深田和範 『マネジメント信仰が会社を滅ぼす』新潮新書、2010年 (定価 714円)
深田氏は、昨今のドラッカー・ブームに対するアンチテーゼ(批判)というようなものを本書によって提起しています。
私もドラッカーを読みこんできただけに、深田氏のマネジメント批判を良く理解したうえでコメントする必要があると感じました。
まず、深田氏の意見について何回かに分けて解説していきたいと思います。
ただし、この時点で深田氏の基本的な問題点を指摘しておこうと思います。
深田氏はドラッカーのマネジメント論を詳細には読んではいないと思われます。
本書の中で深田氏は次のように述べています。
‥‥ちなみに、ドラッカーの著書の中では、「マネジメント」は「ビジネスを管理する活動全般」と、また「ビジネス」は「事業」という意味で用いられている。
これは深田氏の明らかな読み誤りです。
私がドラッカーのほとんどの著作を繰り返し読み、内容を比較検討して見つけたドラッカーによるマネジメントの定義とは
組織・個人が成果をあげるための取り組みのすべて
です。深田氏のいう「ビジネス」もドラッカーのマネジメント概念に含まれています。
データエージェント社から明日(2月1日)刊行される拙著「実践!ドラッカー経営入門」でも明らかにしているように、ドラッカーは重要な用語について文脈に応じて広い意味とせまい意味を使い分けて使用しているのです。
深田氏はこの点に気づいておらず、特定の文脈におけるドラッカーのマネジメントの定義を理論全体に拡大しているため、明らかにドラッカー理論を理解しそこなっています。
ですが、深田氏の意見は、多くの経営者がドラッカーのマネジメント論を理解しそこなってテクニックに走る状況への批判ですので、結局は「本来の意味でのドラッカー経営を実践せよ」といっていることになります。
ドラッカーは本腰を入れて著作を読まないと、簡単に読み違えてしまいます。だからこそ丁寧に読んでいく必要があると思います。
(浅沼宏和)