2009年11月26日木曜日

書評「経営戦略の思考法」



「経営戦略の思考法 -時間展開・相互作用・ダイナミクス-」沼上幹、日本経済新聞社、2009年 定価(本体1900円+税)



沼上氏は一橋大大学院教授で気鋭の経営学者です。


本書はアカデミズムの視点と実務的視点のバランスを取りながら体系的にまとめられたすぐれた経営戦略論となっています。


本書は第Ⅰ部から第Ⅲ部に分けられており、それぞれ、従来の経営戦略論の整理、戦略思考の解剖、戦略の実践について書かれています。

私は本書の最大の有用性は第Ⅰ部にあると考えます。


沼上氏は第Ⅰ部において、従来の経営戦略論を①戦略計画学派 ②創発戦略学派 ③ポジショニング・ビュー ④リソース・ベースト・ビュー ⑤ゲーム論的アプローチ の5つに類型化しています。

この5類型は沼上氏の大きな知的貢献であると思います。


①の戦略計画学派の代表選手はアンゾフで、一般的にイメージする事前に詳細に作成する経営計画はこのイメージになると思います。


②の創発戦略学派の代表選手はミンツバーグであり、現場からボトムアップ的かつ事後的に形成されてくる戦略という視点です。


ミンツバーグは世界的には有名ですが、日本においては一般によく知られているというほどではありません。

私はかねてよりミンツバーグの著作を愛読しており、その評価が高まらないことを不思議に思っていました。

本書で沼上氏がボトムアップ型の創発戦略を戦略計画学派に対抗する位置付けを明確にあたえている点に深く共感を覚えます。


③のポジショニング・ビューはポーターの競争戦略論が代表で、④のリソース・ベースト・ビューは、プラハラードとハメルの「コア・コンピタンス」概念に代表される企業独自の資源(=強み)に焦点を当てた戦略論です。

最後のゲーム論的経営戦略は、最近の経済学の流行を取り入れた最新の理論動向といえるでしょう。


戦略論の概念整理については②の代表選手であるミンツバーグの著作「戦略サファリ」が従来もっとも重要といえるものでした。
そこでは経営戦略論を10もの学派に類型化しています。

しかし、あまりに類型が多すぎて実用的ではないという印象がありました。

その点沼上氏の類型化はシンプルかつ明確であり有用性が高いと思われます。


沼上氏はそれぞれの戦略タイプをお互いに補完しあう関係にあると考えており、その点で実務的な側面への貢献も大きいと思います。


私見ですが沼上氏の5類型のうちゲーム論的アプローチ以外の4つの類型はすべてドラッカーの経営理論の中でバランス良く取り扱われていると思います。


ドラッカーは手順にのっとって戦略計画を作成することも重視しています。

また現場の状況をよくくみ取って計画を修正していく柔軟さも持ち合わせています。

これは創発戦略学派の視点と調和します。


また「強み」を重視する点においてハメルとプラハラードと同一線上にありますし、市場の中におけるポジショニングの視点はポーターと重なる部分でしょう。


沼上氏の著作を読むとドラッカーの偉大さが改めてわかる気がします。