吉村仁『強い者は生き残れない』新潮社、2009年 定価1,260円
生物学ないし進化論の観点からビジネスをとらえた本です。
非常に面白い観点なのでご紹介します。
強いものではなく、環境変化に対応できた者が生き残る。
生物にとって最も大切なのは変動する環境の中で生き残ること。
そのために生物は「共生」したり「群れ」や「家族」といった協力体制を作ってきた。
人間社会ではまた「一人勝ち」を避けるための制度として民主主義が発展した。
人類の歴史は栄枯盛衰の繰り返し。文明の勃興期には人は国や民族のために利他的行動をとるが繁栄すると利己的行動をとる者が増えると考えられる。
経済学でゲーム理論がはやっているが、これは間違い。ゲーム理論は成員(プレーヤー)がすべて利己的行動をとると仮定されている。成員に内面化されている社会規範による制約が考慮されていないのは間違い。
社会的な足かせがないと仮定するゲーム理論が経済学に導入された結果、市場原理主義が台頭した。おかげでだれも勝てないような金融崩壊が起きた。
経済学が見落としているのが「富の有限性」。例えば漁業を自由化すると魚をとりつくし、後は船を売り払う戦略がベストということになる。
現在は「長期的利益」のために「短期的利益」の追求を控え、共同行動をとることが大切。最後まで生き残るのは進化史が教える通り「共生する者」である。
生物学の視点というのは意外に政治学・経営学・経済学といった社会科学の仮定として使えるんですよね。この本もそうしたものであるわけです。
こうした本を読み、マクロ的な状況を認識して、そこから足元を見つめなおすのもたまには必要でしょう。