ってしまうことです。
イノベーションというのは経済や社会に変化をもたらすものです。
ドラッカーはわかりやすい例として次のような話を上げています。
既存の製品の新しい用途を見つけることもイノベーションである。イヌイット(エスキモー)に対して凍結防止のためとして冷蔵庫を売ることは、新しい工程の開発や新しい製品の発明に劣らないイノベーションである。
それは新しい市場を開拓することである。凍結防止用という新しい製品を創造することである。
技術的には既存の製品があるだけである。だが経済的には、イノベーションが行われている。
(『エッセンシャル マネジメント』p.18)
そしてこのイノベーションもマーケティングと同じように企業の全活動に及ぶものと見なければならないといいます。
単に研究開発部門が行う部分的な職能ではないのです。
イノベーションは、人的資源や物的資源に対し、より大きな富を生み出す新しい能力をもたらすことでもあるのです。
つまり、会社全体で神経を集中させて社会のニーズを事業機会としてとらえる活動がイノベーションになります。
ドラッカーは、マーケティングとイノベーションだけが企業に顧客の創造という成果をもたらすものであると指摘しています。
イノベーションがないということは、社会が変化しているにもかかわらず会社が変化していないことを示しています。
このような会社が長期的に存続できないのは当然と言えるでしょう。