本屋さんで、マイケル・ポーターの競争戦略の実践的活用法について書かれた本が出ているのを見つけました。
しかも、マイケル・ポーター自身の協力によるものです。この春にポーターの入門書を書いた私としては読まないわけにはいきません。
一気に読みましたが名著です。強く推薦します。
〔エッセンシャル版〕マイケル・ポーターの競争戦略
ジョアン・マグレッタ 著、 マイケル・ポーター(協力) 、櫻井 祐子 (翻訳) 、早川書房、2012年
私は執筆にあたりポーターの古い著作から近著を比較検討して、自分なりのポイントを見つけて整理を行いました。
本書はポーター自身が関わっていますので、そこに書いてある内容が私と全く違ったらどうしようとドキドキしました。私自身が一般的なポーターの理解とは違ったことも書いていたからです。
しかし、私の仮説の多くは間違っていないことがわかり、ホッとひと安心しました。
また、現在、ポーターについてのセミナーをやっていることもありますので、大いに参考になる部分もありました。大変良い本が出たものと思います。
細かくなりすぎてもなんですが、私がポーター理論のポイントと考えており、また、本書で確認できたものを幾つか書き出します。
1:ポーターの競争戦略論は世間のイメージとは違い、実際には柔軟なフレームワークである。特にブルーオーシャン戦略を提唱したチャン・キムやモボルニュはポーター理論を誤解しており、その話を真に受けた多くのコンサルタントも「もはやポーターは古い」と思い込んでいる。
2:ポーターの業界の捉え方は初期の「競争の戦略」の時に比べ柔軟になっている。業界の境界線は①地理的範囲 ②製品サービスの範囲 に注目すれば自社に戦略構築に意味有る分析ができる。
3:ポーターの活動の定義は、組織図上の職能より範囲が狭い。また、バリュー・チェーンは「競争優位の戦略」に図式化されたものを踏襲する必要はなく、自社の具体的な活動から書き出せば良い。
4:競争優位を作り出す活動システムは同じ会社について書きだしてみても人によってまとめ方が違う。だから、ポーターの著作に例示されているものと全く違った図解を行なっても問題ない。
5:戦略は事前に全て計画してから実行するという誤解がある。ポーター自身も戦略は大きな方針のもとに試行錯誤しながら生み出されるものと判断している。
しかし、私がずっと気になりつつも本書では確認できなかったことは、ポーターの理論はドラッカーのマネジメントにだんだん近づいてきている。ポーターはドラッカーの著作の影響を受けているのではないかということです。戦略論だけではなく社会的責任についてのスタンスが極めて似ていると思っています。
もちろんドラッカーを元にしつつも明らかにポーターが優れている点もたくさんあります。コア・コンピタンス(強み)やマーケット・シェアなどの意味についてはドラッカーが曖昧にしているところをズバリと解説しています。
しかし、私はドラッカーとポーターは実践レベルでは相性の良い理論であると思います。
本書は翻訳書で、少し読みにくい文体ですが、ポーター理論を知ったつもりになっている人には一度読んでいただきたいと思います。
(浅沼宏和)