次に、スターバックスの戦略ストーリーを見てみましょう。
ドトールコーヒーは低コストに競争優位を求め、低価格でおいしいコーヒーが飲めることが売りになっています。
これに対してスターバックスは顧客が払ってもよいと思う金額の水準(Willing to pay: WTP)を高めることを競争優位の目標においています。
顧客がより高い金額を支払ってもよいと考える理由があるということは、スタバにはそれだけのプラスアルファがあるということです。
その本質となるコンセプトは「第三の場所」というコンセプトにあります。
これは職場でも家庭でもない、第三の場所という意味です。
スタバの創業者のシュルツ氏は、過剰な緊張を伴う社会となったアメリカでは、職場での競争のプレッシャーが強く、家庭でもいろいろな問題があると考えました。
そうした状況にある人々に、「第三の場所」を提供しようと考えたのだそうです。
ドイツにはビアホールがあり、イギリスにはパブがあります。フランスやイタリアにはカフェがあります。
ヨーロッパには『人々が安心して集える避難場所』が確立しているのにアメリカにはない。
そこにシュルツ氏はビジネスチャンスを見出したのです。
こうした競争優位とコンセプトを支える構成要素は次のようなものです。
1 店舗の雰囲気
ゆったりとリラックスのできる雰囲気の店舗は「第三の場所」を実現するのに不可欠です。
間接照明、緩やかなBGM、座り心地の良い大きめのソファー、1人当たりの広い面積
音を立てないために紙コップ等を使う配慮
2 出店と立地
プレミアムな場所(銀座・丸の内・大手町・六本木など)への集中出店。
後にはいろいろな場所に出店したが、当初は高級なイメージを与える場所にだけ出店していた。
オフィスで神経をすり減らしているビジネスパーソンが「第三の場所」でくるとぐというストーリーを描いているため、入店してくるまではお客さんがなるべくハイテンションになっている場所を選んでいる。
特定の地域には特に集中させて(クラスタリングという手法)、店舗そのもののイメージをお客さんに植え付けるというプロモーション手法をとっている。そのかわり広告への投資を抑えている。
3 オペレーション形態
原則として店舗はすべて直営方式を採用。
「第三の場所」というコンセプトを実現し、維持するためにはサービスの様々な側面で細かいコントロールが必要となる。そのためには直営方式の方が便利。
4 スタッフ
スターバックスでは店舗のスタッフを「バリスタ」と呼ぶ。
訪れるお客さんをほっとさせるバリスタの振る舞いが特に重要となる。
バリスタはおいしいコーヒーを入れるだけではなく、お客さんとのコミュニケーション、気の利いた応対や珈琲についての深い知識の提供なども求められている。
5 メニュー
高品質のコーヒーは「第三の場所」であることの必須条件。
こだわりの豆、訓練されたスタッフが標準化されたプロセスで、お店ごとの質のばらつきをなくしている。
メニューには、ラテ、カプチーノ、マキアート、コンパナなどアメリカ人には聞きなれない商品を取り入れた。「普通のコーヒー」という印象を前面に出さないことで、「第三の場所」としての印象をより深めている。
フード類にはあえて力を入れていない。力を入れるとドトールのように「効率的な食事場所」という印象を与えてしまうリスクがある。
長期的な顧客価値増大のために短期的利益を犠牲にしている。
これら5つの構成要素はいずれも重要で、それぞれが相互にパスを出し合いながら「第三の場所」というコンセプトを力強く支えるストーリーとなっています。
(浅沼 宏和)